転生したら推しアイドルの専属マネージャーで、ライブが魔王討伐戦でした ~裏方スキルが世界最強だった件~
俺は死んだ。ブラック企業の新人研修で三日連続徹夜したら、普通に死んだ。
そして気づけば、見知らぬ世界で…推しアイドルの専属マネージャーになっていた。
ライブ会場? いや、戦場だ。魔物? いや、客だ。
何が何だか分からないけど、今日の公演も時間通りに回さなきゃいけない。
……転生してまで段取りに追われる人生って、誰が予想した?
「コウさん! 照明さんとの打ち合わせが終わらないですっ!」
声の主は、ルミナ・スターライト。
この世界で最も人気のある"歌姫アイドル"にして、俺の前世でも推しメンだ。
前世で配信映像を見て、毎日応援していたあの子が、今は目の前にいる。
夢のような話だ。転生ボーナスってやつか?
でもこの世界、ちょっとおかしい。
「すみませんルミナさん、今すぐ照明ブースに向かいます! スタンバイまであと十五分、絶対に間に合わせますから!」
俺が駆け出すと、廊下の先に見えるのは巨大な野外ステージ。
客席には、いや、戦場と呼ぶべきか…数千匹の魔物たちがうごめいている。
そう。この世界では「アイドルのライブ=魔王軍との戦争」なのだ。
歌姫の歌には、魔物を浄化し、弱体化させる力があるらしい。
逆に言えば、ライブが失敗すれば街が魔物に襲われて壊滅する。
裏方のミスは、文字通り命取りなのである。
「照明の皆さん! 第三曲目の『スターライト・ビーム』ですが、三番サビのキューを二秒前倒しでお願いします! あの位置に強化型の『ドラゴンゴブリン』がいるので、事前に光で威嚇しないと突っ込んでくる可能性があります!」
「了解! さすがコウさん、魔物の配置まで見てるのか!」
「当たり前です! 俺は裏方ですから!」
前世で鍛えた段取り力。ブラック企業で叩き込まれた先読み能力。
そして何より、推しのために全力を尽くす情熱。
それらが組み合わさった結果、俺はこの世界で『伝説の裏方マスター』と呼ばれるようになっていた。
転生時に授かったスキルは『完璧なる調整』。
ライブの裏側すべてを把握し、最適化する能力だ。
正直、地味すぎる。魔法剣とか無双スキルとか、そういうのが良かった。
でも――この世界では、裏方こそが最強なのだ。
「コウさん! 音響チェックもお願いします! 魔物が増えてきてて、反響がおかしくなってるみたいで……」
「了解、今行く!」
ステージ裏を駆け回りながら、各部署と連絡を取り合う。
音響、照明、衣装、舞台装置、警備、そして最前線で魔物の動きを監視する騎士団。
すべてを統括し、最適なタイミングで指示を出す。
それが俺の仕事だ。
「ルミナさん、残り五分です。喉の調子は?」
「ばっちりです! でも……ちょっと不安……」
ルミナが潤んだ瞳で俺を見上げる。
ああ、これだ。この小動物系のリアクション。前世で配信越しに見ていたやつ。
「大丈夫です。今日も完璧なステージにしますから」
「……はいっ! コウさんがいれば、安心です!」
ルミナの笑顔に、心臓が跳ねる。
推しがこんなに近くにいるなんて、前世の俺が見たら卒倒するだろう。
でも今は仕事モードだ。浮かれてる場合じゃない。
「各部署、最終確認! 異常なし! 開演まで三分!」
そして――ライブが始まった。
照明が一斉に点灯し、ルミナがステージ中央に現れる。
「みんなー! 今日も来てくれてありがとう!」
観客席の魔物たちが一斉に吠える。いや、歓声を上げている?
この世界の魔物は、元々は普通の生き物だったらしい。
魔王の影響で凶暴化しているが、歌姫の歌を聴くと正気を取り戻すのだ。
だからライブは、ただの娯楽じゃない。魔物を救うための儀式でもある。
ルミナの歌声が響き渡る。
一曲目、『希望の翼』。
魔物たちの動きが鈍くなり、徐々に光に包まれていく。
浄化の始まりだ。
「第二曲目、準備! 照明、左ブロックに集中! あそこに大型の魔物がいる!」
指示を飛ばしながら、モニターで魔物の配置を確認する。
スキル『完璧なる調整』のおかげで、すべての情報がリアルタイムで頭に入ってくる。
音響のズレ、照明のタイミング、観客(魔物)の反応、舞台装置の動き。
すべてを最適化し、ルミナが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整える。
「三曲目! 『スターライト・ビーム』! 照明部、例のタイミングで!」
予定通り、ドラゴンゴブリンが動き出す直前に照明が炸裂。
魔物が怯み、ルミナの歌が直撃する。
浄化成功。完璧だ。
「コウさん、すごい! 全部読んでる!」
スタッフから賞賛の声が飛ぶが、まだ気を抜くわけにはいかない。
ライブは半分を過ぎたところ。ここからが本番だ。
そして――五曲目が終わったとき、異変が起きた。
ゴゴゴゴゴゴ……
ステージが揺れ、空が暗くなる。
観客席の魔物たちが一斉に怯え、逃げ出そうとする。
「まさか……」
モニターに映る巨大な影。
『魔王』だ。
伝説の存在。世界を脅かす最強の魔物。
まさかライブに乱入してくるなんて…
「コウさん!どうしよう!魔王が……!」
ルミナが泣きそうな顔で俺を見る。
くそっ、こんなこと想定外だ!
でも――待て。落ち着け。
俺のスキルは『完璧なる調整』。
どんな状況でも、最適解を見つけ出せるはずだ。
「ルミナさん、次の曲、『永遠のメロディ』に変更します」
「え?でも、あれバラードですよ?魔王相手に通用するんですか?」
「通用させます。俺が必ず最高の演出にしますから」
魔王がステージに近づいてくる。
その巨大な姿は、まるで山のようだ。
でも――モニター越しに見る魔王の表情は、意外なほど穏やかだった。
もしかして、と俺は直感した。
「照明部! 魔王にスポットライトを当ててください! ステージの一部として迎え入れます!」
「は、はい!?」
「音響部! 低音を強化! 魔王の存在感を引き立てるように!」
「了解!」
そして――ルミナが歌い始めた。
バラード『永遠のメロディ』。
優しく、温かく、すべてを包み込むような歌声。
魔王が動きを止める。
そして――涙を流した。
「……美しい……」
魔王が呟く。
その声は、どこか寂しげだった。
「私は……ただ、純粋に音楽が聴きたかっただけなのだ……」
モニターに映る魔王の記憶が、スキルを通じて俺の頭に流れ込んでくる。
元々は音楽を愛する心優しい存在だった。
でも孤独に蝕まれ、魔王と化してしまった。
それを知った瞬間、俺は確信した。
「ルミナさん、最後のサビ、もう一度お願いします! 魔王のために!」
「……はい!」
ルミナが全力で歌う。
その歌声は、魔王の心を包み込み――
光が溢れた。
魔王の巨体が、徐々に透明になっていく。
これが浄化だ。
「……ありがとう……久しぶりに、心が温かい……」
魔王が微笑みながら消えていく。
そして――ライブは終わった。
観客席の魔物たちも、すべて浄化されていた。
静寂の後、爆発的な歓声が響き渡る。
いや、歓声を上げているのは人間だ。
浄化された魔物たちは、元の姿に戻っていた。
「やった……やったよ、コウさん!」
ルミナが俺に駆け寄り、涙を流しながら抱きついてくる。
「魔王まで救えたなんて……これ、全部コウさんのおかげです!」
「いや、俺はただ段取りしただけで……」
「そんなことないです! コウさんがいなかったら、こんな奇跡起きなかった!」
スタッフたちも駆け寄ってくる。
「コウさん、すごかった!」「まさか魔王を演出の一部にするなんて!」「裏方の鏡だ!」
賞賛の嵐に、俺は照れくさくなる。
でも――悪くない。
前世では誰にも褒められなかったけど、この世界では俺の力が認められている。
そして何より、推しの笑顔を守れた。
それだけで、転生した甲斐があったってもんだ。
数日後。
俺たちは次のライブの準備をしていた。
「コウさん、次は魔王城跡地でのライブが決まりました!」
「ま、魔王城!?」
「大丈夫です! もう魔王いないですし!」
「いやいや、段取りが大変すぎる……」
頭を抱える俺に、ルミナがにこっと笑いかける。
「でも、コウさんなら大丈夫です。だって、コウさんは世界最強の裏方さんですから」
「……買いかぶりすぎですよ」
「そんなことないです。私、ずっとコウさんと一緒にいたいです」
ルミナの真っ直ぐな視線に、心臓が跳ねる。
「俺も……ずっとルミナさんのマネージャーでいたいです」
「じゃあ、決まりですね!」
ルミナが笑顔で手を差し出す。
俺はその手を握り返した。
転生してから、毎日が激務だ。
段取り、調整、根回し。前世と変わらない裏方人生。
でも――今は楽しい。
推しのために、世界のために、俺は今日も裏方として走り続ける。
ライブという名の戦場で。
舞台裏から世界を救う、最強の裏方マネージャーとして。
「さあ、次のライブも完璧にしますよ!」
「はいっ!」
ルミナの笑顔と共に、俺の転生ライフはまだまだ続いていく。
――裏方の力が、世界を救った日の物語。
これが、俺と推しアイドルの、最高のステージだ。
【完】




