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「俺は何者なのか分からない。一応、ピクシの民と名乗っているが母親も父親の顔すら知らない。顔の特徴が似ているから、ピクシの民と名乗っているにすぎない。それに巨人の血も混じっているとか言っている奴らもいたが確証もない」
ベントスは確かにピクシの民と雰囲気は微妙に違っていた。黒髪と黒い目をしているのはピクシの民と同じだが、顔の彫も浅く肌も民と比べたら白い方だ。そして彼の体は巨人のように巨体ではない。
「俺は何者か分からないけど、なりたい者にはなれる」
「それで勇敢な戦士になりたいと」
「ああ、そうだ!」
夢を語るようにベントスは目を輝かせて言う。
「俺は誰も素早く、誰よりも力が強い。そして確実に人を殺すことが出来る。これだけが俺の特技で、唯一の快感だった。あの戦争で何度も命の危機を回避して、魂が震えたね。もっとしたい、もっと戦いたい、もっと殺したいって」
「……」
「だが戦争が終わった。そして再び戦争をしようとする第一王子が率いる騎士団に入った。だが戦争ってのは、お金が必要で、王子はやる気配が無かった。ただただ第一王子の護衛と言う名のお守りをするだけだった。そうして第五王子と政権を争いが起こってクーデターが起こって内戦が起こるかと思ったが、ボヤ騒ぎくらいしか起こらねえし、第一王子はあっさり政権を交代した。俺達はお払い箱になった。ふざけんな! 物足りねえよ、もっと戦いたいんだよ、俺は!」
「……」
「戦争を求めて周辺諸国をフラフラしていたが、みんな平和ボケをしていた。そしてこの国が混乱していると聞いて入国したら、知り合いに会った。俺の愚痴を話したら、あいつは決闘士になれば? って素晴らしいアイデアを出してくれた。すぐにやろうと思ったらクソ教会が決闘裁判を禁止にして、決闘も出来なくなった」
「それで自分で事件を起こした」
「そうさ。騎士団で一番強いらしい奴を殺して、俺を捕まえてくる奴らを倒した。教会に行って俺は罪の告白をした。そしてこの王都で殺したんじゃないか? と思われる噂を証言しただけさ」
「つまり、あなたがした告発はすべて噂を言っていただけなんですか? 決闘裁判をするために」
エルゼの質問にベントスは大声で「そうさ!」と答えた。
「だが陪審員だが分からねえけど、何人も集まって俺の告発した奴らが有罪か無罪か、ちんたら話し合って、一向に決闘裁判をしやしねえ! 刑務官に『生き延びる為に、告発したんだろ』って決めつけられたが、馬鹿か! ちげえよ! 俺は、戦いたい! 勇敢に戦って死にたい! 決闘裁判をしたいんだ!」
煌々と眩しい笑顔でベントスは言う。傍聴人たちは絶句をしていたが、すぐにヤジが飛ぶ。一方、エルゼは微笑み、オルトは冷たい目でベントスを見ていた。
***
二人の宣誓が終わり、決闘の準備を始める。早速、エルゼはダビーに私を見せた。
「決闘になりますので、こちらの剣の鞘を少し抜いてください」
「え? あの、私、上手く持てないんですが……」
「大丈夫です。私も持っていますし、少しだけ抜けばいいだけなので」
「はあ、でも……」
「そうすれば刀の精霊である【助太刀】が現れます」
不安げな表情をダビーはしながら、刀である私の鞘を少しだけ抜いた。
シャキン
私は素早く鞘が戻した。突然現れた私に「うひゃああああ」とダビーは叫び、腰を抜かした。そして「申し訳ございません。もう盗みはしません」とうわ言のように言う。
エルゼは「助太刀に誓って、盗みはやめなさい」とこれを機会に言った。私はダビーを切るつもりはないが、それを言うつもりは無かった。
そしてエルゼと共にベントスを対峙した。
ベントスは目を輝かせて「わあ、本当に突然、現れた」と言った。早く戦いたいと張り切っているように見えた。
私はその場に一礼して、右手に鍔を、左手に鞘を持って、前に出し、少し身を低くした。
目を閉じて、エルゼが提示した証拠を思い出す。
そして目を開けてベントスを見据えた。
勇敢な戦士と言うものになりたいと言っていたが、やっていることは野蛮で身の程を知らない男だ。
よろしい、決闘だ。
審判のオルトの「初め」と言う言葉が響いた。




