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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第20話 無自覚な憎い人 ――臨海学校おわり。帰りのバスは、恋の渋滞――

朝の天橋立は、やけに静かやった。

 空は澄んでる。海も穏やか。

 せやのに――

(……頭、全然動かへん)

 高台寺寧々は、集合場所へ向かいながら、無意識に瞬きを繰り返していた。

 寝不足。

 理由は分かってる。

 分かってるけど、認めたら負けな気がして、口には出さん。

 籠神社。

 星。

 掴んでしもた腕。

 鼻歌。

(……最悪)

 そんな状態で、帰りのバス。

 恋してる女子に、優しくないスケジュールや。

「ほな、班ごとに並べー。忘れ物すんなよー」

 先生の声は、昨日より一段低い。

 たぶん、先生も寝不足。

■ 寧々:朝一で“善行”は反則やろ

 バスの列へ向かう途中、

 寧々は、立ち止まった。

 前を歩いてた女子が、カバンを落とした。

 紐がほどけて、中身が散らばる。

「あっ……」

 一瞬の間。

「大丈夫?」

 しゃがんだのは――

 羽柴秀吉。

 教科書を拾い、ノートを揃え、

 当たり前みたいに差し出す。

「角、折れてへん? これ、提出用やろ」

 声も表情も、いつも通り。

 女子は、顔を赤くして頭を下げた。

「ありがとう……」

「ええよ。紐、ここ結び直したら落ちひん」

 結び方まで教えてる。

 その光景を見た瞬間、

 寧々の指先が、カバンの紐を強く掴んだ。

 ぎゅっと。

 白くなるほど。

(……やめろ)

 心の中だけで、短く呟く。

 秀吉が振り返る。

「寧々、並ぶで」

「……並んどるわ」

 声、ちょっとだけ荒れた。

「声でかい」

「うるさい!」

 カバンの横で、パーサ君とコトノちゃんが小さく揺れる。

 それが、やけに目についた。

(あかん)

 胸の奥が、ざわつく。

 優しいのは知ってる。

 でも、それを朝一から見せんといてほしい。

■ 竜子:静かな違和感の正体

 京極竜子は、少し後ろから、その場面を見ていた。

 胸の奥が、きゅっと縮む。

(……なんやろ)

 昨日も優しかった。

 歩幅を合わせてくれた。

 足元に気ぃつけや、って言うてくれた。

 それやのに――

 他の女子に向けられるその仕草を見た瞬間、

 胸の奥に、冷たい風が通った。

(……)

 理由を考える前に、分かってしまう。

 嫉妬。

 そう気づいた途端、

 さっきより、息が浅くなる。

 竜子は、そっと視線を逸らした。

 見続けたら、平静を保てへん気がしたから。

■ バス:自由席は、恋に残酷

 バスに乗る。

 座席は自由。

 それだけで、空気が張り詰める。

「秀吉、隣」

 寧々が、早い。

「こっち、空いてる」

 竜子の声は静かやけど、逃げ道を塞いでる。

 秀吉は、ほんの一瞬、固まった。

「えっと……」

 後ろから、まつ。

「そこで迷ったら、全員に刺されるで」

「刺すな」

「刺す。女子は刺す」

 利家が、無邪気に割り込む。

「じゃんけんで――」

「黙れ」

 三人同時。

 その瞬間、先生の怒号。

「早よ座れー!」

 秀吉は、小さく息を吐いて、

「……今日は、窓側がええ」

 空いてる席に、すっと座った。

 逃げ。

 完璧な逃げ。

 寧々と竜子、同時に止まる。

 そして、同時に、胸の奥がざらつく。

「なんで窓側」

「……なんで窓側なん」

「景色、見たいんちゃう?」

 まつが淡々と返す。

「景色で逃げるな」

「逃げ場に使うな」

「今は景色の話ちゃう」

 車内が、朝から騒がしい。

■ 寧々:憎い、の正体

 バスが動き出す。

 天橋立が、ゆっくり遠ざかる。

 寧々は、シートに深く座り直した。

 視線は前。

 でも、意識は――秀吉の横顔。

 眠そうで。

 何も考えてなさそうで。

(……ほんま、憎い)

 昨日の夜も。

 今朝も。

 勝手に心臓を振り回してくる。

 なのに、本人は何も知らん顔。

 寧々は、唇を噛んだ。

 涙が出そうになるのを、ぐっと堪える。

(泣いたら負け)

 でも、もう勝負ついてる気もして、

 余計に腹が立った。

■ 竜子:燃え続ける火

 竜子は、窓の外を見ていた。

 でも、景色は頭に入ってへん。

 浮かぶのは、

 さっきの手。

 昨日の声。

(……こんな自分、知らん)

 独占したいなんて、思ったことなかった。

 せやのに今は、

 誰にも向けてほしくない、と思ってしまう。

 その感情を、竜子は否定せえへん。

 否定した瞬間、もっと苦しくなるって、分かってるから。

■ 無自覚な人は、今日も通常運転

 その頃、当の本人。

 秀吉は、窓にもたれて、目をこすった。

「……ふふ」

 小さく、鼻歌。

 昨日の旋律――シリウス。

 それだけで、

 二人の胸が、同時に跳ねる。

(やめて)

(やめて)

 心の中で思うのに、

 止めてほしくない自分もおる。

 まつが、小声で言う。

「……二人とも、顔うるさいで」

「顔はうるさない」

「うるさいわけない」

「ある。恋してる顔は、だいたいうるさい」

 まつは冷静。

 その冷静さが、逆に救いやった。

 バスは、桂川へ向かう。

 日常が、少しずつ近づく。

 でも――

 寧々と竜子の胸の中では、

 もう戻られへん火が、燃え続けていた。

 秀吉は、まだ知らない。

 自分の優しさが、

 同じ教室で、火を噴くことを。

 そして二人も、まだ知らない。

 この恋が、

 もっと逃げ場のない場所で、ぶつかることを。

 ――無自覚な憎い人は、今日も通常運転。

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