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 そうしてベントスとダビーの決闘裁判当日になった。会場は王都にある中央広場で、貴族や平民も集まっていた。特に恨みがあるのか騎士団員が多く駆けつけている。

 これから決闘場へ入る前、ダビーはエルゼに「あの……、すいません」と話しかけた。


「何で私の左腕の方を包帯で巻いているんですか?」

「あなたの左手は色々と盗む病を患っているんでしょう。だから包帯で巻いて治療と窃盗防止をしているんです」

「だけど私の右手を見てください。これじゃ、とれませんよ」

「はあ? 盗れないって事? やっぱり自分の意志で盗んでいるの?」


 ギロッとエルゼが睨むとダビーは身を縮めて震えて「ああ、言い間違えました」と言って、理由を話す。


「とっても不便と言いたかったのです。見ての通り私の指は一本かけていて、治ってはいますが、字も書けないし……」

「それは大丈夫ですよ。文字は書きませんし、刀の鞘を握って少し刃を見せるだけで大丈夫です」

「……それで本当に剣の神様が出てくるのでしょうか?」


 エルゼの言葉にダビーは信じられないって顔をしていた。私の事を神様と思っているようなので、エルゼは「神様では無く、精霊です」と訂正した。


「この刀は【真実を訴える弱き者】のために姿を現す剣です。あなたが真実を言っているのなら、姿を現します。だけどあなたが弱き者じゃなくて嘘を言っているのだったら、姿を現さないので自分で戦ってください」

「え!」


 あまりにも非情な条件を言われてダビーは絶望的な顔になった。彼の左手は盗み癖が付いているが、嘘をついていないのは確かだ。

 それよりもこれから戦うベントスが、どうして決闘裁判を希望しているのか? を話してくれるだろうか。

 いくつか話しをしていると決闘裁判の時間になり、エルゼと不安げなダビーは決闘場に入場していった。




***


「何なんだよ! こいつは!」


 決闘場に入場して審判であるオルトの前に来た時、ベントスはエルゼとダビーを指さして怒鳴った。


「決闘裁判が出来ると思っていたのに、何で女と弱そうな男が出てくるんだよ!」


 ギャアギャアと騒ぐベントスにオルトは「静粛に」と重々しく言うが、「うるせー! 牧師!」と返した。

 そして後ろを向いて入場口へと向かって行った。

 これには「どこに行く?」とオルトが聞く。


「帰るんだよ! 何で女と虚弱な男と戦わなければいけねえんだよ!」

「本当は怖いんですか?」


 突然、エルゼが挑発するような言葉を発し、ベントスは「ああ?」と言った。


「もしくは女の人と戦いたくないのでしょうか?」

「俺は強い奴と戦いたいんだ! 何が楽しくて弱い奴と戦うんだ!」

「でしたら、このまま帰るのはもったいないと思いますよ」


 そう言ってエルゼは助太刀の私を見せた。


「私は戦いませんよ。私が持っている助太刀は精霊で、ある条件を満たせば人間の姿を現してあなたと戦います」

「はあ? 人間になるのか? その刀は」

「そうですね。あなたが告発したダビーが男爵殺害事件の犯人ではないという真実であれば……」


 エルゼがそう言った瞬間、ベントスは「そんな事か」と言って笑って話し出した。


「そんなもの、大嘘に決まってんだろ!」


 傍聴人全員に聞かせるように大声でベントスは言い、会場がざわついた。一方、決闘場にいるダビーは大きく目を見開き、エルゼは静かに微笑み、オルトは無表情だった。


「誰だって分かるさ、こんな嘘だって!」

「でしたら、あなたが言った証言と照らし合わせて、何が真実で何が嘘かお話しいただけないでしょうか?」


 そう言ってエルゼはベントスが言った証言を話す。


「まず、あなたとダビーが連絡を取り合う時、手紙を書いたと言っていました。ですがダビーは名前しか文字が書けないとおっしゃっています。また代筆したという可能性を考えたのですが、彼を知る方たちは代筆していない、書けるわけが無いと証言しています。そもそも、その手紙は持っていますか?」

「持っていないよ、こんな奴と文通なんてしていないし」

「次にあなたとダビーは殺した男爵の屋敷に行った時、徒歩で行ったとあります。しかしダビーは足が不自由です。そして男爵の屋敷まで相当な距離があります。どう考えてもダビーと一緒に行くのは無理ではないでしょうか?」

「そりゃそうだよな。一緒に行っていないから」

「そして、あなたは殺した男爵の家に押し入って殺した際、ダビーは右手でナイフを持っていたと証言をしていましたが、ダビーの右手の指が欠けています。握ることは出来るそうですが、すぐに落としてしまうそうです」

「そうだな、実を言うとダビーって言う男を見たことが無いからな」

「最後に殺したとされる男爵にはナイフの刺し傷なんてありませんでしたよ。病にかかり、良くなることもなく、そのまま亡くなったと彼を見た医師が書いた診断書もあります」

「へえ、そうなんだ。病気で亡くなったのか」


 ベントスは適当に答えて、エルゼの反論を気にしない。はっきり言って、陪審員の裁判を起こしたとしてもダビーは無罪となるだろう。これだけの証言や証拠があるのだから、ベントスが嘘を言っているのは誰でも分かる。

 ダビーが殺しをしていない証拠や証言を発表し終えたエルゼは、ベントスに「あなた、嘘の告発をしたんですね」と聞いた。


「ダビー以外にあなたが告発した事件を数件、軽く調べたんです。すると少し調べるだけで、すぐに嘘って言うのが分かりました。わざわざ陪審員を呼んで裁判しなくても、誰だって嘘だと分かります。そこで私は疑問に思いました。どうして、あなたはこんな嘘の告発を多くしたのか? 何となくわかりました」

「……」

「あなたは告発して罪を軽くしたり、処刑を長引かせる訳ではないと思いました。恐らくあなたは、決闘がしたいんでしょう」


エルゼの言葉に「ああ、そうだ」とベントスは返事をして、歪んだ笑みを浮かべた。


「俺は勇敢なる戦士のように戦って死にたいんだ!」





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