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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第18話 星空と恋と肝試し大会 ――丹後一宮・籠神社へ行って、無事に帰ってきなさいコース――

天橋立国民宿舎、夜。

 消灯前の空気は、修学旅行特有の「どうせ誰かがやらかす」匂いで満ちていた。

「――ほな、これより肝試し大会を始めまーす」

 先生の声は驚くほど淡々としている。

 鴨川の冬の風くらい、感情がない。

「コースは丹後一宮・籠神社まで行って、御神木の前で班札と写真撮って帰ってくるだけ。以上」

「以上て!!」

 前田まつのツッコミが、体育館に反響した。

「由緒正しすぎる神社を“だけ”で済ますな!

 京都の神さんな、軽く扱うたら後でめっちゃ静かにキレはるんやで!」

「せやせや!」

 高台寺寧々も腰に手を当てる。

「籠神社て丹後一宮やろ?

 肝試しいうより反省会なるやつやん!」

「……でも、星空は綺麗そうやな」

 京極竜子がぽつりと言った。

 声は落ち着いているのに、指先がほんの少しだけ強張っている。

「京都市内やと、星よりネオンが勝つしな」

「星より客引きの目が光ってる街やからな」

「言い方!」

 まつが即ツッコむ。

 秀吉は、昼に天橋立でアカペラを歌って

 二人の心臓を撃ち抜いた張本人やというのに、

 今は何事もなかった顔で夜の準備をしていた。

 ――罪深いにもほどがある。

◆ 濃縮出汁みたいな班

 くじ引きの結果。

「A班、羽柴秀吉。高台寺寧々。京極竜子。前田まつ。前田利家」

「……濃っ」

 まつが天井を見上げる。

「この班、京都の出汁みたいやな。

 濃いのに、後味だけ上品ぶってくるタイプ」

「誰が上品ぶってるんや」

「お前や、秀吉」

「は?」

「は?ちゃうねん。

 その“は?”、将来口癖になるで」

「今はまだ口癖ちゃう!」

「細かいわ!」

 利家が無邪気に手を挙げた。

「なあ肝試しって、ゴールしたらラーメン出る?」

「出るかい!!」

「ここ海辺やぞ!」

「海鮮ラーメンなら……」

「ラーメン脳を海に沈めろ!」

 まつのノリツッコミが冴え渡る。

◆ 夜の天橋立は、普通に怖い

 外へ出ると、星が近い。

 松並木は黒い壁みたいで、砂利を踏む音がやけに響く。

「星、えぐいな……」

「京都市内やと、こんなん見えへんわ」

「四条通りは星より街灯が勝つ」

「河原町は星よりカップルの圧が強い」

「圧て何やねん!」

 竜子がふっと笑って、すぐ真顔に戻る。

 その一瞬の笑顔が秀吉に向いたのを見て、寧々の胸がきゅっと縮む。

(……落ち着け、寧々)

 寧々はカバンの横で揺れるマスコットを、そっと指で押さえた。

 パーサ君とコトノちゃん。

 ――それは、寧々にとって“救われた記憶”そのもの。

 隣を歩く秀吉は、何も知らない顔で言う。

「足元、滑るで。転ばんように気ぃつけや」

「……優しい顔して言うなや、腹立つ」

「は?」

「は?ちゃうわ!」

 自分で言うて、自分で照れて、

 寧々は内心ひとりで忙しい。

◆ 籠神社。空気が変わる

 鳥居が見えた瞬間、空気が一段重くなった。

「……ここから静かにな」

 まつが珍しく小声になる。

 御神木の前。

「ほな班札持って……写真いくで!」

「笑ってー!」

「笑える空気ちゃうやろ!」

 パシャッ。

 フラッシュが闇を裂いた瞬間――

 ゴォ……ッ、と風が一斉に松を鳴らした。

「ひゃっ!」

 反射的に、寧々が秀吉の腕を掴んだ。

 掴んだ瞬間、世界が止まる。

「寧々、大丈夫か?」

「だ、大丈夫や!!

 ……寒かっただけ!!」

「寒さで腕掴むん、京都の新習慣?」

「黙れ!!」

 竜子も、ほんの一歩だけ近づく。

(……なんで、こんな普通に優しいん)

 秀吉は、気づかない。

「帰り道、砂利多いし、ゆっくり行こ」

 それだけで、二人の胸はぐちゃぐちゃになる。

◆ 無自覚という名の罪

 宿舎への帰り道。

「なあ秀吉」

 利家が珍しく真面目な声を出す。

「お前、昔から人助けしすぎや」

「え? してへんで」

「してる!!」

「覚えてへんだけやって!」

 まつが即座に刺す。

「それが一番タチ悪いんや!!

 助けた側が忘れて、助けられた側が一生覚えてるとか、

 恋愛で一番しんどいやつやん!!」

 寧々も、竜子も、胸がぎゅっと締めつけられる。

 秀吉は首をかしげた。

「ほんまに覚えてへん。

 助けたとか、考えたことないし」

 そして、本気で不思議そうに言う。

「困ってる子おったら、そら手ぇ出るやろ」

 ――それが、決定打やった。

(……ほんま、憎い人)

(……あんたが悪い)

 星空の下、

 恋はもう、引き返されへんところまで来てしまった。

 秀吉は、何も知らずに鼻歌をこぼす。

「ふふーん……」

 昼に歌った旋律。

 シリウス。

 その鼻歌だけで、

 寧々も竜子も、また心臓が跳ねる。

(惚れるな言う方が無理や)

(惚れてまうやろ、そんなん)

 天橋立の夜は静かやのに、

 胸の中だけが、うるさすぎた。

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