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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第2話 入学式、クラス発表、そして地雷原

春の桂川高校は、

無駄に広い校庭に、無駄に多い新入生を詰め込み、

無駄に長い校長の話を聞かせる場所やった。

「えー、新入生の皆さん。

本校は――」

(始まった……今年も地獄や)

羽柴秀吉は、体育館のパイプ椅子に座りながら、

すでに魂を半分抜かれていた。

前の席には、前田利家の背中。

でかい。とにかくでかい。

横には前田まつ。

もう目が死んでる。

「なあ秀吉……校長、去年より長ない?」 「去年知らんわ」 「体感で言うてんねん」

まつが、小声で容赦なくツッコむ。

「校長の話はな、

“聞いてるフリ”が一番むずいねん」 「修行やな」 「せや、精神修行」

その瞬間、前の利家がガクンと揺れた。

「……おい」 「……寝てるな、あれ」 「開始五分で落ちるやつあるか」

まつが、利家の背中を指で突く。

「利家」 「……ん?」 「起き。校長のありがたい話や」 「……ありがた……ぃ……」

ガクッ。

「落ち直すな!!」

ツッコミが体育館に響きそうになって、

秀吉は慌てて口を押さえた。

(危ない危ない……まだ入学式やぞ)

視線を前に戻すと、

少し離れた家政科の列に、見覚えのある後ろ姿があった。

背筋ぴん。首きょろきょろ。

入学式中やのに、すでに周囲と喋ってる。

(あいつ……ブレーキ壊れてんな)

高台寺寧々。

一方、普通科の列のさらに前。

静かに座っている女子が一人。

姿勢がえらい綺麗で、

誰とも話さず、ただ前を向いている。

(……別世界の人やな)

その時点では、

それ以上でも、それ以下でもなかった。

地獄の校長トークが終わり、

ようやくクラス発表。

「普通科A組……」

掲示板前は、昨日の合格発表と同じくらいの人だかりや。

ほんま、人類は学習せえへん。

「A組……A組……」

秀吉、利家、まつ。

三人並んで、指で名簿を追う。

「あっ!」 「ん?」 「俺おる! A組!」 「声でかいわ!」

まつが即座に、利家の口を塞ぐ。

「秀吉もおる!」 「まつもおる!」 「よっしゃ!」

拳を合わせる三人。

「とりあえず、知り合いおるのは助かるな」 「せやな。

知らんやつばっかやと、初日から胃に穴あく」

――そこへ。

「うわっ! A組や!! 聞いて聞いて!」

背後から、聞き覚えありすぎる声。

「え、うそ、うちもA組!

運命ちゃう!?」

「運命の安売りすな!!」

振り返ると、案の定。

高台寺寧々が、両手を振って立っていた。

「秀吉くんやん!

同じクラスやで!」 「声量落とせ! まだ廊下や!」 「ええやん、春やし!」 「理由になってへん!」

利家が、ニヤニヤする。

「お、秀吉。

早速知り合い増えたな」 「増え方が雑やねん!」

まつは冷静や。

「……あんた、家政科やろ?」 「せやで?」 「普通科A組におるん?」 「混成クラスやしな!

料理も裁縫も、ついでに普通科も面倒みたるわ!」 「誰目線やねん」

この時点で、

寧々は“知り合い”や。

それ以上でも、それ以下でもない。

秀吉は、そう思ってた。

教室。

普通科A組。

担任が入ってくる。

「えー、担任の山城です。

出席番号順に自己紹介な」

(来た……)

人生でトップクラスに気まずい時間や。

一番手、利家。

「前田利家です!

スポーツ科でサッカーやってます!

身長190! よろしくお願いします!」

「身長いらんやろ!」 「自己紹介や!!」

次、まつ。

「前田まつです。

家政科料理コース。……以上」

「短っ」 「余計なこと言うと疲れる」

そして、秀吉。

「羽柴秀吉です。

普通科です。

サッカーやってました。

……今は、やってません」

(言い切るの、ちょっとしんどい)

一瞬、間が空いた。

「え、サッカーやってたん?

もったいなーい!」

寧々や。

「今から戻り! 戻り!」 「戻れるか!」

教室に、笑いが起きる。

(……助かったんか、これ)

最後に。

「京極竜子です。

普通科です。

よろしくお願いします」

声は小さい。

けど、すっと通った。

教室が、ほんの一瞬、静かになる。

(……なんや今の)

自己紹介やのに、

空気が、変わった。

けど、それだけや。

この時点では、まだ知らん。

この子が、

このクラスの“静かな爆弾”やってことを。

最初の休み時間。

「秀吉ー!」 「はいはい」

寧々は、もう来る。

「なあ、放課後どないするん?」 「どないもせん」 「そっけな!」

「まだ一日目やぞ!」 「一日目やからや!」

まつが割り込む。

「寧々、距離感」 「距離感は縮めるもんや!」 「縮めすぎや!」

利家は、ただ笑ってる。

(お前は黙っとけ)

秀吉は、窓の外を見た。

春の空。

まだ、何も始まってへん。

せやけど――

(……賑やかな一年になりそうやな)

それだけは、確信してた。

この時点ではまだ。

恋も、修羅場も、覚悟も、

影すら見えてへん。

せやけど――

京都の春は、だいたい裏切る。

それを、秀吉はまだ知らん。

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