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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第12話 初日・お昼 ――舞鶴赤レンガ倉庫、豪華海鮮丼と京都人の本音

車内の空気が、はっきり変わった。

「お、おい! 見えたぞ!」

「赤い!」

「レンガや!」

「……赤レンガ倉庫やん!!」

 前田利家が立ち上がりかけて――

「立つな!! シートベルト!!」

 即、まつに頭をはたかれる。

「うぐっ! 条件反射!!」

 窓の外。

 舞鶴市・赤レンガ倉庫。

 京都市内とは、まるで別の空気。

 潮の匂い。

 少し湿った風。

 赤茶色の建物が並び、どこか異国みたいに見える。

「……京都ちゃうな」

 秀吉が、ぽつりと呟いた。

「そらそうや」

「ここ、海やもん」

 寧々が即返す。

「でも京都府やで?」

「京都府の顔、広すぎるねん」

「南北長すぎやろ」

「南は伏見、北は舞鶴。

 誰が同じ県やと思うねん」

 ――京都人あるある、開幕。

◆ バス降車=即・観光客モード

「はい、降りてー!

 荷物忘れんようにー!」

 先生の声で、ぞろぞろ降りる生徒たち。

 コンクリートの感触。

 遠くで鳴くカモメ。

「うわ、潮の匂いする」

「洗濯物干せへんやつや」

「それは偏見や」

 赤レンガ倉庫前には、すでに観光客。

「写真撮りたい!」

「インスタ!!」

「はいはい、あとでなー!」

 まつが班長の顔で制する。

「今は昼飯が先!

 腹減ったら機嫌悪なる人おるやろ!」

「誰やそれ」

「お前や利家!!」

「なんで分かったん!?」

 分かりやすすぎる。

◆ 昼ごはんの正体

 案内されたのは、

 赤レンガ倉庫の中の大広間。

 机がずらっと並び、

 見た目からして“観光地仕様”。

「……なんか、ええとこやな」

 竜子が、小さく言った。

「なあ先生、今日の昼、何なん?」

 秀吉が聞く。

 先生、ニヤリ。

「海鮮丼」

 一拍――

「「「えぇぇぇぇ!!?」」」

 大合唱。

「臨海学校って、カレーちゃうん!?」

「雑魚寝して、雑炊ちゃうん!?」

「豪華すぎへん!?」

 そして、運ばれてくる丼。

 どん。

 マグロ、サーモン、ブリ、イカ。

 イクラ、甘エビ。

 ――酢飯が見えへん。

「……ちょっと待って」

 寧々が真顔になる。

「これ、観光客用ちゃうん?」

「生徒用や」

「生徒、こんなん食べてええん?」

「食え」

 利家、即箸。

「いただきます!!!」

「早い!!」

◆ 京都人と海鮮の距離感

 秀吉は丼を見つめて、ぽつり。

「……海、すごいな」

「語彙力どこ行った」

「京都やと、

 こんな海鮮、正月か法事やろ」

「分かる」

「法事の帰りやな」

 全員、深く頷く。

 寧々が言う。

「これ、ぶぶ漬け出されへんやつやな」

「そらそうや」

「“もう帰れ”ちゃう」

「“まだおってええ”のやつ」

 京都の闇。

 竜子は、丁寧に箸を持つ。

「……いただきます」

 一口。

 目が、少し見開く。

「……新鮮」

「やろ?」

 秀吉が言う。

「……海が近いって、

 こういうことなんやな」

 寧々が笑う。

「京都市内やと、

 “鮮度”は気持ちやもんな」

「気持ちって言うな」

「気持ちや」

◆ 見えてしまう距離

「うまっ!!

 俺、ここ住む!!」

「住むな」

「サッカーどうすんねん」

「舞鶴FC作る!!」

「誰が応援すんねん!」

 まつ、ため息。

「……ほんま、

 高校一年の飯ちゃうわ」

 竜子は、ちらっと秀吉を見る。

 黙々と食べてる。

 表情は穏やか。

(……この人、

 こういう時、あんまり喋らへん)

 感謝してる時。

 大事に味わってる時。

(……気づいてしもたな)

 寧々の声。

「なあ秀吉くん」

「ん?」

「それ、ブリ?」

「せやで」

「一切れちょうだい」

「え、ええけど」

 自然。

 ほんまに自然。

(……あかん)

 胸の奥が、ほんの少しざわつく。

(比べたら負けや)

 自分に言い聞かせる。

◆ 食後の余韻

「ごちそうさまでした!」

 丼は空。

 満腹。

 眠気。

「……動きたない」

 利家。

「午後、歩くからな」

 まつ。

「……死ぬ」

「死なん」

 外へ出る。

 海。

 広い空。

 京都市内では、

 建物に遮られる景色。

「……ええな」

 秀吉が言う。

「せやろ」

 寧々が返す。

 竜子は、その二人を横目に、思う。

(この景色、

 もう“初日のお昼”やない)

 舞鶴。

 赤レンガ。

 豪華海鮮丼。

 ただの昼ごはんのはずやのに、

 確実に、思い出になってしまった。

 臨海学校、初日。

 午後は、まだ長い。

 ――そして、感情はもう、戻られへん。

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