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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第16話 ――憎い人。好きが爆発した朝、二人の回想(寧々/竜子)

天橋立の松並木は、ずるい。

 風が冷たくて、潮の匂いがして、波の音が遠くで鳴ってて。

 京都市内の鴨川とは違うのに、どこか似てる静けさがある。

 そんな中で――

 秀吉の歌なんか聴いてしもたら、そらもう、終わりや。

 寧々も。

 竜子も。

 “恋”が、別のもんに変わってしもた。

◆ 寧々目線:恋が“大恋”になってもうた

(……あかん、あかんて)

 高台寺寧々は、松の影から出られへんかった。

 秀吉はもう歩き出して、背中が遠ざかってるのに、

 足が、動かへん。

 胸が、うるさい。

 心臓が、体育祭のリレーみたいに全力疾走してる。

(うち、今、顔……真っ赤やろ)

 自分の頬に手を当てる。

 熱い。

 湯船か?ってくらい熱い。

(なんでやねん……!

 なんで歌うたうねん……!)

 しかもアカペラ。

 しかもオリジナル。

 しかもタイトル「シリウス」。

(星て!!

 急にロマンチックか!!

 京都人の照れ隠し、天橋立まで連れてくんな!!)

 心の中で全力ツッコミしても、

 ドキドキは止まらへん。

 寧々はぎゅっと、カバンの紐を握った。

 そこに揺れる、パーサ君とコトノちゃん。

(……あんた、覚えてへんやろな)

 寧々の頭の中が、勝手に昔へ引っ張られる。

◆ 寧々回想:鴨川、三回目

 鴨川。

 夕方。

 小学生の寧々は泣いていた。

 悔しくて、怖くて、誰にも言われへんくて。

 京都の夕暮れは綺麗やのに、

 あの時は全部が灰色に見えた。

「……おい」

 聞こえた声。

 サッカー帰りの、汗臭い男の子。

 当時の寧々は、名前も知らん。

 でも、また来たって分かった。

「……また、あんた?」

 男の子は困った顔して、カバンをゴソゴソして――

 マスコットを出した。

「これ、サンガのやつや」

「なにそれ」

「泣き止まへん時は、こういうの渡すねんて。ばあちゃんが言うてた」

(ばあちゃん強すぎやろ)

 でも、その手が優しくて。

「ほら。ぎゅーってしとけ。怖ないやろ」

 寧々は、そのマスコットを握って、

 気づいたら涙が止まってた。

 それが、三回目。

 決定的な三回目。

 そのとき寧々は、はっきり思った。

(うち、この子が好きや)

 ――って。

 でも、相手は何も知らん顔で、

「ほな、気ぃつけて帰れよ」

 って帰って行った。

◆ 現在:もう“好き”やない

 回想が終わって、寧々は唇を噛んだ。

(あんたさぁ……)

 今日の歌。

 「好きって言葉だけ胸にしまった」

 「伝えなくても届くなら」

 そんなこと言われたら、

 うちの“好き”はもう、止まらへん。

(恋が大恋になってもうたやん……)

 寧々は、ようやく松の影から出た。

 歩き出す。

 ……と思ったけど、

 前の方に秀吉の姿が見えた瞬間、また止まる。

(うわ!! 見えた!!)

 目が合ったわけでもないのに、

 顔が熱くなる。

(無理無理無理!!

 見るだけで赤くなるって、何!?

 うち、トマトか!?

 伏見の酒のつまみか!?)

 自分で自分をイジっても、

 心臓は全然笑ってへん。

 寧々の胸に浮かぶ言葉は一つ。

(秀吉!!

 あんたが悪い!!

 惚れるななんて、でけへん!!)

◆ 竜子目線:恋が点火して震えが止まらへん

 京極竜子は、松の影で、手を握りしめていた。

 自分でも分かる。

 指先が、微かに震えてる。

(……なんで、震えてんの)

 落ち着いてる自分。

 余裕がある自分。

 そういうキャラでやってきたはずやのに。

 秀吉の歌声が、耳から離れへん。

 綺麗で。

 あったかくて。

 でも、どこか遠くて。

(……シリウスって、そういう意味なん?)

 竜子は、胸の奥が熱くなるのを感じた。

(私、いま、燃えてる)

 派手に燃えるタイプちゃう。

 けど、点火してもうた火は、静かに広がる。

 そして同時に、

 昔の記憶がふっと浮かんだ。

◆ 竜子回想:錦市場、小さい膝の包帯

 まだ竜子が小さかった頃。

 錦市場。

 人が多すぎて、足が絡まって転んだ。

 膝を擦りむいて、痛くて、怖くて。

「うわぁぁん……」

 泣き声が、周りのざわめきに飲まれそうになったとき。

「だいじょぶか?」

 汗臭い。

 サッカー帰りの男の子が、しゃがみ込んだ。

「……痛い」 「血、出てるな」

 その子は、雑に、でも必死に、包帯を巻いた。

「ほら、これでいける」

「……ありがとう」

「家どこや?」

 そして、その子は竜子を背負って家まで送ってくれた。

 重かったやろうに。

 竜子はその時の包帯を、ずっと宝物にしている。

 本人は覚えてへんのに。

◆ 現在:震えが止まらん理由

 竜子は、そっと息を吐いた。

(あの時の人が、いま目の前におる)

 ただそれだけのはずやのに。

 今日の歌が、全部を繋げてしまった。

 「名前もいらない ただそばにいる」

 そんな歌、

 竜子みたいな人間に刺さりすぎる。

(……あかん)

 震えが増す。

(私、今、

 “好き”って言葉の手前で、暴れてる)

 竜子は、唇を噛んで、心の中で叫んだ。

(秀吉!!

 あんたが悪い!!

 惚れるななんて、でけへん!!)

 寧々と、同じ結論。

 でも、言い方は違う。

 竜子は静かに、燃える。

◆ 秀吉:鼻歌で帰る(罪の自覚ゼロ)

 その頃、張本人。

 羽柴秀吉は、膝を軽くさすりながら、歩いていた。

 歌った後、胸が軽かった。

 誰にも聞かれてへんと思ってるから、余計に。

「ふふーん♪」

 鼻歌。

 しかも、さっきの「シリウス」のメロディ。

(ええ曲できたかも)

 本人、完全に無自覚。

 松並木を抜けて、班の方へ戻ると、

 まつと利家が遠くで手を振っている。

「おーい! 秀吉ー!」 「膝どないやー!」 「戻ってきたんやったら、今度は逃がさん!」

 まつの声が怖い。

「大丈夫や、大丈夫やって」 「その“大丈夫”が一番信用ならん言うてるやろ!」

 まつ、即ツッコミ。

 秀吉は苦笑いして、合流した。

◆ 「ほんま、憎い人」

 その少し後ろ。

 寧々は、まだ顔が熱いまま、歩いていた。

 秀吉を見るだけで赤くなる。

 どうしようもない。

「……ほんま、憎い人」

 ぽつりと漏れる。

 少し離れた場所では、竜子が深呼吸していた。

 震えがまだ残っている。

 落ち着きたいのに落ち着けない。

「……ほんま、憎い人」

 同じ言葉が、同じタイミングで、胸に浮かぶ。

 でもその“憎い”は、

 嫌いやない。

 むしろ逆。

 好きすぎて、どうしようもない。

 天橋立。

 自由行動の朝。

 秀吉は知らない。

 自分の歌が、二人の心に火をつけたことを。

 そして寧々と竜子は知ってしまった。

 ――もう、逃げられん。

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