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転生したら推しアイドルの専属マネージャーで、ライブが魔王討伐戦でした ~裏方スキルが世界最強だった件~

作者: 桜木ひより
掲載日:2025/12/22

俺は死んだ。ブラック企業の新人研修で三日連続徹夜したら、普通に死んだ。


そして気づけば、見知らぬ世界で…推しアイドルの専属マネージャーになっていた。


ライブ会場? いや、戦場だ。魔物? いや、客だ。


何が何だか分からないけど、今日の公演も時間通りに回さなきゃいけない。

……転生してまで段取りに追われる人生って、誰が予想した?


「コウさん! 照明さんとの打ち合わせが終わらないですっ!」


声の主は、ルミナ・スターライト。

この世界で最も人気のある"歌姫アイドル"にして、俺の前世でも推しメンだ。


前世で配信映像を見て、毎日応援していたあの子が、今は目の前にいる。

夢のような話だ。転生ボーナスってやつか?


でもこの世界、ちょっとおかしい。


「すみませんルミナさん、今すぐ照明ブースに向かいます! スタンバイまであと十五分、絶対に間に合わせますから!」


俺が駆け出すと、廊下の先に見えるのは巨大な野外ステージ。

客席には、いや、戦場と呼ぶべきか…数千匹の魔物たちがうごめいている。


そう。この世界では「アイドルのライブ=魔王軍との戦争」なのだ。


歌姫の歌には、魔物を浄化し、弱体化させる力があるらしい。

逆に言えば、ライブが失敗すれば街が魔物に襲われて壊滅する。


裏方のミスは、文字通り命取りなのである。


「照明の皆さん! 第三曲目の『スターライト・ビーム』ですが、三番サビのキューを二秒前倒しでお願いします! あの位置に強化型の『ドラゴンゴブリン』がいるので、事前に光で威嚇しないと突っ込んでくる可能性があります!」


「了解! さすがコウさん、魔物の配置まで見てるのか!」


「当たり前です! 俺は裏方ですから!」


前世で鍛えた段取り力。ブラック企業で叩き込まれた先読み能力。

そして何より、推しのために全力を尽くす情熱。


それらが組み合わさった結果、俺はこの世界で『伝説の裏方マスター』と呼ばれるようになっていた。


転生時に授かったスキルは『完璧なる調整』。

ライブの裏側すべてを把握し、最適化する能力だ。


正直、地味すぎる。魔法剣とか無双スキルとか、そういうのが良かった。


でも――この世界では、裏方こそが最強なのだ。


「コウさん! 音響チェックもお願いします! 魔物が増えてきてて、反響がおかしくなってるみたいで……」


「了解、今行く!」


ステージ裏を駆け回りながら、各部署と連絡を取り合う。


音響、照明、衣装、舞台装置、警備、そして最前線で魔物の動きを監視する騎士団。


すべてを統括し、最適なタイミングで指示を出す。

それが俺の仕事だ。


「ルミナさん、残り五分です。喉の調子は?」


「ばっちりです! でも……ちょっと不安……」


ルミナが潤んだ瞳で俺を見上げる。


ああ、これだ。この小動物系のリアクション。前世で配信越しに見ていたやつ。


「大丈夫です。今日も完璧なステージにしますから」


「……はいっ! コウさんがいれば、安心です!」


ルミナの笑顔に、心臓が跳ねる。

推しがこんなに近くにいるなんて、前世の俺が見たら卒倒するだろう。


でも今は仕事モードだ。浮かれてる場合じゃない。


「各部署、最終確認! 異常なし! 開演まで三分!」


そして――ライブが始まった。

照明が一斉に点灯し、ルミナがステージ中央に現れる。


「みんなー! 今日も来てくれてありがとう!」


観客席の魔物たちが一斉に吠える。いや、歓声を上げている?


この世界の魔物は、元々は普通の生き物だったらしい。

魔王の影響で凶暴化しているが、歌姫の歌を聴くと正気を取り戻すのだ。


だからライブは、ただの娯楽じゃない。魔物を救うための儀式でもある。


ルミナの歌声が響き渡る。


一曲目、『希望の翼』。


魔物たちの動きが鈍くなり、徐々に光に包まれていく。

浄化の始まりだ。


「第二曲目、準備! 照明、左ブロックに集中! あそこに大型の魔物がいる!」


指示を飛ばしながら、モニターで魔物の配置を確認する。

スキル『完璧なる調整』のおかげで、すべての情報がリアルタイムで頭に入ってくる。


音響のズレ、照明のタイミング、観客(魔物)の反応、舞台装置の動き。

すべてを最適化し、ルミナが最高のパフォーマンスを発揮できる環境を整える。


「三曲目! 『スターライト・ビーム』! 照明部、例のタイミングで!」


予定通り、ドラゴンゴブリンが動き出す直前に照明が炸裂。


魔物が怯み、ルミナの歌が直撃する。

浄化成功。完璧だ。


「コウさん、すごい! 全部読んでる!」


スタッフから賞賛の声が飛ぶが、まだ気を抜くわけにはいかない。


ライブは半分を過ぎたところ。ここからが本番だ。


そして――五曲目が終わったとき、異変が起きた。


ゴゴゴゴゴゴ……


ステージが揺れ、空が暗くなる。

観客席の魔物たちが一斉に怯え、逃げ出そうとする。


「まさか……」


モニターに映る巨大な影。


『魔王』だ。

伝説の存在。世界を脅かす最強の魔物。


まさかライブに乱入してくるなんて…


「コウさん!どうしよう!魔王が……!」


ルミナが泣きそうな顔で俺を見る。


くそっ、こんなこと想定外だ!

でも――待て。落ち着け。


俺のスキルは『完璧なる調整』。

どんな状況でも、最適解を見つけ出せるはずだ。


「ルミナさん、次の曲、『永遠のメロディ』に変更します」


「え?でも、あれバラードですよ?魔王相手に通用するんですか?」


「通用させます。俺が必ず最高の演出にしますから」


魔王がステージに近づいてくる。

その巨大な姿は、まるで山のようだ。


でも――モニター越しに見る魔王の表情は、意外なほど穏やかだった。


もしかして、と俺は直感した。


「照明部! 魔王にスポットライトを当ててください! ステージの一部として迎え入れます!」


「は、はい!?」


「音響部! 低音を強化! 魔王の存在感を引き立てるように!」


「了解!」


そして――ルミナが歌い始めた。


バラード『永遠のメロディ』。


優しく、温かく、すべてを包み込むような歌声。


魔王が動きを止める。

そして――涙を流した。


「……美しい……」


魔王が呟く。

その声は、どこか寂しげだった。


「私は……ただ、純粋に音楽が聴きたかっただけなのだ……」


モニターに映る魔王の記憶が、スキルを通じて俺の頭に流れ込んでくる。


元々は音楽を愛する心優しい存在だった。

でも孤独に蝕まれ、魔王と化してしまった。


それを知った瞬間、俺は確信した。


「ルミナさん、最後のサビ、もう一度お願いします! 魔王のために!」


「……はい!」


ルミナが全力で歌う。


その歌声は、魔王の心を包み込み――

光が溢れた。

魔王の巨体が、徐々に透明になっていく。


これが浄化だ。


「……ありがとう……久しぶりに、心が温かい……」


魔王が微笑みながら消えていく。

そして――ライブは終わった。


観客席の魔物たちも、すべて浄化されていた。


静寂の後、爆発的な歓声が響き渡る。

いや、歓声を上げているのは人間だ。


浄化された魔物たちは、元の姿に戻っていた。


「やった……やったよ、コウさん!」


ルミナが俺に駆け寄り、涙を流しながら抱きついてくる。


「魔王まで救えたなんて……これ、全部コウさんのおかげです!」


「いや、俺はただ段取りしただけで……」


「そんなことないです! コウさんがいなかったら、こんな奇跡起きなかった!」


スタッフたちも駆け寄ってくる。

「コウさん、すごかった!」「まさか魔王を演出の一部にするなんて!」「裏方の鏡だ!」


賞賛の嵐に、俺は照れくさくなる。


でも――悪くない。

前世では誰にも褒められなかったけど、この世界では俺の力が認められている。


そして何より、推しの笑顔を守れた。

それだけで、転生した甲斐があったってもんだ。



数日後。

俺たちは次のライブの準備をしていた。


「コウさん、次は魔王城跡地でのライブが決まりました!」


「ま、魔王城!?」


「大丈夫です! もう魔王いないですし!」


「いやいや、段取りが大変すぎる……」


頭を抱える俺に、ルミナがにこっと笑いかける。


「でも、コウさんなら大丈夫です。だって、コウさんは世界最強の裏方さんですから」


「……買いかぶりすぎですよ」


「そんなことないです。私、ずっとコウさんと一緒にいたいです」


ルミナの真っ直ぐな視線に、心臓が跳ねる。


「俺も……ずっとルミナさんのマネージャーでいたいです」


「じゃあ、決まりですね!」


ルミナが笑顔で手を差し出す。

俺はその手を握り返した。


転生してから、毎日が激務だ。

段取り、調整、根回し。前世と変わらない裏方人生。


でも――今は楽しい。


推しのために、世界のために、俺は今日も裏方として走り続ける。

ライブという名の戦場で。

舞台裏から世界を救う、最強の裏方マネージャーとして。


「さあ、次のライブも完璧にしますよ!」


「はいっ!」


ルミナの笑顔と共に、俺の転生ライフはまだまだ続いていく。

――裏方の力が、世界を救った日の物語。


これが、俺と推しアイドルの、最高のステージだ。


【完】

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