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4、異世界で宝探し!

 ──夕刻。

 ボクたちはようやっとルニーン・タウンに辿り着きました。

「──さて、かなりの額のお金が入りましたから、ボクらが地球に帰るまでの間にいったい幾つくらいの国を巡れるか、今から楽しみです♪」

「──え?! 円くん、地球に……帰れる…………の?」

「あれ?

 良藍、言ってませんでしたっけ?

 ボクが巻き込まれた異世界召喚の召喚対象者である貴樹君が、見事、魔王を打ち倒した暁には貴樹君を召喚した魔法と対の送還の魔法が使用可能になって、ボクたちはそれに便乗して地球に帰還することが出来るって話」

「ううん、全然。これっぽっちも。今が初耳」

「それは、スミマセンでした。てっきり、話したつもりになってました……あはは……」

 ボクは良藍にそんな重要な事を伝えてなかったことを笑って誤魔化し、

「それでは、一先ず、宿屋に戻りましょう」


「よお、お帰り、お客さん。これまた、ずいぶん可愛らしくなったもんだ」

「ただいまです、宿屋の主人。

 ……………………って、ちょっと待って下さい!

 どうして、ボクの事を──?」

「あー、アンタらが依頼で出掛けてった後に、アンタの連れって騎士さんがやって来てな、色々と話してくれたんだ。

 それに、一緒に依頼に行った二人もいるからな、ピーンときたんだ。

 そんでもって、その騎士さんからの伝言で「すみませんが急用が出来ましたので、申し訳ありませんが、数日間、この街に留まっていて下さい」だとよ。

 あと、その騎士さんがアンタの一週間分の宿泊費を置いていったから、一泊分の残りの料金はいいぜ」

「…………そうですか。伝言、ありがとうございます」

 …………やはり、騎士さんも一枚噛んでいましたか……。ですが、既に済んだ事ですので、今更、とやかくは言わないでおきましょう。

 この度の依頼の件を差し引いても、騎士さんはボクの護衛として、しっかり頑張ってくれていますからね。

 ボクたちはそのまま食堂で夕食を取るため、手近なテーブル席に着き、各々、メニューを注文します。

「ねえ、円くんって、旅の連れがいたの?」

「──え? あ、はい、いますよ。護衛の騎士さんが。今は別々になってますが。これも、言ってませんでしたか?」

「言ってない。これも、初耳」

「それは、またもやスミマセン」

 そういえば、依頼に行く前に話した内容は、この世界に来る前までの事まで、でしたね……。

「円くん、他に、あたしに話してないことないよね?」

「…………はい、話しておくべき事は、もうないですね」

「ホント?」

「ええ、ホントです。話しておくべき事は、もう、ありません。

 それでは、改めてボクたちの今後についてですが、まずは何処に──」

「──ちょっと待って、円くん」

「はい、何ですか?」

「円くん。あたし、思ったの。

 色々なところを旅する前に、先ずは拠点を確保した方がイイんじゃないかって」

「拠点、ですか?」

「そう、拠点。

 拠点が有った方が何かと便利よ。

 例えば、行った先のお土産の保管とか、さ」

「なる程、確かに。」

「それにね、ルニーンは交易の要所で物もあり、物価も安い。しかも、景観がいい!

 実はね、あたし、こういった街に一度は住んでみたかったのよね~。

 どうかな? 円くん」

「う~ん………………、そうですね、確かにこの街なら住みやすそうですね」

「なら、決まりで、いいよね?」

「……うーん……、……………………はい、分かりました」

「──サーハ君はどうかな?」

「私、ですか?」

「そうよ。

 いまのところ、サーハ君も旅の道連れなんだから。」

「…………そうですね…………、確かに拠点を確保した方が今後旅をするにあったって便利かもしれません」

「では、全会一致で拠点の確保が第一目標に決定しました!」

 これで、一先ずのボクたちの今後の方針が定まりました。

 次は、

「では、ボクたちはこの──ルニーンの街に拠点を確保することに決めたわけですが、まずは拠点となる場所を探すこと、それとその場所を確保する為の資金──長期の賃貸料又は購入費──を捻出する手立てを考えなくてはなりません」

「それなら、円くんがお世話になってる“この国”に出して貰えば? きっと、ポ~ンと出してくれるよ♪」

「まったく……、良藍はそんないい加減なことを言わないでください……」

「……いえ、マドカさん、ヒラノの言った事は有り得る話ですよ?」

「な!? サーハ君まで、何を言い出すんですか?!」

 ボクは貴樹君のオマケで来ただけの只の客人。旅の資金を都合してくれたり、護衛の騎士さんを付けてくれたりと、これだけでも、充分に過剰待遇だとボクは思っています。

「いえ、この国──フンドゥース王国は建国当初よりシュモネス教と深い繋がりを持っています。そして、マドカさんは否定なされるでしょうが、現在いまの貴方はシュモネス教にとって新たなシンボルの一つ『神降ろしの御子』なのです。その御子の頼みとあらば、私たちが拠点とする物件くらいは用意してくださるでしょう」

「そうだよ~、円くん。使えるものは何でも使わなきゃ~」

「ですが、それにはこの国の人々の血税が使われるのですよ?」

「──うくっ!」

「──っ!? ……そうでした……。その事を失念していました……」

 ……ふぅ~……、さて、どうしたものでしょうか……?

「──おや? お金の事でお困りでやしたら、オイラたちと一緒にお宝探し(トレジャーハント)しやせんか?」

 唐突に響く、闖入者の声。

 ボクたちは一斉にその声がした方向に顔を向けると、そこには、小柄な男性とガタイの大きい男性が立っています。

「貴方がたは──?」

「おっと、こいつは失礼しやした。オイラはランテ・クーといいやす。そして、こちらはオイラが兄貴と慕うスゴ腕宝探し屋(トレジャーハンター)の──」

「ガメッツだ」

「これは、ご丁寧にどうも。ボクは──」

「あ、自己紹介はいいっす。オイラたち、貴女方の事は少し知ってるんで」

「? そうですか……?」

「へい。貴女は平野 円さん。其方の貴女はトラバーナの勇者の平野 良藍さん。そして、そっちの兄さんが、サーハ・ムン・トラバーナさん。でやすね」

 ──これは、驚きです! ボクの名前をはじめ、良藍の名前も正しいイントネーションで発音しただけでなく、ボクも知らなかったサーハ君のフルネームまでも知っているとは……、このランテという人物は何者なのでしょうか?

 ──ガタタン!

「アンタ──何者?」

 突如、椅子を鳴らして立ち上がり、身構える良藍とサーハ君。その顔には警戒の色が見てとれます。

「……あー、そんな警戒しないでくださいっす。これくらいの情報やしたら、情報屋に頼み込めば誰でも知ることが出来るっすよ?」

 成る程。確かに情報は情報屋ですものね。しかし、ランテさんのその言葉に更に警戒を強める二人。

「…………」

「…………」

「…………二人とも、怖い顔はやめて、座ったらどうです? ランテさんたちも、どうぞ」

「では、お言葉に甘えるっす」

「まあ、お二人さん、そう身構えんなや。別に取って食おうってワケじゃねー。オレらは今度のお宝探し(トレジャーハント)にアンタ等の力を借りたいだけだ」

 いまだ警戒を解かない良藍とサーハ君を余所に、ランテさんとガメッツさんはボクたちが陣取っているテーブル席の空いている席に座ります。しかも、ちゃっかり飲食物を注文迄しています。

「ガメッツの兄貴の言う通り、オイラたちは皆さんの力をお借りしたいんす。なにせ今回、ガメッツの兄貴が狙っているのは“ゴクアン・ニーショの遺産”っすからね……」

「“ゴクアン・ニーショの遺産”?」

「はいっす、今から約1100年ほど前にこのカヴォード大陸全体の経済発展に大貢献した大豪商──それが、ゴクアン・ニーショっす。そのニーショが大病を患い死期を悟ったときに遺言を遺したでやんす。「俺様が死んだ後、この館の何処かに隠してある俺様の私的財産は見付けた奴に一切合切くれてやる!」と。そして、その遺言を遺した数日後にニーショが息を引き取ると、ニーショの遺言の話を聞いた輩がわんさかと“ニーショの遺産”を狙って、ニーショの終の住処がある──このルニーンの地へとやって来て“ニーショの遺産”探しをしたっす」

「──ナルホド。でも、その話を聞くに、“ニーショの遺産”は既に誰かが発見してしまっているのでは?」

「ところが、どっこい、“ニーショの遺産”を発見したって名乗り出た奴は未だに人っ子一人いない」

「そうっす。ニーショの幹部だった人物が記した手記によれば、ニーショの住んでいた館にあったのはごく僅かな貴金属と宝石類、あとは“ニーショの遺産”としては少なすぎる額のお金だけ、だったそうっす。そして、別の幹部が残した日記には、ニーショが盗賊としてカヴォード大陸中を荒らし回っていた時代に集めた金銀財宝の殆どが未だに行方知れず、と記されているっす。詰まり、いくら少なく見積もっても“ニーショの遺産”が前述の幹部の手記に書かれてい内容程度である筈が無いんすよ」

「──? 話の腰を折って申し訳ないのですが……、えっと……、ニーショって、大豪商──じゃなかったんですか?」

「ニーショは元・大盗賊の大豪商っす。彼が元は極悪な盗賊だったと身元がバレたのが、既にカヴォード大陸全体の経済発展に多大な貢献をした後だった為、真実を知った各国の為政者達はその真実を民衆には秘匿したっす。それ故、ニーショは彼の死後にその真実が曝露されるまでの間、偉大な豪商として、人々に崇め奉られていたっす」

「成る程。……そうだったんですか……」

「話を戻しやすと、その行方知れずの金銀財宝がおそらく“ニーショの遺産”であることは確実っす。そして、“ニーショの遺産”である金銀財宝が発見されたのならば、そいつは一大ニュースっす。間違いなく、この国の国内はおろか大陸中に知れ渡ってるハズっすからね」

「確かに。──ですが、そんな千百年間も見付かってない“ニーショの遺産”をどうして今更探すのですか?」

「決まってんだろ? 新しい手掛かりを見付けたのよ、このランテが。やっぱ、持つべき弟分はコイツのように優秀で頼りになる奴に限るぜ!」

「──兄貴~、そんな褒めちぎらないでくださいっすよ~♪」

「ま、そんなワケで、オレたちは“ニーショの遺産”を今度のお宝探し(トレジャーハント)のターゲットにしたのさ」

「そうっす!」

「──ならば、貴方たちだけで、宝探し(トレジャーハント)すればよいのでは?」

 いまだ席に着くことなく、ランテさんたちに警戒の目を向けるサーハ君が話しに入ってきました。

「なあ、兄ちゃん。知ってるとは思うが、お宝探し(トレジャーハント)は命懸けだ。

 だが、命あっての物種って言うだろ?

 だから、オレらは金銀財宝をオレら二人占めという垂涎の憧れを断腸の思いで諦め、確実に“お宝をゲット!”する為に金に困ってるって言っていたアンタらに声を掛けたんだ」

「その割には、どうして、あたしたちの事を前以て調べ上げてるのかしら?」

 さらに、良藍もサーハ君と同様に警戒をしたまま話に加わります。

「そうです、ヒラノの言う通りです。情報屋と先ほど仰ってましたが、()()()()()()まで我々の情報を得る意図は何です?

 それに、此処は“冒険者の宿”です。ハッキリ言って、我々よりもあなた方の役に立てる冒険者の方はたくさんいます。

 なのに、何故、我々を選んだのですか?」

「そいつはアレだ……。

 確かに、アンタらよりも其処いらの冒険者の方が普通的には役に立つ。

 だが、アンタらは普通的じゃないところで役に立つと、オレは踏んだ」

 そう言ってガメッツさんはボクに視線を向けます。

 その視線に良藍は目聡く気付いたようで、

「──そういう理由ワケ……ね。

 アナタたち、円くんが精霊と契約しているのを知ってたのね?!」

「おや、兄貴の意味深な視線の所為でバレちまいやしたぜ」

「──いや、ランテ。どのみち、声を掛けたワケは話すんだから、オレらが掴んでる情報をコイツらにバラしたって問題ねーだろ?」

「ですがね、兄貴。

 交渉が成立する前に相手に有利な交渉材料カードを教えるのはマイナスっすよ。

 交渉が成立する前は相手が気付いていない有利な材料カードは隠し通しておくのがセオリーっす。

 なにしろ、交渉成立後に交渉を有利に進める材料カードが発覚しても、交渉は成立しているので、後の祭りっすからね」

「おお! なる程!

 流石は、ランテ。頭が切れるな!」

「兄貴はもう少し交渉術を学んでほしいっす……」

「──ま、そういうワケでアンタらに声を掛けたんだ。

 精霊と契約を結んでる奴は正規の魔法使いと違って、即座に魔法が使えるから、何かと便利だからな。

 そんでもって、お宝探し(トレジャーハント)が成功した暁のお宝の取り分だが、オレら7でアンタら3でどうだ?」

「はあ?!

 何言ってんの?!

 普通、こういう場合、5:5でしょ?」

 ──ガタン。

 警戒を完全には解いてはいませんが、良藍は剣呑さを引っ込め椅子に座りつつ、ガメッツさんの言ったお宝の取り分に文句を付けます。

 流石にボクも7:3は無いと思います。

「だがよ、お宝の話を持ち掛けたのはオレらの方だぜ?

 それに、お宝を見付けるのに必要な情報もオレらが持ってる。これだけでも、オレらのお宝の取り分が多いのは至極当然だ。

 本来なら8:2と言いたいところを7:3にしたんだ。ありがたく思われても、文句を言われる筋合いはねー!

 イヤなら、この話は無かった事にするだけだが……、どうする?」

「そうね、この話、無かった事してくれて結構よ!」

「私も、ヒラノに賛成です。“ニーショの遺産”はニーショが最後に吐いたホラというのが、世間一般の定説です。

 そのような事に時間を費やすよりも、コツコツと拠点確保の資金を稼いだ方が建設的です!」

「……そうですね。ボクも二人の意見に──」

「──待って下さいっす!!」

「──はて? 何ですか?」

 話がまとまりかけたところで、ランテさんが待ったを掛けてきます。既にボクたちの意思は“話は断る”で固まっているのですが……、今更、何でしょうか?

「お宝が見付かったときの取り分はオイラたちが6で貴女たちが4で、どうっすか?」

「おい、ランテ!?」

「兄貴は少し黙っててくださいっす!」

「……今さら、宝の取り分を適正にされても、ねぇ~?」

「ええ。既に話は決着が着いています」

「すみません、ランテさん。この話は無かったという事で──」

「──なら、もしも、お宝が見付からなかったときは、この度のお宝探し(トレジャーハント)に貴女方が使った“経費”の全額をお支払いしやす!

 ですから、どうか、オイラたちに力を貸して下さいっす! この通りっす!!」

 そう言って、ランテさんは頭を深々とテーブルに着きそうなくらいに下げます。

「へぇ~、宝が無かったときは“経費”を全額ねぇ~…………いいわよ。その条件なら、アンタたちの宝探し(トレジャーハント)に協力しても♪」

 うわ~……、良藍が悪い顔をしてます。これは、してやったリです。

「ヒラノ!?」

「ホント、良藍は悪知恵が働きますね~」

「そんなに褒めないでよ、円くん~♪

 照れちゃうじゃない~♪」

「ちょっと、待てよ!?」

「兄貴……、交渉は成立したっす。後の祭りっす。……まったく、兄貴が余計な欲をかくから、“もしもの時”のリスクを背負うハメになったんすよ?」

「──うぐぐぐ……、スマン……。つい、いつもの癖で、がめついちまった……」

「マジ、反省して下さいっす。

 それじゃ、オイラたちと貴女方──円さんたちとで“ニーショの遺産”をトレジャーハントすることが決まりやしたので、早速、打ち合わせに入ろうと思いやす。

 異論のある人はいるっすか?」

「ないです」

「ないわ」

「……わかりました」

 ──ガタン。

 サーハ君はここにきて、漸く立っているのが自分だけと気付いたようで、ランテさんへの返事と共に自然を装って椅子に座ります。

「そいじゃ、まずは日程っすが、明日を各々の準備日にし、明後日にトレジャーハントを開始するっす」

「あの?」

「はい、何すか? 円さん」

お宝探し(トレジャーハント)に必要な道具とは?」

「その辺は心配しなくともいいっす。お宝探し(トレジャーハント)に使う道具やその他の備品・食糧はこっちで全部用意するっすから、円さんたち──いえ、円さんは装備を調えてくださいっす」

「え? ボクだけ?」

「そうっす。円さん以外のお二方は荒事に慣れているみたいっすからね。

 円さんは初心者でやすよね?」

「ええ。まあ、そうですが……」

「なら尚更、身を守る装備を調えてくださいっす。

 何事も命あっての物種っすから」

「わかりました」

「他に日程関連で質問のある方はいるっすか?」

 ……………………。

「じゃあ、次に移るっす。次にターゲットである“ニーショの遺産”が眠る館があるのが──」

 ランテさんはテーブルの上の飲食物や空の食器を隅に除け、地図を広げて話しを続けます。

「──此処。ルニーンを囲う壁を北側から出て、直ぐ北にある森の中を10分ほど歩いた場所っす」

 ランテさんは指で地図上の森を指してから、今度はその指を地図上のルニーン・タウンを囲う壁の北側の出入口を指し、

「そして、明後日の集合場所は北門前にするっすが、異論のある人はいるっすか?」

「はい」

「なんっすか?」

「一緒の宿に泊まってるんだから、わざわざ集合場所を決める必要ってあるの?」

「はい、あるっす。オイラたちはココとは別の宿に泊まってるっすから」

「ふ~ん、そうだったの。わかったわ、話しを続けて」

「では、明後日はルニーンの街の北門前に朝に集合っす。遅刻は厳禁っすよ!」

「は~い♪」

「あと、他に何か聞きたいことがある人はいるっすか?

 いないのでしたら、これで出発前の打ち合わせは終了っす。各人、明後日に備えて、英気を養っておいてくださいっす」



 ──明けて翌日。

 ボクと良藍は、昨日、ランテさんに言われた“装備を調える”為に服屋に来ています。

 ん? 服屋?

「あの、良藍。ボクらは装備を調える為に街に出たのに何故に服屋?」

「そんなの決まってるじゃない♪ 現在いまの円くんに合う服を買う為よ。幾ら装備を調えても、服が似合わなければダサダサで格好が付かないわ」

「…………まあ、確かに、良藍の言うことには一理あります。が、……ならば選ぶべき服は、上に防具を身に付けるのですから、シンプルで動きやすく丈夫な生地のモノを選ぶべきですよね?」

「そうね。そうなるわね」

「でしたら、どうして良藍が選んで持ってくる服は、デザイン性に富んでいたり、コスプレ系に見える特殊なモノだったりするんですか?

 しかも、必ず試着をさせるのにはどんな意味があるんです?」

「……ん~、あたしが円くんを着せ替え人形に見立てて楽しむ為?」

「……………………」

「……………………てへっ♪」

「……「てへっ♪」じゃ、ないですよ! マジメに選んでください!」

「え~……、これでもちゃ~んと、マジメに選んでるよ?

 円くんを如何に映えさせるかって、真剣に考えて選んでるんだから~♪」

「…………………………………………」

 ──これは、埒が明きそうにありませんね……。ハッキリ言って、自分の衣服を選ぶセンスに自信はありませんが、良藍に任せっきりにするよりはマシです。

 なので、ボクは今試着している服から、元から着ていた服に着替えると、試着室を出て──、

「──お客様、お気に召すモノはありませんでしたか?」

「──にょわっ!」

 試着室を出た直後、そこには服屋の店員さんがいて、思わず変な声を上げてしまいました。

「あら、お客様、驚かせてしまったようで申し訳ありません」

「いえ……、大丈夫ですので、お気になさらず……」

 正直、試着室から出た直後、眼の前に店員さんがいたことにはヒビリましたが、これは好都合です。

「あの、店員さん。ボク、今度トレジャーハントをしに行くのですが、連れがトレジャーハントには不向きな衣服ばかり持ってきて、困ってたんです」

「まあ、そうでしたか。それでしたら、僭越ながらわたくしが、お客様の召すモノを選りすぐってまいりますが、如何でしょう?」

「はい、お願いします」

「では、何かご要望はありますか?

 仰って頂ければ、より、お客様がお気に召すであろうモノを選りすぐってまいります」

「でしたら、“シンプルで”、“動きやすく”、“丈夫な生地なモノ”を見繕ってもらえますか?」

「かしこまりました。“シンプルで”、“動きやすく”、“丈夫な生地なモノ”ですね。……そうですね……、…………!

 それでしたら、お客様にピッタリなとっておきの“モノ”がございます。今すぐ、取ってまいりますので、少々、お待ち下さい」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 そう言うや、店員さんはお店の奥へと入って行き、──そして、数分後、衣服が入っているのであろう箱を抱えて戻ってきました。

「お待たせしました、お客様。こちらがお客様のご要望に適った“モノ”になります。どうぞ、まずは試着なさってみてください」

「はい、ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて──」

 ボクは店員さんが持ってきた箱を受け取り、試着の為、再び試着室の中へ。


 ──シャー……。

 そして、箱の中に収められていた衣装に着替えたボクは試着室のカーテンを開けて、外で待つ良藍と店員さんにその姿を見せます。

「おおー! スゴい似合ってるよ、円くん♪」

「やはり、その衣装はお客様にピッタリでしたね」

「…………そうですね………」

 二人の褒め言葉通り、姿見で見た、店員さんが持ってきた衣装に身を包んだボクの姿は様になってます。なってはいますが──、

「あの……店員さん……、ボクは“今度トレジャーハントしに行くので”と言いましたよね? この衣装、どう見てもデザイン性が優先な上にトレジャーハントには不向きですよね?」

 そう、現在いま、ボクが身に纏っている衣装は、上はノースリーブで肩口の部分にはレースでヒラヒラの縁取りが施され、更に胴の部分には布地と同じ色の刺繍糸で緻密な紋様が所狭しと刺繍されていて、下は上と同じ布地で作られた膝上丈のミニスカートで、こちらにも上と同様に布地と同色の刺繍糸で同じく所狭しと緻密に紋様が刺繍されています。

「──いえ…そちらの衣装はお客様のご要望通りの“モノ”でございます」

 ──嘘吐け!!

 堪らず、喉から出そうだった言葉を、なんとか口から出る前に心の内のみで吐き出します。

「あの、店員さん。何処が、ボクの要望通りなのでしょうか?」

「はい。まずは、素材の元々からの色を活かした“シンプルな”色合い。次に上はノースリーブで下はミニスカートと、腕や足の動きを邪魔しない“動きやすさ”。そして、この衣装に使われている生地は、最高級品の一つであり最も丈夫な糸である『デモンスパイダーの縦糸』で織られたモノなのです──」

 『デモンスパイダーの縦糸』って……。──

 ──これは、ボクがまだ王都フンドゥリアに居た頃の話ですが、たまたま服屋を覗いたときに、その店の店員さんから、こんな事を教えてもらいました。

 「この世界──カドゥール・ハアレツでは『エンジェルモスの繭糸けんし』と『デモンスパイダーの縦糸』で織られたそれぞれの布地は他の追随を許さない程までの最高級品でして、どちらも値段はかなり張りますが、その値に見合うだけの文句の出ようが無い超一級品なんですよ」と。

 そんな高級品である『デモンスパイダーの縦糸』を使った衣装……──、値段は推して知るべしです。

「──しかも──」

 『デモンスパイダーの縦糸』ってだけでも値が張るのに、更に付加価値が付くのですか?!

「──現在は残念ながらお亡くなりになってますが、稀代の錬金術師イゴース・キーレン氏の手により、『デモンスパイダーの縦糸』が元々持つ“高い耐刃・耐熱・耐火・その他諸々”といったプラスの特徴を可能な限り錬金術によって極限まで高められ──」

 うわ~、“稀代”ってことはべらぼうに付加価値が付くんじゃないですか?!

「──更に──」

 まだ、何かあるのですか?!

「──こちらの方も現在は残念ながらお亡くなりになっていますが、稀代の付与魔道士エンチャッターイーダ・イ・ジャーケン氏の手により、着用者を自動で護る魔法を詰め込めるまで詰め込んで紋様の形にして縫い込んであります。しかも、魔法発動時に使用される魔力は空気中の無色の魔力が使用されるため、着用者が魔法道具などをバンバン使用して魔力切れを起こしていても、着用者を護る魔法は発動するという親切設計になっております」

 あ~……、これは……、“稀代”の重ね掛けで、“倍率ドン!”ですね……。

 いくら、超高性能でも、まず間違いなく手が出せるような価格でないことは明らか。

 ──ですが、一応、お値段くらいは記念に聞いておくとしましょう。

「それで、この衣装の価格は如何程なんですか?」

「はい。現在いまなら、超超超超~出血大サービスの持ってけドロボウな超激安爆安もうほぼ只同然の超大特価! なんと! 元々の販売価格からの99,99%引き!! そのお値段は────」

 ────ボクは店員さんが告げた、この衣装の値段から元値を逆算した結果、あまりにも途方もない金額に、愕然としてしまいました。

 頭の中で予想していた額の遥か上を行く元値。これは何か裏が──

「──買った!」

「はい♪ 毎度、ありがとうございます♪」

 ──って!?

「良藍!? なに勝手に買うこと決めちゃってるんですか?!」

「え~、だって、普通じゃ絶対に手に入らないし、超高性能な上にデザイン性もバッチリで、しかも、円くんにピッタリな衣装が現在いまなら買える値段で売られてるのよ。これは、もう、“買い”の一択しかないでしょ?

 それに、これ買っちゃえば防具を買う必要が無くなるんだから手間が省けて、よりお得よ♪」

「そうですよ、お客様。お連れ様の言う通りです。このような好機チャンスはもう二度とありませんよ?」

 わ~……、なんだろう、店員さんのこの取って付けたような言い様は……。絶対──、

「──裏ありますよね?」

「ギクッ~!

 な、何のことでしょうか、お客様?」

 あ~、やっぱり、あるんだ。

「裏、あるんですか?」

 どうやら、良藍も漸く疑問を持ったようで、店員さんに問います。

「………実はその衣装なんですが────」

「──まさか!?

 何か曰くがあるんですか?!」

「──いえ、曰くなんて何もありませんよ。ただ……実は、現在いまから二十年ほど前の話なのですが、当店の先代──現在は隠居してのんびり暮らしているわたくしの父──が、知己の間柄でしたキーレン氏とジャーケン氏との酒の席で、冗談で“防具の要らない衣服を作ってみないか?”と話し合ってたそうなんですが、それが何故か“実際に作ってみよう”という話になり、作られたのがその衣装になります。

 しかも、当時、キーレン氏とジャーケン氏は両者共に全盛期だった故に、お亡くなりになるまでお弟子さんの育成に尽力した後年とは異なり、無茶な領域にまで踏み込んで、キーレン氏は錬金術で素材の性能をとことんまで高め、ジャーケン氏は彼が永年の修行と研究で会得した防護系の魔法のすべてを惜しみなく紋様の形にして縫い込んだのです。そして、完成したのが、その衣装です」

「成る程」

「ですが──」

「「──ですが?」」

「──とことんまで追究した結果、その衣装を作るのに掛かった費用は膨大で、当時は王都の一等地に構えていた本店や他の街にあった支店のほぼ全てを手放すハメになってしまったのです。

 しかも、出来上がったその衣装は当時から既に超有名であったお二方の付加価値も相まって、誰も買い手がつかず、ずっと店の奥に仕舞われていたのです」

「そうでしたか……」

「店員さんも、苦労してたのね~……」

「はい……。ですが、今日、こうしてお客様にお買い上げいただいて、きっと両氏も漸く日の目を見る、ご自分らの最高傑作のことを草葉の陰から喜んでいると思います」

 そう話を締め括った店員さんは、感涙にむせび泣き、ボクたちの手を取り感謝の握手をしてきました。

 良藍は店員さんの話に感銘を受けたようで、店員さんと同じく感涙を流し、店員さんの思いを分かち合っています。

 ──が、何処が曰くナシなのでしょうか? 酒の席の思い付きで、店員さんのお父さんは大損害を被っているのに……。

 ですが、ボクはその事に突っ込みを入れたりはしません。

 折角、店員さん的には大団円な思いなのですから、そこに水を差すような真似をするのは野暮です。

「──しかし、物足りないわね……」

「ん? はい、何が物足りないのです、良藍?」

「うん、今の円くん、衣装がとっても似合っていて、コレだけでもイイんだけど、物足りなさを感じるのよね~……」

 良藍の言葉を受けて、ボクは改めて今の自分の格好を見てみます。──そうですね~……、

「袖が無いので、腕を保護するグローブとかあると助かりますね」

「──うん、そうね。衣装と合う色の二の腕まであるロンググローブとか良さそうね。それとブーツも衣装に合わせた方がいいわよね」

「確かに。その方が見映えも良さそうです」

「……あとは……」

「あー、この衣装、スカートの丈が短いのでスパッツとか──」

「──却下!」

「はい?」

「だから、スパッツは却下よ」

「な、何故です?! スカートの丈が短いのですから、激しく動いたら下着が見えちゃうじゃないですか?!」

「それが、イイんじゃない♪

 下着が見えて、恥ずかしがる、円くん~♪

 はあ~……可愛い~♪」

「何を想像してるんですか!?」

「え? 聞きたい?」

「…………いえ、いいです……。どうせ、良藍のことですから、あっち方面の想像──いえ、妄想なのでしょうから……」

「さっすが、円くん~♪

 あたしのことならなんでも分かっちゃってるんだから~♪」

「はあ~……。もういいです……。

 店員さん、すみませんが、この衣装に合うロンググローブとブーツ、それと──」

「──ガーターベルト付きのストッキングを持ってきて下さい」

「はい、かしこまりました。直ぐにお持ちしますね」

「──ちょっ、良藍、何を言ってるんですか?!」

「“何?”って、円くんの今の衣装を補完するアイテムを店員さんに持ってきてもらうように頼んだだけじゃない~?」

「それは、分かりますが、良藍が頼んだ“ガーターベルト付き”っていうのはなんですか?

 普通にストッキングだけでも充分じゃないですか」

「ダメよ!

 普通のストッキングじゃ、円くんの下着が隠れちゃうじゃない!!

 だから、下着のチラ見が可能でありながら、しっかりと脚も保護できるガーターベルト付きのストッキングを選んだんじゃない」

 駄目だ。この人……。

「お待たせしました、お客様。ご要望の品をお持ちしました。どうぞ、サイズなどがお合いになるか試着なさってみてください」

「……あ、ありがとございます、店員さん」

 店員さんから受け取った品を手にボクは、三度、試着室に入り、それらを身に着けていきます。

 まずはロンググローブ。片手づつ腕を通して、途中に出来た弛みを伸ばして完了。グローブを嵌めた手を試しにグーパーしてみますが、違和感はなし。しかも、衣装と同じくらい肌触りも良いい。これは、買いですね。

 次はブーツを手に取りますが、一応、店員さんが“こちらも”わざわざ持ってきてくれたのですし、試着ぐらいはしてもいいでしょう。

 ボクは手にしたブーツを一旦手から放し、ガーターベルトと、そのガーターで吊し留めするストッキングを手に取りす。

 仕方なく……ホント~に仕方なく、ボクはガーターベルトを着けストッキングを両脚それぞれに履き、ガーターベルトの紐でストッキングが落ちないよう吊し留めます。

 あとは再びブーツを手に取り、足に履かせていきます。

「出来ましたよ」

 ボクは試着室の外で待つ、良藍と店員さんにアイテムの身に着けが完了したことを声で合図してから、試着室を出ます。

「おお! これで、外はパーぺきだね♪ でも、普段は見えないところは……Bat.だよ、円くん」

 そう言って、良藍はなんの躊躇もなく、ボクの着ている衣装のスカートをたくし上げます。って──!?

「何してるんですかっ!?」

「やっぱり、ガーターの紐を外側にしてる……」

「それが、普通じゃないんですか?」

「……はぁ~……。分かってないな~、円くんは~。元男なんだから、ガーターの紐は下着の内側を通すものって、知ってると思ったんだけど……。どれ、あたしが直してあげる♪」

 言うが早いか、良藍はボクが履いているストッキングを吊し留めしている紐を外すと、紐を一旦上に上げて──


「これで、よし♪ 今度こそ、すべてがパーぺきだわ♪」

「はい♪ お客様、とても、お似合いです♪

 まるで、伝説に出てくる『最初の魔王』を打ち倒した『二代目の勇者』様みたいですよ♪」

「──!?」

 そう、囃し立てる店員さんの言葉に条件反射的に体がピクッと反応してしまいましたが、良藍も店員さんも気付かなかったようなので、ここは知らぬ存ぜぬを押し通します。

「……それは、また、畏れ多いですね~……」

「そんなことありませんよ、お客様♪」

「……そうですか? あはは……」

 ぎこちない照れ笑いで、ボクはこの場を〆ると、

「それじゃあ、店員さん、お会計を。ちなみに、購入するのは、この衣装とロンググローブとブーツ……あとは──」

「──ちょっと、待って、円くん。

 ガーターベルト付きのストッキングを忘れてるわ!」

「あ、店員さん。彼女の言葉は無視していいので、あとはスパッツなんかを──」

「だから、“スパッツは却下!”って、言ってるでしょ!!────」



 ──結局、なんやかんやで良藍に押し切られ、ボクのスパッツを買おうとする試みは尽く阻止されてしまいました。因みに、衣装とその他諸々を合計した代金は、昨日の依頼で手にした報酬額全体の約67%にまで及んだことをここに記しておきます。

「ねぇ~、円くん。武器屋なんかに来て、どうしたの?

 あ、もしかして、腰に差してる小剣を研いでもらうの?」

 そう、服屋を後にしたボクたちは今、武器屋に来ています。そして、何故、武器屋に来たかというと、

「──いえ、新たな武器を買うんですよ」

「え~……、でも、円くんの護身術と併せれば今持ってる小剣でも充分だと、あたしは思うんだけど?」

「ええ。確かに、この剣が普通のモノのらば、新たに武器を買う必要はないのですよ……」

「普通じゃないの?」

「そうです。この小剣には“斬った相手の持つ、全てのエネルギーを吸い取る”っていう、物騒極まりない能力があるんですよ。ただ、その“吸収能力”の発動対象は“悪しき罪を犯した者”のみで、しかも、“犯した罪の量”で一度に吸い取る量が決まり、犯した罪が多ければ多いほど、一度の吸収量は跳ね上がるんです」

「何それ!?

 スッゴい便利じゃない♪

 円くんが要らないのなら、あたしに頂~だい♪」

「ダメですよ。コレは貸与されている物なのですから。地球に帰る時には返さないといけません。それに、物騒な能力付きですがこの小剣は聖剣ですので、聖道具使いでないと能力は扱えませんよ?」

「な~んだ、残念。ソレさえあれば、──あんな人でなしな奴等、楽に殲滅出来るのに……──」

「ン? 良藍、いま“残念”の後に何か言いましたか?」

「ううん、な~んにも。きっと、円くんの空耳だよ」

「……そうですか。」

「ところでさ、円くんはその小剣の能力を知ってるのにどうして使おうとしないの?」

「……………………そうですね、…………“気が滅入る”から…………ですかね…………」

「“気が滅入る”?」

「ええ。これは、ボクが此処──ルニーン・タウンに着く、一週間ほど前にあった事なのですが────」


 ────その日、ボクと護衛の騎士さんが街道を歩いていますと、偶然にも盗賊団に襲われたんです。

「やいやい、テメェーら、大人しく金目の物を全部出しな!

 そうすりゃ、優~しく、嬲り殺しにしてやるよ!」

 開口一番、盗賊の親玉はとんでもない事を口走ってきました。

「断る、と言った場合はどうするのです?」

 そんな理不尽な言葉に騎士さんは挑発するように定型文な返しをします。

「はん、そんときゃ、素直に金目の物を差し出して嬲り殺しにされていた方が良かったって思えるような、惨たらしい殺し方でぶっ殺してやんよ!!」

 さらにとんでもない事を口走る盗賊の親玉。

 これはまた、まれに見る、下衆げす過ぎる外道です。

「なんとも、度し難い連中ですね。貴男方のような悪逆卑劣な輩は一刻たりとも生かして於けません!

 成敗してくれますから、其処に直りなさい!!」

「ハッ。よく吠えるは小娘が!!

 野郎ども!

 まずはこの生意気な口をきく騎士サマをひん剥いて、生意気な口をきけなくなるまで、たっぶりと可愛がってやんな!!」

 親玉の号令に盗賊達は「待ってました!」と言わんばかりに、我先にと騎士さんへ襲い掛かってきました。

 しかし、盗賊達が騎士さんの間合いに入った瞬間、騎士さんの剣が閃き、文字通りの一撃必殺にて盗賊達を地に臥します。

 その光景に後続の盗賊達が浮き足を立ち、隙が生まれます。

 勿論、騎士さんはそんな隙を逃すはずもなく、浮き足立つ盗賊達の中へと飛び込み、一撃必殺の剣閃で次々と盗賊達を屠っていきました。

 そんな、自分の予想とは異なりすぎた展開に呆然としていた盗賊の親玉ですが、すぐに気を取り直すと、今度は、

「──チッ。小娘は後回しだ! 先に男の方を八つ裂きにしろ!!」

 そう言って、ボクの方へと盗賊達を差し向けてきました。

 勿論、ボクはこんな所で死にたくはないので、身を護る為に腰に差している剣を抜いて構えます。

 やがて、ボクのところへ辿り着いた盗賊が凶刃を振りかぶり斬り付けてきますが、ボクは幼少の頃より自分には必要と思って習ってきた護身術を用いて、盗賊の凶刃を手にした剣で受け流し、逃げ回ります。

 しかし、逃げ回るだけでは──当たり前ですが──盗賊の数は一向に減りません。このままでは、ジリ貧になるのは必定。已む無く、ボクは現実において人に向けて刃物を振るう覚悟をしました。

 そして──、ボクは斬り掛かってきた盗賊の凶刃をなすと、護身術の道場で習った迎撃方法通りに盗賊に一太刀を浴びませました。

 しかし、やはりにわかの覚悟では躊躇が生まれ、ボクが振るった剣は盗賊の腕に数センチ程度の掠り傷を付けただけでした。

 ですが──、ボクに掠り傷を負わされた盗賊はその場に立ち尽くしたまま一向に動こうとしません。仲間の盗賊が「どうかしたのか?」と近付いた瞬間、“ソレ”は起こりました。

 ボクが掠り傷を負わせた盗賊が突如、映像を早送りしたみたいな早さで干からびていき、そして、終には土気色の木乃伊ミイラのようになった直後、一陣の風に吹かれると、まるで粒子の細かい砂で造った城が風に吹かれて一瞬で消えてしまうが如く、その盗賊は塵一つ残すことなくこの世から消え去ってしまいました。

 そして、その光景を目の当たりにした、ボクと盗賊達は啞然呆然となって立ち尽くしました。

 ただ、そんな誰も動かないであろう雰囲気の中を一人だけが止まることなく動き続けていました。それは、騎士さん。あまりの光景に茫然自失状態の致命的な隙を生じさせた盗賊達の首をスマート且つ迅速に次々と斬り飛ばしていきます。

 その事態に気付いた盗賊達が慌てて対処しようとしますが、時既に遅し。騎士さんの剣閃は残り全ての盗賊達の首を瞬く間に斬り落としました。

 そして、騎士さんが剣に付着した血のりを振るい落とし、剣を鞘に収めたとき、生きて息をしているのは、ボクと騎士さんと手配書に生け捕り推奨と記されていた盗賊団の親玉とナンバー2の男だけでした。

 騎士さんは生かしておいた盗賊団の親玉と生け捕り対象の男を素早く昏倒させると、野宿用の組立式テントに使う紐で縛り上げ、更に逃げられないように近くの木に括り付けます。

 その後、ボクと騎士さんは死屍累々を一カ所に纏めると、騎士さんの持つ魔法道具を用いて、それらを灰も遺らないほどに火葬にしました。

「──円さん、気分が優れないようですが、どうかなさったのですか?」

 いまだ、火葬した火が燻っているのを見詰めているボクに騎士さんはボクの顔色が優れていないことを気遣ってくれます。

「……人を実際に殺めるのは、こんなにも……後味の悪いものなのですね……」

 ──いくら、正当防衛。

 ──いくら、相手は法の下では極刑の極悪人。

 ──いくら、それが不可抗力であったとしても……。

 それでも、ボクには人を殺めたことは重いです。

 仮想空間没入型ヴァーチャルダイブのゲームでは平気で対戦相手を斬り付けたり、殺害げきはしたりしてましたが、やはり所詮はゲームでした。

「円さん、あまり気に病むことは有りませんよ。彼等は殺されても文句を言えない程に此れ迄に罪の無い人々の人権を悉く踏みにじってきたのです。

 連合国の法にも“罪無き者・落ち度無き者の人権を一方的且つ著しく侵害した者は自らの人権を放棄したと見做す”とあります。詰まり、彼等は自ら自分の人権を棄てて文字通り“人でなし”になったのです。

 ですから、“人を辞めた”彼等の事で心を痛める必要はないんですよ?」

「……そう……簡単に割り切れたのなら、少しは楽なのかもしれませんが……、ボクには難しそうです……」

「──…………そうですか──」

「──…………そうです──」

「…………」

「…………」

 ……………………。

「──それにしても、『勇者の剣』を参考に試作された聖剣は問題なく効果を発揮したみたいですね」

「勇者の剣を参考にして試作された聖剣?」

「はい。円さんが持ってる、その小剣の事です。『勇者の剣』がもつ“魔王に対する特効能力”を模倣した試作の聖剣なんです」

「…………」

「そして、その剣の効果は“刃が触れた相手が此れ迄に犯した悪しき罪の数に応じた償いを支払わせる”というモノなんですよ。因みに、“償い”として支払わさせられるモノは“その人間が保持している生命力・魔力・体温(熱エネルギー)神経パルス(電気エネルギー)・その他諸々のエネルギー全て”なんだそうです」


「──そんなワケで、ボクはこの剣を使うのは“気が滅入る”のです。刃が触れただけで、相手が悪人だと殺してしまう……剣。正直、出来るだけ、人を──いえ、無益な殺生はしたくないです……」

「……ふ~ん、そうだったんだ」

 “武器屋に来た理由”を話し終えたボクは、早速、武器を物色していきます。

 店内に陳列されている武器は主に剣類や槍類といった刃物系が大半を占めます。他には飛び道具類は弓矢やボウガン、鈍器はハンマーや棍棒、あとは盾やら鞭やらといった物まで列んでます。

 一先ず、鈍器を見て回ります。鈍器であれば打ち所が悪くさえなければ、襲ってきた相手を殺める可能性は低いですからね。

 ボクは目の前の棚に置かれた金属で出来た棍棒を一つ、試しに持ち上げてみますが、

「……思ってた以上に重いですね……」

 これでは、身動きがうまく取れません。他の物もいろいろと手に取ってみますが、どれも最初の物と同じで重いです。

 ならば、ハンマーならばと、一番軽そうな物を持ってみようとしますが、あまりの重さに両手でも持ち上がりません。

 ボクは鈍器を諦め、次に飛び道具類を見てみます。

 しかし、ボクは弓道やアーチェリーといったものは仮想空間ヴァーチャルでもやった事がないので、必然的に手に取るのはボウガンになります。

 ボクは初心者向けレクチャー用と書かれたポップが前に置かれているボウガンを手に持って、一緒に置かれていたレクチャー表に従って矢を番える練習をしてみます。

 勿論、練習用ですので矢その物は装填されてはいませんので、失敗しても大丈夫。ボクは発射台に矢が装填されていると思って、ボウガンを発射可能状態にするべく、レクチャー表通りにボウガンを操作しますが、

「……これ、って、かなり力がいるん……ですね……」

 ボウガンの弦が発射可能位置まで到達するのに予想以上に時間が係り、これでは実戦では使い物になりません。

 次に行きましょう。

 次は、その他の中で目に付いた武器──鞭を見てみます。

 確か、二十世紀末に制作された映画で教授で冒険家の主人公が鞭を武器に活躍する物語がありましたが、あんな風に扱えるには相当な練習が必要でしょう。それに、良藍がイヤラシイ変な目でこちらを見ているので、なんとなく鞭はやめたほうがよさそうです。

 ……そうなりますと、結局は刃物系になるわけですが、どうしたものでしょうか……?

 ボクは刃物系が陳列されているエリアをうんうんと呻りながら、行ったり来たりして物色しますが、どうにも腰に差している小剣の事が頭を過り、やはり刃物系には難色が出てしまいます。

 そんな徒に時間が過ぎていく中、唐突にあるポップとその下に傘立てのように沢山の剣が無造作に放り込まれている入れ物が目に飛び込んできました。

 そして、そのポップにはこう書かれています──


 ──セール品──

 一本、100メルカ。

 三本で、200メルカ!

 武器の補修材料に!

 売れ残り在庫処分品!!


 ──と。

 確かに、それらが売れ残りの在庫品である証に、刀身はところどころがサビていて、中には刃の部分すべてがサビに覆われているというモノまであります。

 そんな中、一本だけサビの無い綺麗な刃のモノがあります。

 試しに手取ってみると、その剣は非常に軽く、片手でも楽々に振り回せます。

 しかし、その剣の握り手の柄はかなり古ぼけた感じて、更には刀身は剣先以外は刃物としての体を為していない状態です。なにしろ、剣先を除く本来は斬る為の部分のすべてが刀の峰のように斬る為の形状にはなっていないのです。

 ですが、寧ろこれならボクには好都合です。

 なにしろ、突きや剣の間合いギリギリで振ったりしなければ、相手を斬る事は基本的にありませんから、護身用としては真に最適です。

 ただ、懸念材料として、この剣の強度が気になります。片手で簡単に振り回せる以上、脆い可能性は十分にあり得ますからね……。

 でも、まあ、一先ず、レジに持って行って、店員さんに話を聞いて、それから改めて購入するかどうかを判断しましょう。

 そういう訳で、ボクは手にした、この剣を持って店員さんが欠伸を噛み殺しているレジカウンターへと向かいます。

「──すみません、店員さん」

「……あ、はい、いらっしゃい。何かご用で?」

「この剣の事で少しお話を伺いたいのですが?」

 そう言って、ボクはセール品の入れ物から持ってきた剣をカウンターの台の上に置きます。

「……ほう──、こりゃ、また、お客さん、目の付け所が違うね~。コイツは用済みになって、今日、セール品の仲間入りをしたヤツだ」

「“用済み?”ですか?」

「ああ。コイツは俺の爺さんが、実験目的で打った一本なんだ」

「ほう……。その実験とはどんなものなのでしょうか?

 よろしければ、お聞かせ願えませんか?」

「いいぞ。別に隠すようなもんじゃねーからな」

「ありがとうございます」

「お客さん、そう畏まんでくれよ。大した話じゃねーんだから。

 んじゃ、まあ、簡単に話すけどよ、ソイツは俺の爺さんが“カルカタ鉱石”っつう、精錬して鍛えるとダイヤより頑丈で同じ量の鋼より遥かに軽い金属になるんだが、そのカルカタ金属はキチンと手入れをしていても数年たらずで朽ち果てるほどに酸化による劣化がめちゃくちゃ早く、俺の爺さんはその劣化する早さを遅らせる事が出来たらカルカタ鉱石製の武具が売り物として普及できるじゃねえーかと踏んで、試行錯誤の結果、完成したのがこの一本てわけで、もう、五十年間も放置しても酸化による劣化の兆し無し。

 即ち、俺の爺さんの実験は成功した訳だが、俺の爺さんが四十年前に実験の結果を公表したときには時既に遅く、カルカタ鉱石を採掘してる鉱山はもう何処にもナシ。

 俺の爺さんの目論見は見事にパー。ってなワケで、一応の記念に何時まで保つかって経過観察をしてきたが、五十年間も保てば十二分に検証は出来ったって事で、用済みになったソイツはセール品の仲間入りをしたわけさ」

「……成る程、そうでしたか」

「そいで、お客さんはコイツを購入してどうするんで?

 打ち直して、武具を製作するなら特別格安料金で請け負いますよ?」

「──いえ、このままで。それと、この剣を収める鞘と剣帯に吊すのに革紐を」

「そいですか。分かりました。鞘と革紐は直ぐにお持ちします。……しかし、お客さんは変わってますねー。斬れない剣をお買い上げとか。……もしかして、練習用ですか?

 それなら、ソイツは打って付けですしね。なにしろ、下手に扱ってもまず折れませんし、俺の爺さんの創意工夫のお陰で手入れしなくとも酸化による劣化が全然起きませんからね」

「……いえ、ボクは実戦で使うつもりです」

「へえ~、お客さん、もしかして、“不殺の誓いを立てた剣士の主人公”が活躍する最近流行りのマンガの大ファンとかですか?」

「…………いえ、違いますが…………────」

 っていうか、この世界にマンガって在ったんですね……。王都の本屋では一冊も無かったので、てっきり此処──カドゥール・ハアレツではマンガは存在しないものと、思ってました。

「そいですか。ほい、お待たせしました。鞘と革紐です」

「ありがとうございます。お代は────」



 ──さて、昨日は剣を購入して以降は良藍と共に、ルニーンの街を時間の許す限り散策した後、宿に帰って、一人留守番だったサーハ君と合流して夕飯を取り、明日──今日に備えて早めに就寝しました。

 そして、現在はだいたい朝の七時くらい。ボクとサーハ君はしっかりと武装して、ランテさんたちとの集合場所である、ルニーンの街の北門前にいます。

 昨晩に降ったのであろう雨が朝日を浴びてもやとなって立ち込め、ルニーンの街を幻想的に彩っています。

 そんな風景の中を一日の活動を始めた街の人々が行き交い、徐々に賑わいが増していきます。

「よう! お二人さん、もう来てたのか──って、嬢ちゃん、その恰好はなんだ? まるで、英雄譚の演劇で女主人公が着るような見た目重視の衣装は?」

「円さん、サーハさん、おはようっす。確かに、兄貴の言う通り、円さん、その恰好はなんすか?」

 ──あ~、やっぱり、そう思いますよね~……。

「実はこの衣装、デモンスパイダーの縦糸で出来たモノで、しかも有名錬金術師と有名付与魔道士が手を加えた“防具不要の衣装”なんですよ」

「マジっすか? もしかして、キーレンとジャーケンの両者が関わったていう“幻の最高傑作”とか言うんじゃないでやしょうね?」

「おお! 流石、情報通のランテさん。その通りです。店員さんのご厚意で超格安にしてもらいましたが、それでもべらぼうな値段でした」

「…………」

「ほう~……、キーレンだかジャーケンだか知らねーが、防具が要らね~衣装ね……。どれ、いっちょ、試してやるよ!」

 そう言うや、ガメッツさんは片手をグーの形にして、それをボクの方へと向けて親指で数度ナニカを連続で弾き飛ばしてきました。

「ちょ、ガメッツさん、何を!?」

 距離的に回避も剣を抜いて叩き落とすことも無理な状況。ガメッツさんが放った飛礫つぶてはボクに命中しますが当たったという感触は無く、まるで唐突に運動エネルギーがゼロになったみたいにコロリとすべてが地面に落ちてしまいました。

「おいおい……、マジかよ!? リンゴに穴が空くくらいの強さで飛ばしたのに、ダメージどころか衝撃も受けてないとか、マジモンかよ!」

 いやいや、ガメッツさんの方こそ、“リンゴに穴が空くくらい” って、下手しなくとも大ケガ必至な事を普通お試しでやりますか?!

「ホント、驚きですね。私もこうして現実を目の当たりにするまでは、半信半疑でした」

 まあ、サーハ君の言うことも確かにです。ボク自身も購入した後になって、不安が少し頭を過っていましたから。

 っていうか、

「サーハ君は、ガメッツさんのした事に非難はしないのですか?」

「……? いえ、別に。ガメッツさん「試してやる──」って言ってましたから……」

 …………。

「……ま、まあ、円さんも無事で、その衣装の性能が本物である事をこうして確認出来やしたんだから、それで“良し”としましょうっす」

「…………釈然とはしませんが……わかりました」

「ところで、良藍さんはどうしたっすか? 遅れてるんすか?」

 ボクとサーハ君は顔を見合わせ肩を竦めて、ランテさんの問いに答えます。

「──すみません、良藍は昨晩、「前祝いだ♪」と言ってお酒をガブ飲みした結果──」

「二日酔いになった、すか……」

「……ええ、まあ……、、申し訳ありません。」

「一応、ヒラノは「酔いが覚めたら、直ぐにでも後を追うから。先に行ってて」と、言っていました。」

「そうっすか。分かったっす。

 そいじゃ、お宝探し(トレジャーハント)に出発するっすよ!」


 ボクたち一行はルニーンの街の北門を抜けて、ルニーン・タウンの直ぐ北に広がる森の中へと足を踏み入れていきます。

「おや、誰かいるみたいっすよ?」

 森に入って早々、ランテさんが進行方向前方に人影を発見したようです。

 どうやら、その人影たちは立ち止まって話しをしているらしく、ボクたちが目的地に進むにつれて、その人影たちの人相がハッキリと見えてきます。

 同質のデザインの服を着た少年少女の四人組み。ボクはその内の二人とは顔見知りです。しかし、残り二人の内、一人は初めて見る顔ですが、もう一人は何処かで見たような見なかったような顔をしています。

 ま、取り敢えず、彼らを追い越す際に、挨拶くらいはしておきましょう。

 そんな事を考えているうちにボクたちは彼ら──勇者の貴樹君たちが駄弁っている所へ差し掛かります。

「やあ、久し振りだね、貴樹君」

 ボクは軽く手を挙げて、貴樹君に挨拶をしますが、

「……?

 えっと……、どちら様……でしょうか?」

 ──おっと、そうでしたそうでした。ボクの見た目は別人になっていたのでした。

「──あ~、オホン。貴樹君、ボクです。平野 円です。ご覧の通り、現在いまは女の子になってしまいましたが、正真正銘の平野 円です。嘘ではない証拠にボクがお城に居た頃に貴樹君と共有した体験を言います。──あれは、ある日の夜のことです────」


 ──まだ男だった頃のボクはその日、一日の疲れと汚れを落とすため、城内に設けられたお城勤めの人達用の共同浴場──当然、当時はちゃんと男でしたので男湯です──に入り、そこで偶然、貴樹君と鉢合わせしました。

 そして、お互い地球に居た頃の自分たちのことをいろいろと語り合いながら湯に浸かっていますと、唐突に浴場と脱衣場を仕切っているスライドドアが開く音がします。

 ボクらは時間的に遅くまで仕事をしていた方が入浴に来たのだと思って、気にも留めてませんでしたが、

「まあ♪ やはり、共同浴場となると王族用の個人入浴場とは異なり、とても広いのですのね♪

 今晩は、この浴場をあたくしが独り占め♪

 スバらしいですわ~♪」

 入ってきた人物の開口一番の声を聞いて、ボクも貴樹君もビックリ仰天です!

 なにしろ、その声は明らかな女性の声。

 しかも、その女性は一糸纏わぬ姿で湯船に近付いてきます。ただ、浴場を充たす湯気で顔は見えませんでしたので何方かの判断は出来ませんでしたが……。

 ですが、このままでは非常にマズい事になるのは目に見えていましたのでボクは、その女性に声を掛けます。

「──……あの~……此処は“男湯”ですよ~」

 と。

 すると、その女性は、

「──!!!!?? ──あわ、あわあわあわわわわ…………!?」

 おそらく、慌てふためき顔が赤くなったのでしょう。「あわあわ……」という発言を繰り返し、数秒後、目にも止まらぬ猛ダッシュで、その女性はその場から去っていきました。


「──ちょ、ちょっと! その話はシーッです!

 分かりました!

 貴女が平野さんだという事は十分理解しましたから、その話はもう────」

「──そう、“あの場”には貴樹君もいらしたのですね──」

 おや、これはもしかしなくとも、ボクが今話しした話に出てきた件の女性は彼女だったのですね。道理で見たような見なかったような顔だと思ったワケです。それにしても、縁とは異なモノですね……。

 さて、そういえば挨拶がまだ途中でした。

「──イーサちゃんも、お久し振りですね」

「ええ。お久し振りです、ノーm──……平野さん」

 ──ん? はて? 今、ボクは()()()()()()のことを()()()呼びました?

 “イーサちゃん”??

 ……………………!?

 成る程……。そういう事ですか。ユーウちゃんは神代の御子シャルさんの妹──イーサ・シュウ・ツベクートさんの直系の子孫だったワケですね。

 この身体に遺っている前世の記憶が教えてくれました。

 それで、ユーウちゃんのことを誤って、“イーサちゃん”と呼んでしまったようです。

「すみません、ユーウちゃん。名前を言い間違えてしまって……」

「……いえ、別に気にしてませんから、平野さんもお気になさらず……」

「そうですか。そうしてくれると、ボクも助かります」

 さて、これで一先ず顔見知りの方への挨拶は済みました。残るは思い出話に出てきた少女と、初顔合わせの少年ですが…………、軽く一言挨拶するくらいだけで十分でしょう。

「なあ、キミ──」

 キミ? …………ああ! ボクのことですか。初顔の少年の呼び掛けに一瞬、ボクは少年が誰に呼び掛けているのかが理解出来ませんでした。

 なにしろ、この場には少年が“キミ”と呼ぶに値する人物は居ないハズですからね。

 サーハ君にランテさん、それと、ガメッツさんは少年より見た目からして年上。貴樹君たちは彼とは友人の間柄ですから、呼び掛けに“キミ”とは呼ばないでしょうし。

 結果、残ったのはボク一人。確かに現在のボクの見た目は十代後半の女の子。しかし、“平野 円”という人間として生きて過ごしてきた年月は三十年以上になります。故に見た目で同年代扱いされ、“キミ呼ばわり”されるのは釈然としないものがありますが、ムキになるような事柄でもないので自然を装って、応答してあげます。

「──ナニか?」

「もしかしてだけど、オレっちのことを「面倒な男の子そうだから、適当に挨拶を済ませちゃお」とか考えてたりしてないよな?」

 は? ナニを言ってるのでしょうか、この少年は? それに何ですか? 彼のイメージの中のボクのキャラ設定は?! つい今し方までは彼の事をなんとも思っていませんでしたが、彼自身のイメージの中のボクが言った言葉通り、この少年、確実に面倒臭いです。

「ええ。考えたりはしてませんでしたが、今、思いました。貴方が面倒臭い方なのだと……」

「──んなッ!?」

 ボクの返答に少年は愕然としたようで、まるで石のように固まってしまいました。これでは暫くは彼との会話は無理そうですので、次にいこうと思いますが、もう一人の名を知らぬ少女に挨拶をしたら、少年がまた面倒なことを言い出しそうな気がするので、ここは話題を変えた方が無難でしょう。

「──ところで、貴樹君たちは、どうしてこの様なところへ?」

「はい、“ルニーンという街の近くに亡霊がよく目撃される廃墟があって、其処にはスゴいお宝眠っている”っていう噂を聞いて、丁度、次の三連休の予定が決まってなかったから、「折角だし、肝試しとお宝探しに行こう!」って話になって現在に至るワケなんです」

「そうでしたか」

「──ほう~、そうなると、勇者御一行様がオレたちのライバルになるって、ワケだな?

  あ、オレはガメッツってんだ、よろしくな、勇者の少年と他三名」

「く~……、見事、今回のお宝探し(トレジャーハント)に成功すれば、兄貴のお宝探し屋(トレジャーハンター)としての歴史の一頁に“勇者の少年を出し抜いた”という偉業が加わるんすね!

 おっと、オイラはガメッツの兄貴の弟分で、ランテ・クーと申しやす」

「…………あ~、私はサーハといいます」

 貴樹君の言葉を受けて、ガメッツさんたちが彼らに宣戦布告と自己紹介をします。

「──!? あなた方も宝探しに?!

 あ! 自己紹介が遅れました────」

「いいっすよ、勇者の少年。オイラたちは君たちの名前は知ってるっすから。先ずは勇者である君が、高山 貴樹君」

「あ、はい。貴樹って気軽に呼んでください」

「次に其方が、シュモネス教の次代の神代の御子のユーウ・シュウ・ツベクートさん」

「はい。わたしも貴樹君同様、気軽にユーウと呼んでいただいても結構です」

「そして、其方のレディが、この国の第三王女様」

「あたくしのことも特別に名前で──って、肩書きだけですの?!」

「最後は……………………勇者貴樹君の友人その1っすね」

「──ちょ、待てよ?!

 オレっちらの名前を知ってるって言った割には、オレっちのことは“タカキの友人その1”とかねーんじゃね?」

「そうですわ!

 あたくしなんて、肩書きだけですのよ!」

「いやいや、王女サマは肩書きだけでも、個人を特定されるんだから、まだマシじゃん。

 オレっちなんて、時と場所と場合によっては“友人その1”から“その2”、“その3”……最悪は“その他大勢”扱いされるんだぜ?」

「…………そうですわね。確かに、()()()()()()よりは、あたくしの方がマシですわね」

「だろ。……っつうーかさ、ホントはオレっちの名前、知らねんじゃね?」

「…………はぁ~……、折角、オイラがキミの事が笑い物にならないよう気を遣ってやったっすのに、……分かりやした。キミの名を言ってやるっすよ。

 ──君の名は…………メンド・クーセ。因みに君の名前は、円さんや勇者貴樹君の故郷の世界の言葉で“面倒臭い”っていう言葉とほぼ同じ発音なんすよ。

 分かりやすか?

 メンド君、キミは異世界の言葉において名で体を表しているんでやすよ……」

「……………………」

 またもや、少年こと──メンド君は石のように固まってしまいました。

「ガハハ……。なんだ、ボウズは異世界の言葉で“面倒臭い”っていうのか。

 ある意味、スゲーな!」

「笑っていやすが、兄貴の名前も異世界の言葉で“がめつい”って意味の言葉と似た発音なんすよ……」

「? ランテ、今なんか言ったか?」

「──いえ、別に。何も言ってないっすよ」

「そうか。んじゃ、そろそろ、仲良しこよしはこれくらいにして、どっちのグループが先にニーショの遺産を探し出すか、勝負といこうじゃないか!」

「──おうよ!

 その勝負っ、乗ってやら!

 タカキ、行くぞ!!

 オッサンらに吠え面かかせてやろうぜ!!」

 復活したメンド君が、ガメッツさんの売り言葉を買い、我先にとニーショの館の方へと走り出します。

「あ!? 待ってよ、メンド!」

 走り出したメンド君を追って貴樹君が走り出し、その後をやれやれといった表情のユーウちゃんと第三王女様が付いて行きます。

「ガメッツさん、いいんですか?

 彼ら先に行ってしまいましたが……」

「まあ、そう慌てんなや、兄ちゃん。闇雲に探したところで、ニーショの遺産は絶対に見付からねーさ」

「そうっす。オイラたちは此れ迄にニーショの遺産に挑んだ人達が見落としていた事に気付いたんす。

 そして、その見落としていた事について徹底的に調べ上げて、しっかりとニーショの遺産に挑む準備を調えてきたんすよ」

 サーハ君の発言にそう言ったランテさんとガメッツさんの顔には、積み重ねてきた経験に裏付けされた自信が充ち満ちていました。


 さて、貴樹君たちから遅れること数分。ボクたちは目的地──ニーショの館の前へと辿り着きました。

「これは……千百年も経つのに朽ちるどころか原形を留めたままとは、誰かが維持管理している人がいるんですね……」

「そうっすね。ニーショの盗賊時代の経歴が曝露されて、信奉者は大幅に激減したっすけど、それでもニーショの商人としての側面を崇める人は根強く居たっす。そんな人達がこの館を不定期ながらに手入れをしてきたお陰で千百年も経った現在でも、ニーショの館は朽ちずに健在してるっすよ」

 外壁には長い年月を経た草臥れ感が如実に現れてはいますが、館全体が醸し出す威圧感的なものは千百年もの時を過ごしてきた風格のようなものも相まって、スゴい重厚感を感じさせます。

「──それじゃ、お宝探し(トレジャーハント)開始っすよ!」

 そう言って、ランテさんが足を止めたのは、門扉と館の間にある前庭の中に設けられた広場。

 そこには、四隅にオブジェの柱が立ち、地面は碁盤目のように規則正しく正方形の石のタイルが所狭しと敷き詰められています。あと目に付く物は、ガメッツさんの身長よりも高い高さのある石碑が一枚、館を背にして広場のへりの部分に設置されいます。

「……あの……、館へは向かわないのですか?

 正直、私にはこのような場所にニーショの遺産の手掛かりが有るとは思えないのですが……?」

「兄ちゃん、ソイツは此れ迄ニーショの遺産に挑んできた連中と同じ考えだぜ?

 そんなんじゃ、ニーショの遺産は見付けらんねー」

「そうっすよ、サーハさん。この場所は唯一、ニーショが亡くなる前と後で違いが生じた場所っす」

「違い? ですか?」

「そうっす。ニーショが死ぬ前までは無く、ニーショが死んだ後に設置された“モノ”──即ち、この石碑がニーショの遺産へと連なる道標みちしるべなんすよ!」

 ランテさんは石碑を指差して、そう言い切りました。

 ボクはランテさんのジェスチャーにつられて石碑を見ますが、その石碑には幾何学的紋様(?)が三つならんだ塊が、規則正しく無数に刻み込まれているだけで、()()()読むことの出来る文字は何処にも無く、意味不明です。

「……?

 何ですか?

 この文字とも記号ともつかない紋様は?」

 サーハ君もボクと同じような感想なようで、知っているであろう、ランテさんに問います。

「この石碑に刻まれているのは“暗号魔法文字”という、かなりマイナーな暗号文字っす」

「暗号魔法文字??」

「そうっす。簡単に説明しやすと、この暗号魔法文字は一文字だけでは“キーワード”くらいにしか使い途はありやせんが、二つ~三つ以上異なる暗号魔法文字をならべると文字の羅列の中に情報を最初の一回だけインプット出来るようになるんす。そして、別の人間がその文字の羅列の文字を正確に読み上げると、インプットされたその情報が読み上げた人間にだけ知ることが出来るでやんす。

 ただ、暗号魔法文字は文字の読み方さえ憶えられれば、文字の羅列にインプットされた情報を誰でも知るごとが出来るので、普及することなくマイナーな存在になったす」

「……なる程……。それで、ランテさんは──?」

「──当然、暗号魔法文字のことはしっかりと調べ上げてきたっすよ。すっげー、大変やしたけど……」

「ホント、ランテはスゲーぜ!

 オレなんて最初からチンプンカンプンでお手上げだったからな……」

「ま、オイラが頭脳担当で兄貴が実務担当っすからね」

「おうよ!

 オレらは役割がしっかりと分かってっから、だから、此れ迄に幾つものお宝を確実にゲット出来たのよ!」

 コンビ愛を自慢するガメッツさん。その言葉に満更でもないランテさんは照れ笑いをします。

 さて、そんな彼らを尻目にボクは石碑に刻まれた暗号魔法文字を眺めながら、前世の遺した記憶からくる前世の思い出にゲンナリしていました。なにしろ、前世の思い出ではシャルさんが、ある日、暗号魔法文字について記された本を持ってきて「暗号魔法文字を使って、みんなには秘密のやり取りをしましょう☆」と宣ってきて、当時、彼女の遊び相手兼世話係の侍女だったボクの前世は否応なく、暗号魔法文字を憶えるハメになり、漸く暗号魔法文字をすべて憶えたにも拘わらず、当のシャルさんは「途中から難しすぎて、もうヤダ~……」とか言って、投げ出しやがったんですから、ボクの前世も相当頭にきてました。

 ──ただ、そのお陰で、ボクはこの石碑に刻まれた暗号文字を読む事が出来るみたいです。ついでに現在いまだから分かったのですが、貴樹君の持つ勇者の剣の宝玉に浮かんだモノも暗号魔法文字だったといことが判明しました。

「そいじゃ、今からこの石碑の暗号魔法文字を解読しやすから、兄貴たちは寛いでいてくださいっす」

 サーハ君とガメッツさんはランテさんの言葉を受けて、そこら辺の地面に腰を下ろします。しかし、ボクは前世のお陰で暗号魔法文字が読めるのですから、ランテさんを手伝わないということは有り得ません。なので、

「──マグシ、ファルア、マンガ──」

「──ンナッ!? 円さん、暗号魔法文字が…………読めるん……すか?!」

「……ええ。まあ……。たぶん、全部、読めると思います……」

「──しょえー!?

 オイラですら、ひと月掛かったのを一度見ただけでマスターとか凄過ぎっすよ、円さん!」

「いや、実はそういうのではなく────」

 ボクはランテさんにボクの前世の事とこの肉体からだに遺る前世の記憶の事をつまびらかに話しました。

「──なる程……、そうでやったんすね……。

 それにしても、円さんの前世は相当ご苦労なさったんすね……。

 分かりやした。それでは、円さん、オイラにお力添え、願えやすか?」

「ええ。勿論!」

「ありがとうでやす。

 それでは、オイラは上から読み解いて行くっすから、円さんは下から読み解いて行ってほしいっす。

 そして、読み解いた内容はコチラの紙に石碑に刻まれた文字列と対応している箇所にメモしといて下さいっす」

「了解です、ランテさん!」

 ボクはランテさんが差し出した下敷き付きの紙とペンを受け取り、早速、石碑に刻まれた暗号魔法文字の解読に取り掛かります。


 ──小一時間後──

「ふぃ~……、円さんが暗号魔法文字を読めてくれたお陰で予想していた作業時間より早く、解読が終えられたっす」

「……いえいえ、どう致しまして……」

 ボクとランテさんは石碑の文字の羅列をすべて解読して、二枚の紙には暗号魔法文字にインプットされていた情報が書き込まれ、二枚併せてすべての空欄が埋まっています。

「次は解読した情報を精査しやすから、円さんも寛いでいてくださいっす」

「分かりました」

 ボクはランテさんの言葉に甘え、サーハ君たち同様に地面に腰を下ろして休ませてもらいます。


 ──それから、約三十分後──

「──分かりやした!!」

 石碑の暗号魔法文字を解読して得た情報が書き込まれた紙を矯めつ眇めつ精査していたランテさんが歓喜の声を上げました。

 その声にいち早く反応したのは、当然ながら、

「おう、ランテ、どうだった?」

「兄貴、分かったっす!

 この石碑に刻まれていたのは、ニーショの盗賊時代と商人時代の自慢話っす」

「ほうー、ニーショの自慢話ね~……。

 しかし、なんたってニーショは自慢話をわざわざ暗号にして石碑に刻みやがったんだ?

 暗号を読める奴がいなかったら、意味がーだろうに……?」

「いえ、兄貴。コイツは自慢話を誰かに伝えるモノじゃないっす」

「そう……なのか?」

「はいっす。コイツは──この石碑は、紛う事無き正真正銘のニーショの遺産へと導く、道標みちしるべっす。

 なにしろ、石碑に刻まれた暗号を解いた情報の中に、ニーショに関する“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”が四つほど混じっていやした」

「……ソイツは隠された秘密ってヤツか?」

「──いいえっす。その逆で、この四つの情報は完全なる捏造のウソ情報っす」

「はぁ……。それが、ニーショの遺産へと導く事と、どう関係があるんだ?」

「兄貴、いいっすか?

 この石碑に刻まれた文字の羅列は、この広場の石のタイルの並びと完全に一致しやす。そして、ウソの情報がインプットされていた暗号が刻まれていた場所が、此処とココとここと、そして、此所っす」

「…………てんでバラバラで、規則性がーな……」

「そりゃ、そうっす。仲間に何かを伝える暗号とは異なり、規則性なんて持たせたら、すぐに誰かにニーショの遺産は持っていかれてたっす。

 おそらく、ニーショは口では「俺様の遺産は見付けた奴にくれてやる!」とは言ってはいやしたが、そう易々とは“くれてやる気”は無かったみたいでやすね」

「ナルホド、だから、こんな回りくどい事をニーショはしやがったんだな……」

「そうっすね」

「それで、改めて聞くが、ソイツが道標みちしるべってのは、どういう意味だ?」

「コイツは信憑性に欠ける情報でやしたから、兄貴にも伝えていやせんでしたが、“ニーショに目を掛けられていた男が書き記した日記”の中に、その男が病床に臥せったニーショから言われた“奇妙な言葉”について、こんな記述が在ったっす。『俺様にもしもの事があった時は、“四神見守る中で、四神祀る場所に立って、この呪文を唱えろ──”』と」

「“四神見守る中”?」

「……それは、この広場の事ではないでしょうか?

 見てください。この広場の四隅にあるオブジェの柱の上には、それぞれ、シュモネス教の自然を司る四柱の神の像が設置され、広場の中央を向いています」

「その通りっすよ、サーハさん。よく気付いたっす」

「んじゃあー、“四神祀る場所”ってーのは?」

「……たぶん、フンドゥリアに本拠地が移される前の各神を祀っていた大神殿が在った場所。

 ──詰まり、この広場の碁盤目状に規則正しく並べられた石のタイルは地図における縦線と横線で区分けされたエリア内を表している?」

「円さん、“ビンゴ!”っす!」

「──っつうことはだ、後はその位置に立って、呪文とやらを唱えればいいんだな?」

「その通りっす、兄貴!

 念の為、その呪文も書き写しておいたっすから、モノは試しっす!

 早速、やりやしょうっす!」

 そう言うや、ランテさんは新たに四枚の紙を取り出し、既に一枚目に書き記されている文字列を残りの三枚に書き写し、一枚ずつボクたちに手渡していきます。

「今渡した紙に、さっきオイラが書き写したのが例の呪文っす。あとは石碑のウソ情報の位置と合致する広場のタイルの上にオイラたちが立って、その呪文を唱えれば何かが起きるハズっすよ。

 それじゃあ──」

 ボクたちはランテさんの指示に従って、各々が石碑のウソ情報の位置と合致する広場のタイルの上に立ち、そして、ランテさんの合図に合わせて手渡された紙に書かれている呪文を唱えます────


 ──ギーサ、リスユ、クヤ

   ウトウゴ、チーラ……

   ……イナハンケンジニ

   ンニクア────


 すると、──

「やりやしたっすよ!

 兄貴! 円さん! サーハさん!」

「おう! コイツは──」

「──空間転移魔法陣!」

「このような仕掛けがあるとは!!

 驚きを禁じ得ません……」

 ──広場の地面を突如として現れた光りが縦横無尽に奔り回り、精霊の祠の入り口にあったような、空間転移魔法陣を描きあげたのです!

「──ついに、ニーショの遺産への扉が開かれやした。

 兄貴も円さんもサーハさんも、心の準備はいいっすか?」

「おうよ! ニーショの遺産!

 びた銭さえ残さず、全部、ゲットしてやるだぜ!!」

「はい! 必ず、お宝をGET !!しましょう!」

「ええ、勿論です!」




「──ここからが、本番っすよ!!!!」




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