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うち負けヒロインでおわるのゼロやから! 負けヒロイン?京都でわ始まりやちゃいますの?  作者: イサクララツカ


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第9話 翌日・四月 天橋立臨海学校――班決めという名の戦場

 翌朝。

 桂川高校A組の教室は、朝からざわついていた。

 いつもなら眠気とダルさが教室を支配する時間帯や。

 やのに今日は違う。

 理由は一つ。

「えー、来週な。

 四月恒例、天橋立国民宿舎・二泊三日の臨海学校を行う」

 担任の声が響いた瞬間――

「きたぁぁぁ!!」

「臨海!」

「泊まりや!!」

「海!!」

「……班決め!!」

 最後の一言だけ、テンションの方向おかしいやつがおる。

(……あ、これ荒れるやつや)

 羽柴秀吉は、すでに察していた。

 班決め。

 人間関係が一気に可視化される、青春最大の地雷原。

 担任が黒板に書く。

【天橋立臨海学校】

・二泊三日

・男女混合班

・一班 六人

・班ごとに行動

「はい、静かに。

 ええか、揉めるなよ」

 その一言が、完全にフラグや。

◆ 開戦

「なあ秀吉!」

 即座に詰めてくる大男。

「俺と同じ班やんな!?」

 前田利家。

 声でかい。近い。汗くさい(朝)。

「お前は確定やろ」

「よっしゃ!」

 利家、ガッツポーズ。

 小学生か。

 横で、前田まつが腕組み。

「はいはい。

 利家と秀吉はセットな。

 はい、次」

 “次”――

 その言葉が出た瞬間。

「うちも一緒やろ?」

 来た。

 高台寺寧々。

 間合いゼロ。

 桂川高校が誇る距離感クラッシャー。

「なんでや」

「なんでって、仲ええやん」

「昨日の烏丸のこと、引きずってるやろ」

「引きずってへん!

 ただ……一緒が自然やなって思っただけ!」

(言い方が重い)

 クラスの空気が、一瞬ピタッと止まる。

 そこへ――

「私も……その班、ええかな?」

 静かな声。

 京極竜子。

(……はい、戦争)

 まつが即ツッコミ。

「はいはいはいはい!!

 ちょっと待と!?

 いま、誰が班長なん!?」

 担任が咳払い。

「……えー、班は男女三人ずつな」

 その瞬間。

「ほな決まりやん!」

 寧々が机を叩く。

「利家・秀吉・男子一人。

 女子は、うちと竜子ちゃんと……まつ!!」

「勝手に決めんな!!」

 まつ、即立ち上がる。

「なんで私が確定やねん!」

「ツッコミ要員おらんと班崩壊するやろ!」

「それ、利家が原因やろ!!」

 利家、胸を張る。

「俺、原因として優秀やで」

「誇るな!!」

 クラス中、クスクス笑い出す。

 担任、頭抱える。

「……羽柴。

 お前、なんか言え」

 急に振られた。

(助けてくれ誰か)

 秀吉が口を開く前に――

 竜子が一歩前に出た。

「……私は、

 羽柴くんと同じ班やと安心する」

 空気、凍る。

「竜子ちゃん、言うなぁ」

「言うたなぁ」

「これは言うた」

 寧々、無言。

 ――でも。

「……うちかて」

 低い声。

「うちかて、

 秀吉くんと同じ班がええ」

 感情、直球。

「臨海学校やで?

 慣れへん場所やで?

 知ってる人おった方が安心やん」

「……それ、うちも同じ理由やけど」

 竜子、落ち着いて返す。

「安心、って言葉使うのは自由やし」

 寧々、目を細める。

「……せやな。

 自由やな」

(やばい、京都語の応酬始まった)

◆ 班長という名の犠牲者

「はいはい!!」

 ここで、まつが割り込む。

「班長、私やるわ!!」

「え?」

「え?」

 全員の声が被る。

「もうええやろ!

 臨海学校なんて、

 飯作って、風呂入って、

 利家が迷子になるだけや!」

「迷子ならん!」

「なる!!」

「秀吉は気ぃ使いすぎ。

 寧々は押しすぎ。

 竜子は我慢しすぎ。

 利家は……論外」

「論外!?」

「論外」

 即断。

「せやから、この班、私がまとめる」

 担任、即決。

「……よし。

 前田まつ、班長な」

「先生!!」

 利家、挙手。

「俺は!?」

「お前は指示に従え」

「はい……」

 利家、秒で沈黙。

◆ 班、決定

 黒板に書かれる。

【第3班】

前田まつ(班長)

前田利家

羽柴秀吉

高台寺寧々

京極竜子

+男子一名(未定)

「……はい、これで」

 その瞬間。

「濃い班やな」

「修学旅行みたい」

「絶対揉めるやつ」

 秀吉は思った。

(揉める未来しか見えへん)

 寧々がニヤッと笑う。

「ふふ、楽しみやな」

「……その顔、

 サンガ負けた次の日の顔やで」

「うるさい!

 今年は優勝狙えるし!」

 竜子が小さく微笑む。

「……大丈夫。

 負ける選択肢は、あらへん」

 寧々が一瞬、竜子を見る。

 まつ、ため息。

「……はいはい。

 もうオリックスとサンガの話禁止な。

 夜まで終わらん」

 利家、拳を握る。

「よっしゃ!

 海や!

 天橋立や!

 俺、泳ぐ!!」

「勝手に溺れるな!」

◆ 秀吉の心の声

 秀吉は、黒板の班名を見ながら、

 胸の奥がざわざわしていた。

 まだ四月。

 GW前。

 何も始まってへん。

 でも――

(この班、

 俺の高校生活、

 全部詰まってる気がする)

 押す女。

 待つ女。

 支える女。

 暴走する男。

 そして、自分。

「……なあ秀吉」

 寧々が、少しだけ声を落として言う。

「三日間、よろしくな」

 竜子も、同時に。

「……よろしく」

 二人の視線が、重なる。

「……こちらこそ」

 その一言で、

 班決めという名の戦争は、

 一旦の終戦を迎えた。

 なお――

 本当の戦争は、天橋立で始まる。

 二泊三日が、

 こんなにも長く感じるとは、

 秀吉はまだ知らない。

(……胃、持つかな)

 四月の桂川高校。

 青春は、静かに、

 でも確実に、動き出していた。

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