第七十九話 勇者たちの賛歌Ⅱ
屋上駐車場へと続くドアを蹴破った。
広がるのは、数十台の車が整然と並ぶだけのだだっ広い空間。
日差しは強く、コンクリートの白さがさらに眩しく跳ね返ってくる。
その中央には、異様なピエロ姿の怪人。
そして距離を置いて向かい合うのは、紫電をまとった刀を握るルーリ。
俺は彼女の隣へ歩み寄る。
頭上ではヘリが爆音をあげて旋回していた。
見覚えのあるその機体は、以前、俺たちに銃口を向けてきたガンシップだ。
だが今回は横扉が開いており、ソニアが身を乗り出しながらヘルメットを押さえて叫んでいた。
「バッチグーです! 最高シチュ! 二人とも決めポーズちょーだい!」
駄女神二号が好き放題はしゃいでいる。
──遊びじゃないんだぜ。
ちらりとルーリを見ると、俯き、ほのかに耳まで赤くしていた。
「ごめんなさい……うちの女神が調子に乗ってしまって」
大きくため息をつく姿が可愛くて、つい軽口がこぼれる。
「まあ、いいんじゃない? せっかくだし、ノっていこう」
ルーリは一瞬だけ驚いたように目を見開き、すぐに真剣な瞳でうなずいた。
「はい!」
俺は彼女と肩を並べて立つ。
マグナフォルテがゴウッと唸り、炎が呼吸するように揺らいだ。
腰を落とし、切っ先を細めた視線の先──不機嫌なピエロへと向ける。
ルーリは愛刀ルーガライガを天へ掲げ、紫電を弾けさせながら振り下ろし、斜に構えた。
切っ先には雷撃が今にも飛び出すほどの殺気が宿る。
「ぎゃーー! 神カットきた! 名場面きたーー!!」
ソニアの甲高い声が響く。
だが俺たちの視線はもう、ピエロに固定されていた。
怪人は楽しそうに手を叩きながら言った。
「お見事! さすが勇者! キメるときは決めるねー。しかし随分賑やかな女神だよなー、今度紹介してよー、絶対気が合うって」
「無理です。彼女は世界で一番嫌いなのが魔王とピエロですから」
「嘘つけー」
笑うピエロ。しかし目の奥だけが冷たい。
「でもさぁ、さっきはひどいよ。普通あんな投げ飛ばし方したら死ぬって」
ルーリは微笑すら浮かべず、淡々と答えた。
「そのつもりでやりましたけど?」
ピエロの顔が強張る。
「そっか……じゃ、お前が死ね!!」
ピエロの体から、無数の触手が鞭のように伸びてくる。
俺は前に出て、マグナフォルテを握り直した。
肩の力を抜き、迫る触手を見極める。
──きっと大丈夫。
シンの五年間の経験に身を委ねれば、体が勝手に動く……はず。
そう思い目を閉じた瞬間、ルーリの叫びが響く。
「ヤマさん! 目の前!!」
急いで目を開き、剣を薙いだ。
マグナフォルテの炎が触れた触手に絡みつき、生き物のように燃え上がる。
──ギリ、セーフ。
続けざまに襲う触手を、俺とルーリは左右に分かれて薙ぎ払っていく。
だが──気づく。
これは、シンの戦いじゃない。
"ヤマさん"である俺自身の動きだ。
以前のように体が動かない。
それはまるで、『お前が選んだ道なら、お前自身の力で進め』と、身体が拒否しているかのように。
ただ、マグナフォルテだけは違う。
重さや反動で「次は上だ」「ここで振れ」とアシストしてくれている。
──こうなりゃ、思うがままに殺って、殺って、殺りまくってやる。
俺は開き直り、マグナフォルテを振る。
そんな俺の心の葛藤を知ってか知らずか、ルーガライガを振りながらも、チラチラと横目で俺を心配そうに見るルーリ。
「ルーリ! 俺が触手を引きつける! お前は回り込んでフィニッシュだ!」
一瞬戸惑いながらもルーリは「わかりました!」と、目の前の触手を高速剣術で細切れにし、ピエロ目掛けて駆けていった。
俺は怪人の注意を引くため怒鳴った。
「おいこら! 貴様の切り札はこんなもんか! この『腐れピエロ』が!」
「『不機嫌なピエロ』だ! オッサンはウザイから最初に殺す!」
その途端、 触手が高波のように押し寄せる。
──ヤバイ!
大口叩いた手前、カッコつけたいが安全には代えられない。
俺は必死に地面を転がってかわした。
ドスッ! ドカッ!
触手がコンクリに突き刺さり、破片が舞う。
──何か……何かないのか、今の俺にできること!
転がりながら、ふと思い出す。
以前も似たような流れで、回転の反動で炎の螺旋斬を生んだのだ。
試しに手首を回してみる。
赤い炎の螺旋が描かれた。
──行ける!
なんだか、ぎこちないバトントワラーみたいだけど、回転を速めれば早めるほど、残火が刀身を離れ、螺旋を描く。
そこからは、再び襲ってくる触手を手首のスナップを活かし、回転させるように斬っていく。
そして、隙を作ると、大きく剣を回転させた。
渦巻く炎が刀身に集まる。
「絶対うまくいく!」
自分に暗示をかけ、握る手に力と思いを込める。
「くらえ! 螺旋……フレイム(仮)!」
刀身に纏った炎が放たれ、触手を次々と吹き飛ばしていく。
ピエロが慌てて障壁を張った。
炎の螺旋はそこで弾ける。
「はっはー! そんな厨二技で……」
勝ち誇った瞬間。
背後から、冷徹な声。
「じゃ、これでお終い」
──ブレイブ・インパクト!!
ルーリの剣がピエロの背中に叩き込まれた。
ドォォォン!!
ピエロの体が膨張し、黒い霧を噴き出して崩れ落ちた。
「やった!」
ルーリが駆け寄り、パチンとハイタッチ。
俺は肩の荷が下り、ほっと息を吐いた。
俺たちは、願いを込めて勝利を噛み締めた。
──と、次の瞬間。
バシッ! バシッ! バシッ!
駐車場の全ての車のハザードが、一斉に点滅した。
そして。
ブォォォォン!!
駐車場にあった 全車のエンジンが同時に始動する。
続いて、耳をつんざくクラクションの嵐。
──な、何が起こった!?




