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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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13話 4月・初日 昼すぎ ――由良川河口、丹後由良海水浴場。潮風と、竜子の一歩

 砂を踏んだ瞬間、分かった。

「……あ、これ

 靴の中、終わったな」

 京極竜子は、そっと足を止めた。

 丹後由良海水浴場。

 由良川が、日本海に流れ込む河口。

 白い砂浜。

 春の日本海の風。

 さっきまで舞鶴の赤レンガ倉庫で

「観光やー!」と浮かれていたクラスは、

もう完全に修学旅行モードや。

「うわー! 海や!」

「青っ!」

「京都ちゃう!!」

「それ言うな言うてるやろ!!」

 誰かが言えば、

誰かが即ツッコむ。

 ――京都人の様式美。

 竜子は、少し後ろからその光景を眺めていた。

(……ほんまに、

 ええ天気やな)

 空は高く、

雲は薄い。

 潮の匂いが、思ったより強い。

 そして前方。

 秀吉と寧々が、並んで歩いている。

 自然。

 無理がない。

 最初から、そうやったみたいに。

(……そういうん、

 ずるいわ)

 声には出さへん。

 心の中でだけ、そっと毒づく。

◆ 観光という名の放牧

「はーい、聞いてー!」

 先生の声が砂浜に響く。

「ここでは一時間ほど自由散策!

 海には入らへん!

 靴脱ぐのもあかん!

 分かったなー!」

「えぇー!!」

「見るだけ!?」

「臨海学校詐欺やん!」

 利家が即反応。

「入ったら死ぬわ」

 まつ、即断。

「四月やぞ」

「日本海やぞ」

「琵琶湖とちゃうねんぞ」

「琵琶湖も冷たいわ!!」

 ノリツッコミで、クラスが笑う。

 砂浜に散っていく生徒たち。

 スマホで写真撮る。

 貝殻を探す。

 波打ち際まで行って怒られる。

 完全に放牧。

 竜子は、

風で乱れる髪を押さえながら歩いた。

(……今や)

 そう思った自分に、少し驚く。

(今まで、

 こんなこと考えへんかったのに)

◆ 利家という天然災害

「おーい!!

 見て見て!!」

 利家が何かを掲げて走ってくる。

「来んな!!」

「近寄るな!!」

 女子、一斉に後退。

「ヒトデ!!」

「触るなァァァ!!!」

 まつ、絶叫。

「それ、生きてるか

 死んでるか分からんやつ!!」

「え、どっち!?」

「どっちでもあかんわ!!」

 利家、しょんぼり。

「……京都の女子、

 海の生き物に厳しすぎひん?」

「山の民やからな」

「海は敵や」

 秀吉が笑う。

 その横顔を、竜子は見た。

(……やっぱり、

 ええ顔で笑うな)

 胸が、きゅっとなる。

◆ 由良川の境目

 竜子は、少しだけ前に出た。

 由良川が、

静かに海に流れ込んでいる。

 川の色。

 海の色。

 似ているのに、

どこか違う。

(……混ざってるようで、

 混ざりきってへん)

 そんなことを考えていた。

「……綺麗やな」

 後ろから声。

 振り向くと、秀吉。

「……うん」

 思ったより、近い。

「この辺、初めて来た?」

 竜子が聞く。

「せやな。

 京都府やのに、

 知らん場所多すぎるわ」

「それな」

 二人で、少し笑う。

(……会話、続いた)

 心の中で、小さくガッツポーズ。

◆ 小さな勇気

「……なあ、羽柴くん」

 竜子は、

自分でも驚くくらい自然に呼んだ。

「ん?」

「臨海学校、どう?」

 秀吉は少し考えて――

「……楽しい」

「そう」

「でも、

 なんか不思議や」

「不思議?」

「京都の同級生と、

 京都やない景色見てるの」

 竜子、頷く。

「日常から、

 ちょっと離れてる感じやな」

「せやろ」

 沈黙。

 でも、気まずくない。

(……今まで、

 こんな空気、

 作れる思てへんかった)

 風が吹き、

砂が少し舞う。

◆ 見てる、という宣言

「……私な」

 竜子は、声を落とす。

「押すの、得意ちゃうねん」

「……そうなん?」

「見たら分かるやろ」

「……分かる」

「それ、

 褒めてへんやろ」

「落ち着いてるって意味や」

 竜子、少し笑う。

「せやったら、ええ」

 そして――

ほんの少しだけ、勇気を出す。

「……でもな」

「うん」

「ちゃんと、

 見てるで」

 秀吉が、一瞬、言葉を失う。

「……え?」

「今の、

 分からんでええ」

 それだけ言って、

竜子は一歩、前に出た。

(……言うた)

 心臓が、うるさい。

(これ、

 アプローチってやつやな)

 背中に、視線を感じる。

 でも、振り向かへん。

◆ 気づく人、気づかん人

 少し離れたところで、

寧々がこちらを見ている。

 笑顔。

 でも、目は鋭い。

(……気づかれた)

 まつも、ちらっと視線を向ける。

(……あ、この顔。

 全部察してる)

 誰も、何も言わへん。

 それが、余計に怖い。

◆ 海は何も言わへん

 由良川の水は、

今日も静かに海へ流れていく。

 境目は、

ちゃんと残ったまま。

 竜子は前を向いて歩きながら思う。

(……急がんでええ)

 私は、私のペースで。

 京都の女は、

一歩ずつや。

 後ろで、利家の声。

「なあ!

 波、来た!!」

「走るな言うてるやろ!!」

「転ぶ!!」

 まつの怒号。

 秀吉が笑い、

寧々が何か言う。

 でも。

 竜子は、

ちゃんと一歩、踏み出した。

 丹後由良海水浴場。

 四月、昼すぎ。

 恋は、まだ静かやけど――

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