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第八十九話 日常の歪み


 結論。

 捕らえた二人は、ルーリを襲った『求道家連盟』と『神明国教会連盟』のコンビだった。

 ついでに、拉致した時に使った車も同じものらしい。


 手際よく二人を拘束したのはジイジだ。

 この人、絶対、普通じゃない。

 俺はてっきり、元特殊部隊上がりの「暗部」とか、そういう感じだと思っていたのだが……。


「若いころから釣りが趣味でしてね。小さなボートも持ってるんです。結びにはちょっと自信があります」


 ……まさかの好々爺でした。


 で、さっきのグールは、求道家連盟で以前捕らえた奴を連れてきて、この屋敷に放つためにスタンバイさせていたらしい。


「お前んとこじゃ、化け物まで押し付けてくるのか?」


 ガースが遠慮なしで九頭竜さんに訊ねる。


「まさか! 確かに怪しげな“物の怪”を払うことは度々でしたが、こんな話は聞いていません」


「あーちょっとちょっと、当主様に余計なこと言わないでくれますかね、そこの肉ダルマのオッサン!」


「だれが肉の彫刻だ!」


 ガースが怒るが、解釈が勝手すぎる。


「あんた、見ない顔だな。本当に求道家連盟か?」


 九頭竜さんが、拘束された爬虫類顔の男の前にしゃがみこみ、睨みつける。

 当の本人はヘラヘラ笑いながら答えた。


「当主様。お初にお目にかかります。今片いまかたといいます。六鉢部隊ロクハチブタイにいます」


「ロクハチ……!?」


「どうした? なんだい、ロクハチって」


 キリが、サキコお気に入りのコーラを飲みながら訊ねる。

 九頭竜さんは一度言いかけたが、言葉を詰まらせるように息を継いだ。そしてフッと息を吐いて話した。


「随分と昔の組織です。もともと暗部としての役割を担っていた求道家連盟の中でも、特に尖った存在で、時には人をさらいまでして実験動物扱いしているなんて噂もあった部隊です。まだ存在していたなんて……。昭和に入り、廃棄されたはずですが」


「廃棄ねぇ。都合よく切ったつもりが、今や当主様の首を狙うなんざ笑えませんな。そうそう、ロクハチは私だけじゃありませんよ。夜道はお気を付けを」


 今片と名乗る男は下卑た顔で笑う。


 六鉢……か。

 六という数字は、東洋では縁起のいい完全数だ。一方で、西洋では獣の数字にも見られるように不吉な数字でもある。鉢というのも、隠語にまつわるものか……。


 いずれにせよ、当主すら知らぬ組織が動いている。


「で、そっちはどうなんです」


 俺が和泉さんに訊ねると、彼女はただ首を振るだけだった。


 先までの賑やかなバーベキューの雰囲気は消え、皆それぞれが何かを考えこんでいるようだった。


「よろしいでしょうか?」


 口を開いたのはジイジだった。


「とりあえず、その二人の尋問も含め、私どもにお任せ願えませんか」


 ──私ども!? どもって……


 サキコちゃんが「ジイジが……」とちょっと驚いた顔をするが、少し考え頷く。


「私もそれがいいと思います。何しろ私たちには『笑顔を守る使命』がありますから。ね、ルーリさん!」


 ルーリもそれに頷き、「では、お願いしてよろしいですか」と頭を下げる。


 皆納得したようだったけど、アンジュだけ、どこか違うところを見ている気がした。


 気のせいだけかもしれないケド。


▽▽▽


【ケース:須藤香苗】


 それは、俺たちが六鉢部隊の存在を知ってから二日後の出来事だった。

 この街のどこかで、ある少女が──まだ気づいていない脅威に、静かに飲み込まれようとしていた。


▽▽▽


 何気ない当たり前の日常が、いつの間にか知らないうちに変わっていることなんて、今のご時世よくあることだ。


 昨日の常識が今日の非常識。

 昨日まで仲の良かった二人が、今日突然憎しみ合うことだって、まあ、よくある話。


 そして、昨日までカースト上位だった子が、今日になって突然、いじめられっ子に変わるってのもよくある話で、最近じゃドラマにすらならない。


 とはいえ、実際これが自分の身に降りかかった事実だとして、それを呑気に語れる気分じゃない。


 私は須藤香苗すどうかなえ。 どこにでもある高校に通う、どこにでもいる高校二年生だ。


 友達がいないわけでもないし、親友と呼べるほどの友達がいるわけでもない。

 好きな人は何人もいたけど、まだ恋人と呼べる人はいない。 冷静に見て、それほどひどい容姿じゃないと思うけど、可愛いわけでも、綺麗なわけでもない。


 ただ、たまたま同じ中学だった友達のグループに、そこそこ目立つ子が多くて、私も芋づる式にカースト上位のグループにいる。


▽▽▽


 月曜日は嫌いだ。

 また憂鬱な一週間が始まるかと思うと、それだけでホント、マジで死にたくなる。


 そもそも、朝の満員電車が嫌いだ。


 皆ぎゅうぎゅう詰めでピクリとも身動き取れない中、手元の携帯を見つめ、しきりに眼球だけが動くさまは、見ていて不気味でしかない。


 しかもその日は、いつもに増して不快な気分だった。


 まるで、耳元でコバエがぶんぶん飛び交っているような気分。

 いや、実際にどこか、聞こえないノイズが聞こえているような気分。


 この間、ネットで話題になっていた『低周波なんちゃら』のせいかもしれない。

 それが聞こえだすと、人をめちゃくちゃに傷つけたくなるらしい。


 キッコの友達の友達も、それにやられて今入院中だそうだ。


 ま、結局は、「友達の友達」なんか存在しない都市伝説の一つで、嘘ばかりの噂だろうけど。



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