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エルゼはグレーテル国へと向かう船に乗って、海を見ていた。青々とした海を見てエルゼは思い出に浸っているのかもしれないが、私は冷や冷やしている。落ちたら錆びてしまうからだ。しっかりと持っていてほしい。
そんな彼女に「エルゼー」と声をかける。
「学校に行くって事は家に住むって事になるよな? どうする?」
漠然とした質問をするラコンテに、エルゼは眉をひそめて口を開く。
「何でラコンテも一緒に来るの?」
「俺も劇団の修行をしようと思って」
「随分と急じゃない」
「エルゼだって急に決めたじゃないか」
ラコンテが口をとがらせて言い、「何で、法律の勉強しようと思ったんだ?」と聞いた。
「共犯者告発人の時に【真実を訴える弱き者】はもっとたくさんいるって思ったの。それに決闘裁判は、ほとんど無くなってしまったから助太刀も鈍るといけないし」
別に私は鈍ら刀になる事は無いのだが……。だが私のために進路を決めたことは嬉しい。
そしてエルゼはラコンテに「何で一緒に行こうと思ったの?」と聞いた
「前々から演劇の修行はしたいと思っていたし」
「……それって、グレーテル国じゃ無いとダメなの?」
「知らないのか? エルゼ。グレーテル国は有名な劇団が多いんだよ」
ニヤッと笑いながらラコンテは言う。
「それに【決闘令嬢】のネタも探さないといけないし」
「……ネタって、私を観察することじゃ無いの?」
自信を持って言うラコンテに、エルゼは呆れたように笑う。
そうしているとグレーテル国が見えてきた。
私はただの物だ。精霊や神と呼ばれるほどのものではない。だが夢を持った二人が明るい未来を歩んでほしいと思った。




