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 教会に救済を求めて浮浪者たちが渋滞していた。シスターたちはバタバタと忙しそうだが、圧倒的に物資と人が足りない。

 エルゼ達はこっそりと裏口から入って行った。


 談話室で待っているとオルトが入ってきた。


「やあ、決闘令嬢。それと……えーっと……、ピエロの方」

「誰がピエロだ!」

「すまない。名前を知らなくて、一度サーカスを見た時にピエロをしていたから」

「ラコンテだ!」


 すっとぼけた自己紹介が終わり、さっそくエルゼも嫌味を吐く。


「あと私も決闘令嬢じゃないですよ。教会が決めた決闘裁判禁止で、決闘令嬢としての仕事が無くなってしまいましたから」

「それでも貴族に依頼されて慰謝料をむしり取っているだろう、君は」


 オルトは「それに」と続ける。


「今回は決闘令嬢としての仕事の依頼だ」



***

 談話室に入り、エルゼはオルトに「密室殺人や重罪は決闘裁判が行われるんですね」と言うと、オルトはちょっと落ち込んだような顔になった。


「全面禁止すると思ったんですけど」

「……僕的にはしたかったけど、色々と難しかった」


 エルゼの言う通り、強盗や人殺しなどの重罪だと決闘裁判はまだまだやっている。

 例えば密室殺人だと証拠を提示するのが難しい。そうなると人が【神】に頼ってしまうのも無理はない。私とエルゼもエルゼの両親を殺した犯人が裁判中に分からなくなってしまい、結局和解になった。もっと犯人と分かる確実な証拠を集めれば良かったとエルゼは後悔している。だがこういう証拠を見つけ出すのはいつだって難しいのだ。

 さて決闘を残酷と思うオルトにとっては、一部だけでも適用されるのは不満だろう。

気を取り直してオルトは「君は共犯者告発人と言う制度を知っているか?」と言った。エルゼが自信をもって答える。


「犯罪者が犯行を自白して、減刑を引き換えに共犯者を告発する。そして彼らと決闘をして勝ち共犯者の犯罪を証明させて減刑にしてもらう。だけど、これって大きな問題がありますよね。でっち上げとか」

「まあ、そうだな。君の言う通り、その制度を悪用する輩も多い」


 そう言ってオルトは一枚の新聞を出した。そこには三年前の王都の端の酒場で殺人事件が起きたという記事があった。

 事件発生は、まだ賑やかな時間帯の酒場。王都の騎士団に勤めていた被害者フィルトと仲間達は飲み会をしていた。

 そんな時間にフラッと一人の男性が入店して来た。小柄だが見るからに傷だらけであり、見るからに戦闘で食っている人間だと分かった。かといって騎士のような品行方正さは無く、明らかに傭兵と言った感じだ。男は店員に「騎士のフィルトはどこだ?」と尋ねた。

 フィルトは騎士団で一番強い男と言われており、店員は恐らくフィルトに憧れて入団希望か腕試しで男が声をかけるのだろうと思い、騎士団が飲んでいる席を教えた。

 教えてもらった席まで男は行き、フィルトに声をかけた。ここでも他の騎士団達は入団希望かなと思ったらしい。恐らくフィルトもそう思っていただろう。


 だがフィルトが喋ろうとした瞬間、男は隠し持っていたナイフで胸を刺した。


 まさか人が多い酒場で、しかも騎士団がいる前で人が殺されるなんて思いもよらず、酒場は大混乱とかした。もちろん騎士団はフィルトを刺した男を取り押さえようとした。だが男はテーブルを持ち上げて投げ飛ばしたり、持っていたナイフのみで騎士団を切り裂いたりと抵抗し、酒場から逃亡した。この抵抗で騎士団や酒場にいた客は数人の死亡者も出て、重軽症を負った者が少なからずいた。

 このまま王都を出るかと思いきやここの教会に向かい、牧師を呼んだ。


「私、ベントスは殺人を犯した。全知全能の神よ、罪を許してください」


 彼は犯行を牧師に自白したのだ。彼は騎士団に引き渡されて刑務所に入り、問答無用で死刑という判決を受けた。




 すべての記事を読み終えて、エルゼは難しい顔をして口を開いた。


「それでこのベントスと言う男、まだ死刑になっていないんですか?」

「ああ。牧師にも言っていたんだが、彼は雇われて犯行に及んだらしい」


 ベントスは犯行の経緯を牧師や刑務官に話した。彼はフィルトを恨む令嬢に雇われたのだと。実を言うとフィルトは顔も良いので、女にモテたようだ。伯爵令嬢とも付き合っていたという。そして結構、他の女性関係で諍いもあったようだ。


「他にも王都で行われた殺人にも関与していると話している。それの共犯者も」


 エルゼの言う通り【共犯者告発人】と言う制度には共犯者を告発し、彼らと戦ってその犯罪を証明する。そのため国では少しの給与と決闘の際には武器も与えられた。そして証明するまでの間、告発者の刑は停止する。

 この制度を悪用して共犯者をでっち上げて、刑の執行を長引かせるのだ。

 オルトも「我々もそう思っている」と言って、また新聞の切り抜きを見せてくれた。


【恋心が憎悪へ? 騎士団員殺人事件に伯爵令嬢が関与か?】

【商人連続殺人事件か? 事故死・病死と思われたが実は他殺だったか?】


 などなどとベントスが訴えた共犯者たちの事件の記事が書かれていた。それをエルゼは目を通していると、ある事に気が付いた。


「ベントスが告発した共犯者は、みんな決闘裁判ではなく陪審員が無罪と確定しているんですね」

「そうだな。ベントスを雇ってフィルトを殺したと訴えられた伯爵令嬢とその家族は決闘ではなく、陪審員の裁判にしろと国王に訴えたのだ。殺人事件ではあるものの特例で陪審員の裁判で行い無罪となった」


 重大な事件以外は決闘裁判を禁止された今、陪審員の裁判を教会は行っている。こちらは何人かの人間が審問し、話し合い、無罪か有罪で刑はどのくらいにするかを決めるものだ。


「この事例によって【共犯者告発人】で訴えられた者は全員陪審員の裁判を選択して、全員無罪となった。だがベントスは次々と罪を告発してきて、裁判が追い付かないんだ」


 そう言った理由で、オルトはさっさと判決が下せる決闘裁判をしようと思っているのだろうか? と思っていると、記事を読み進めていたエルゼはある事に気が付いた。


「……ベントスと言う男は、決闘裁判がお望みだったんですか?」

「ああ、そうだ。伯爵令嬢の陪審員の裁判になった時、刑務所で暴言を吐いたらしい。『なぜ、決闘裁判じゃないんだ!』『伯爵令嬢の叔父は戦争で活躍した騎士だったろう!』とね。確かに共犯者と訴えられた伯爵令嬢の叔父は、攻めてきた隣の国の戦争で活躍した英雄だ。だが戦争のケガの影響で病気にかかってしまった。それで陪審員の裁判をしたいと訴えがあったのだろう。だがベントスは不服だったようだ」

「そんなに決闘裁判がやりたいんだったら、お望み通りやりましょうって事かしら」


 エルゼはそう言うとオルトは「まあ、他にも理由がある」と複雑そうな顔で言った。





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