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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第14話 四月・初日 夕方 ――天橋立到着。夕餉と大浴場と、消灯前の胸騒ぎ(竜子目線)

バスが大きくカーブを切った瞬間、車内がざわっと揺れた。

「おっ、来たんちゃう?」

「来た来た!」

「見えたでー!」

 窓際に人が集まる。

 天橋立。

 松並木が、海の上に一本の道みたいに伸びている。

 夕方の光が水面に反射して、きらきらして、眩しい。

 京都市内で見る鴨川の水面とは、まるで違う顔や。

「……ほんまに橋みたいやな」

 羽柴くんがぽつりと言った。

「せやろ。

 “天の橋”って言うくらいやし」

 まつが即フォローする。

「名前、盛りすぎちゃう?」

 利家が口を挟む。

「京都は盛る文化や」

 まつがさらっと返す。

「歴史も自信も、全部盛りや」

(……京都人同士の会話、やっぱりめんどくさい)

 私は窓の外を見ながら、こっそり笑った。

◆ 国民宿舎、到着

「はい到着ー!

 荷物持って降りてー!」

 先生の声。

 国民宿舎は、想像よりちゃんとしてた。

 古いけど、手入れが行き届いてるタイプ。

 玄関の匂いが“旅館”や。

「……思ったより綺麗」

 寧々ちゃんが言う。

「それ、声出して言うな」

 私は小声でツッコんだ。

「修学旅行あるあるやろ」

「“もっとボロいと思ってた”な」

 寧々ちゃんは悪びれもせえへん。

 利家はロビーを見回して、目を輝かせた。

「卓球台ある!!」

「お前、夕飯前に汗かく気か!!」

 まつが即制止。

(班長、ほんまに班長してる)

 利家の首根っこを制御する姿に、変な安心感がある。

◆ 夕ご飯=京都人の本気

 食堂に並べられた膳を見た瞬間、

 全員、声を失った。

「……豪華すぎひん?」

「旅館の本気や」

「臨海学校って、

 こんなんやったっけ?」

 刺身。

 焼き魚。

 天ぷら。

 小鉢。

 釜飯。

 そして――

 皿の端に、ひっそりと添えられた緑。

「……万願寺とうがらしやん」

 まつが一瞬だけ目を細めた。

「え、これ万願寺?」

 寧々が箸を止める。

「せやで。

 この色、完全に京都の顔や」

 まつ、即断。

「え、辛いやつ?」

 利家が警戒する。

「ちゃう。

 それ言うん、京都人に怒られるやつ」

「辛ないとうがらしや」

「“とうがらし”って名前が詐欺なやつ」

 京都人、全員うなずく。

「……正月?」

「法事?」

「結婚の顔合わせ?」

 京都人、イベント基準がおかしい。

「いただきます」

 一斉に箸が動く。

「うまっ」

「魚がちゃんと魚や」

「意味分からんこと言うな」

 利家、天ぷらを頬張りながら言う。

「俺、京都市内でこんなん食ったことない」

「そらそうや」

「観光地価格や」

「それを今、

 学校が払ってるんやで」

「ありがたすぎる」

 秀吉は、静かに食べていた。

 焼き魚を一口。

 釜飯を少し。

 それから――万願寺とうがらし。

 噛んだ瞬間、

 表情がほんの少しだけ緩む。

(……この人、

 美味しい時ほど喋らへん)

 集中してる。

 感謝してる。

(……ええとこ、

 また見てしもた)

 寧々は、それを見逃さへん。

「秀吉くん、

 それ美味しい?」

「……うん」

「一口ちょうだい」

「え、ええけど」

 自然な流れ。

 寧々が万願寺を一口。

「……あ、これ」

「京都の味やろ?」

「せやな。

 “主張せえへんのに、

 ちゃんと美味しいやつ”」

 その一言に、

 竜子の胸が少しだけざわついた。

(……距離感、

 完成されすぎやろ)

◆ 大浴場という戦場

「よし、次は風呂やー!」

 女子のテンションが一段上がる。

「露天あるらしいで!」

「ほんま!?」

「日本海見えるって!」

 男子側でも利家が叫んでる。

「……俺、温泉で走るタイプやから」

「意味分からん」

「やめとけ」

「怒られる未来しか見えへん」

 即却下。

 女子風呂。

「……広っ」

「天井高っ」

「京都市内の銭湯と違う!」

 湯気がふわっと上がって、声が柔らかく反響する。

 床のタイルが、足裏に気持ちいい。

 私は湯船に沈みながら、今日一日を思い返した。

 バス。

 赤レンガ。

 海鮮丼。

 由良川。

 羽柴くんの横顔。

(……疲れてるはずやのに)

 頭だけ、冴えてる。

「竜子、なんか考え事?」

 まつが聞く。

「……ちょっと」

「恋?」

 まつの声が、軽いのに鋭い。

「ちが……」

「“ちが”まで言うたな」

 即ツッコミ。

 湯船の中で、私の肩が小さく跳ねる。

 誤魔化す暇もない。

 ふと視線を上げると、寧々ちゃんが何も言わずにこちらを見ていた。

 目が合う。

(……探られてる)

 でも、私は逸らさへん。

(……逃げへんって、決めたし)

 湯の中で、静かに息を吐いた。

◆ 夜のレクリエーション

 食堂に集められて、簡単なレクリエーション。

 ビンゴ。

 クイズ。

 先生の寒いジョーク。

「この景品はー……

 天橋立名物! ちくわ!!」

「いらん!!」

「京都市内まで持って帰れん!!」

 全力ツッコミ。

 笑い声が広がる。

 羽柴くんも、少しだけ声を出して笑ってる。

(……こういう笑い方、好きやな)

 言葉にしたら負けるから、心の中にしまう。

(……明日、班行動や)

 自由行動。

 一日。

(……チャンスも、地雷も、山ほどある)

 それを思った瞬間、胸が小さく波立った。

◆ 消灯前

「はい、消灯十五分前やでー!」

 先生の声。

 布団に入っても、ざわざわは止まらへん。

「なあ、明日どこ行く?」

「股のぞきやろ」

「絶対やるやん」

「写真撮るで」

 私は布団の中で天井を見た。

 遠くで、波の音がする。

 京都市内やったら、絶対聞こえへん音。

 その静けさが、逆に胸に響く。

(明日、私はどうする)

 押すか。

 引くか。

 待つか。

 答えは、まだ出えへん。

 でも。

(……ちゃんと、向き合お)

 そう思いながら、目を閉じた。

 初日、消灯。

 天橋立の夜は静かで――

 それぞれの胸の中だけが、

 やたらとうるさかった。

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