第八十一話 アンジュは心配-2/2
「やるじゃん、二人とも」
シュシュが手を叩きながら喜んでいる。
目の前では、ルーリとシンが共闘を組み、化け物の触手を捌いていた。 シンの動きはどこかぎこちなく、見ているこっちがヒヤヒヤさせられるけど、何とか踏ん張っている様は見て取れた。
「さ、じゃあ私らも参戦とまいりましょうかね」
シュシュが腕まくりをして、どこからか杖を取り出す。
「シュシュ。くれぐれもシンの邪魔にならないようにね!!」
さっきまで『シンガシンガ人形』と化していたリラが、今は元通りに澄ました顔でシュシュを諫める。切り替えが早い。
シュシュは「あい、あーい」と砕けた返事をして杖を振り上げる。
「ちょっと待って!」
私は気づかぬうちに声を上げていた。
「まだ、大丈夫そうだから様子を見ましょ!」
リラとシュシュが驚いたように私を見る。
「なに、ブッコいてんの? アンジュ」
首を傾げるリラ。 続いてシュシュも並んで首を傾げる。
「そりゃ、ルーリちゃんは大丈夫そうだけど。シンは結構アップアップ状態じゃん?」
──それはそう。
確かに、ルーリは自在に剣を振り、危なげなくやり過ごしている。 一方、シンは……おっかなびっくりで剣を振っているように見える。
二人は何やら会話をして、ルーリが一気に前に走りだした。 シンは、剣を振り回し叫ぶ。
「おいこら! 貴様の切り札はこんなもんか! この『腐れピエロ』が!」
どう贔屓目に見ても、とてもそんなセリフが言える状況じゃないのに。
「あ! コケた!」
シュシュが叫ぶ。 隣でリラが「いやー!」と顔を覆う。
「あ! 避けた!」
シュシュは「ドキドキするね~」と楽しそうに笑う。 一方、リラは「シンが! シンが!」と再び壊れ出し、駆け出そうとする。
私は慌ててリラの肩を掴んだ。
「まだよ、まだ。大丈夫。きっと……」
シンはジッと剣を握る手を見つめる。 そして、何かを思いついたのか、奇妙な剣の振り方を始めた。
妙にしなを作り、手首で回すように剣を振る。 その度に、マグナフォルテの炎が尾を引き、残火が円を描く。
「シン……」
彼は何かを変えようとしていた。 ──そう見えた。
「シンが! シンが!」
リラは隣で髪を振り乱しジタバタする。 そんな彼女の肩を掴む手に、私は力を込めた。
「シン! さあ、今よ!」
その声が届いたかのように、彼はマグナフォルテを構える。 その目は、しっかりと敵を見つめていた。
彼はゆっくりとマグナフォルテを揺らす。その炎が螺旋を描き、刀身を包む。 そしてゆっくりマグナフォルテを頭上に掲げた。
触手がその隙を狙い、一斉に集まる。
「行け!」
マグナフォルテの炎が生き物のようにうねる。
「行け!」
シンはゆっくり、腰を落とした。
「行けー!」
ゴォオウ──
振り下ろされたマグナフォルテから、炎の竜巻が触手に向かって放たれた。
その炎が次々に触手を薙ぎ払い、敵本丸の目前まで迫る。 が、防御障壁の間であっけなく消え去った。
「あーあ、おっしーね! あと一歩!」
シュシュが残念そうに呟く。 だけど、私は首を振った。
「大丈夫。届いたわ」
怪人の後ろには、いつの間にかルーリが立っていた。
「じゃ、これでお終い」
彼女のルーガライガが、怪人を切り裂いた。
怪人は黒い霧となり、跡形もなく霧散していく。
ルーリはシンに駆け寄り、パチンとハイタッチを交わした。
隣でシュシュが「へー、やるもんだね」と手を叩いて感心している。 一方、リラは「あの子、ちょっと要チェックですね」と、ギリリと爪を噛んでいた。
私は、そんな二人を見て、アハハと軽く笑ってみせた。
勇者と、元勇者のタッグ。 更に言うなら、元勇者は勇者であった記憶すらない。
ただ、彼は不器用ながらに工夫をして活路を開いた。
「勇者ってやつは……」
私の呟きに、シュシュが「何か言った?」と聞き返す。 私は「なーんにも!」とそっけなく答えておく。
ただ、なんだか嬉しくて、自然と頬が緩んでしまう。
「じゃ、行きましょ」
シュシュが足を踏み出した、その時だった。
バシッ! バシッ! バシッ!
不気味な点滅と共に、周りの車が、まるで生き物のように一斉にエンジンを唸らせだしたのだ。
何も……終わってなんか、いなかった。




