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第七十七話 でも私は信じてる


【ルーリ】


 ヘリコプターは海岸線に沿って進んでいた。


 いわゆるガンシップという攻撃ヘリコプター。日本では運用されていない機体だが、『過剰脅威対策室』の別班が使っているやつだそうだ。


 こんなヘリを所有する組織が、まともな組織であるはずがない。


 操縦桿を握っているのは、意外にも後藤だ。

 この男も、単なる役人ではないということだ。


 「後藤さん。さっき私を攫った者たちが、裏で指示を出していたのが『過対室』だって言ってました。あなた私の敵ですか?」


 ヘッドホン越しに、後藤の「タハハ……、えーと」と言葉を濁す声が聞こえる。


「まあまあ、ルーリちゃん。そう可愛い後輩をいじめないでやってくれ」


  太洋さんがこちらへ振り向き、苦笑した。


「そもそも太洋さんは、どうしてここにいるのですか?」


「お、ターゲットが俺に変わったみたいだな」


 軽口を叩いていた太洋さんの表情が、私の真剣な視線を受けて引き締まる。


「『過対室』といえど、一枚岩じゃないってことだよ」


「それってどういうこと?」

 ソニアが身を乗り出す。


 太洋さんは、彼女のヘルメットにちらりと視線を落とした。


「それ、こっちでは流れてないよね?」

 ソニアは声を出さずにコクリと頷く。


「『過剰脅威対策室』、通称『過対室』は、抗うことのできない過剰な脅威から日本という国家を守護する組織で、その起源は平安時代からとも言われている」


「平安時代って?」


「すんごーい昔ってこと」とソニア。


「そもそも、これに類する組織は世界中にいくつもあるんだ。そして、その組織が時には戦争を引き起こし、人類を滅亡させたり、させなかったり……。とまあ、なかなかに面倒な組織なんだよ」


 太洋さんはため息をついた。


「で、日本の国家主導でコントロールしてるのが『過対室』。とはいえ、この中でもいろいろ派閥がある」


「中には、魔王を支持する派閥もある」


 ──魔王を支持する!?


「な、なんで? 魔族たちですか?」


「いやいや、フツーの人間。地球に魔族はいないからねー」


 苦笑いする太洋さん。


「ちょっと考えてほしいんだ。魔王って、どんな奴だろう?」


 ソニアが間髪入れずに答える。


「最悪最低な奴! 人族をはじめ平和に暮らす全生物の敵! 意地悪く、自分勝手。意地汚くて、やり方が汚い。人の不幸が大好きで、二枚舌でウソつき、いつも陰でコソコソ悪だくみしてる!」


 さらに勢いづく。


「あ、あと体中臭くて、食べ方が汚い。口が悪くてサイズの合わない服着ててダサい。空気が読めなくて、いつも人を下げることばかり言ってる。ほかに、えーとえーと……」


 ──ソニア、それただの嫌な奴じゃん。


  太洋さんが呆れたように呟く。


「そんな存在を、魔王以外にも私は知ってるよ。それは……人間」


「「人間!?」」


「そう。人は欲望に負け、悪意を振りかざす。それは時に、魔王もしのぐ悪意をね」


 彼は続けた。


「じゃあ、それに対する勇者とは? どんな存在?」


 ソニアが私を見つめる。


「勇者とは……真摯で誠実。あきらめない心、仲間を思う気持ち。弱いものを助け、全ての心に寄り添う存在。そして、自らの犠牲をいとわない、ゆるぎない心。その行いは公正で正義」


 ……私には似合わない言葉ばかりだ。

 だけど。


 そうありたいと、心から思う。


 ソニアの言葉をじっと聞いていた太洋さんが言う。


「そんな人。いるのかな?」


 彼の言葉にたじろぐソニア。でも、持ち直して返す。


「人? そんな人は……まぁ、いるかいないか知らないけど、稀有ですよ。だからこそ勇者なんです」


「じゃあさ、人はどっちに与するのかな。身近な存在『魔王あくい』と、ありもしない理想を掲げる『勇者せいぎ』と」


 太洋さんはニッと笑い、私たちを見る


 ソニアはたじろぎ、言葉を失って口をパクパクさせている。


 ──でも、私は知ってる……。


「勇者の定義なんて知らない。それを人がどう思うかなんて気にならない」


 口が勝手に動き始めた。


「でも確かに……確かに私は勇者に救われたんです!

 彼は私の未来と家族を守ってくれた。だから私は、それを信じることができます!」


 私は拳を握りしめ、太洋さんを見つめた。

 あの時、私の手を取ってくれた彼のぬくもりを、まだ感じている。


「信じる心……か」


 太洋さんがポツリとこぼす。


「見えてきましたよ!」


 後藤が前方を指差して叫ぶ。


 山間の開けた場所に広がる巨大な駐車場、その中央に鎮座する建物。


「あれが、『ノア・クロモール』です」


 モールにはいくつもの道路が繋がり、車で埋まっていた。

 駐車場は、たくさんの車と人であふれ、ごった返している。


「おかしいですね、開店時間はとっくに過ぎてるのに」


 後藤が建物上空を旋回しながら呟く。


 彼には見えていないらしい。

 建物全体を覆う、油膜のような赤い膜が。


「あれは、隔離結界ね」


 下を覗くソニアが呟く。


「隔離結界? 全く見えないけど、そんなものが張られてるんですか?」


「普通の人には見えないでしょうね」


 ソニアが頷く。


「じゃあ、入れない?」

 太洋さんが窺うように尋ねる。


「まあ、そうね。無理かな……」


 ソニアが首を振る。


 だけど、私は迷わなかった。


「あそこ! あの屋上の駐車場につけてもらえませんか?」


「ダメなんです。さっきから近づこうとしてるけど……なぜだか見えない壁に阻まれて近寄れなくて」


 後藤が情けない声を上げる。


「じゃあ、そこの上空。そこで止まって!」


「ちょっとルーリ! 何する気! まさか……」


 ヘリが建物の真上でホバリングする。


「結構距離ありますよ!?」


 後藤が不安げに叫ぶ。


 ──大丈夫。仲間が待ってるの。


 体の奥に、熱が灯る。


 あの日、戦っていた時みたいに。


 ブワッと熱が全身に広がり、手足が淡く光り始める。


「こ、これ、アニメで見た主人公がパワーアップするやつだ!」


 後藤が歓声を上げ、太洋さんが目を見開く。


 私は横のドアを開いた。


 風が一気に吹き込み、頬を切る。


「じゃ、行ってきます」


 そう言い残し、私は空へ身を投げた。


 ──私は主人公じゃない。


 だけど、私は勇者だ。



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