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 どっと疲れた顔をしながらエルゼはセリーヌのいる屋敷がある領土に帰ってきた。

 セリーヌは首都から外れた伯爵家の娘だ。両親はすでに亡くなっており、兄が当主である。若いながらもしっかりやっているという評判だが、今回のセリーヌの婚約破棄には頭を痛めていた。

 そんな時にエルゼ達、アルコバレーノ・サーカス団がやってきたのだ。


「本当にありがとうございました。妹のセリーヌは何にも説明しないで婚約破棄の書類にサインをしてしまったために、こんな事になってしまって。本当だったら私がやらねばいけなかったのに……」


 深くお辞儀をしてセリーヌの兄は礼を言って、慰謝料に関する契約書を受け取った。

 これで借金を踏み倒そうとしたら、これを突き付ければ屋敷や土地を回収できるようにも契約には書いてある。

 もう五年分以上の【愛】【真実】【運命】と言う言葉を聞かされて、うんざりしているエルゼだったが「いえいえ」と笑みを浮かべて言った。


「こちらもサーカス団のキャンプ地などの場所を提供してくださり、ありがとうございました」


 アルコバレーノ・サーカス団はこの国の首都で興行しようとしたのだが、とある事情で出来なくなってしまった。困っていたところ首都から近いセリーヌの領地に空き地がある事と婚約破棄の慰謝料の事を聞きつけて、当主であるセリーヌの兄に交渉したのだ。慰謝料を取ってくる代わりに、アルコバレーノ・サ―カス団の興行の許可をしてほしいと。

 セリーヌの兄はこの国で悩ましている問題にかかりきりだったので、すぐに了承してくれた。


 慰謝料の契約の話しをセリーヌの兄と話した後、エルゼはサーカス団のキャンプ地に戻るとセリーヌがラコンテの姉 ローラと何やらお話ししていた。


「あの今後の運勢はどうでしょうか……」

「そうね。今まで試練と困難に襲われていたけど、これはこれからも続きそうね」


 どうやらセリーヌはローラにカード占いをしてもらっているようだ。

 婚約破棄などの嫌な目にあってきたセリーヌだったが、この占い結果に悲しい顔になる。だがラコンテの姉は「でも今までとは違う試練ですよ」とにっこり笑って続きを言う。


「これから訪れる試練は幸せになるための準備ですね。努力すれば努力した分だけ、あなたを良き道に進ませてくれるます。だから前向きに自分を高める事をしましょう。それから周りの人の関係は良好ですので、困ったら信頼できる身近な人に相談しましょうね」


 ローラの優しい声で話しにセリーヌは安心したように「ありがとうございます」とお礼を言った。そんな時、パートロの弟がやっていた。


「あ、セリーヌ様」

「あれ、クエス様。いったいどうして?」

「お見舞いに来たんです。元気そうで良かった」


 婚約破棄した後、セリーヌはパートロの従妹のクエスと婚約を結びなおした。また次期当主もパートロからクエスになっている。

 クエスはまだ学生でセリーヌとは三歳くらい年が離れている。


「いつもお見舞いありがとうございます。学生さんで忙しいのに……」

「いやいや、そんなことは無いですよ」


 ぎこちないがセリーヌとクエスは朗らかに話していると思う。男女の仲は分からないが、いい感じではある。

 そうしてセリーヌはローラにお礼を言って、クエスと一緒に帰って行った。

 それと入れ違いになるようにエルゼはラコンテの姉に「お疲れ様です」と言った。


「あら、エルゼ。慰謝料のもぎ取る契約は済んだの?」

「もちろん。だけどしばらくは【真実の愛】とか【運命】とか聞きたくないな」


 ちょっとうんざりした感じでエルゼは言い、ラコンテの姉は肩をすくめて笑う。そして「よし、エルゼの事を占ってあげよう!」と言ってカードをシャッフルする。

 ローラは動物たちの世話をしたり曲芸させたりするが時々、カード占いもしている。亡くなった凄腕の占い師の祖母直伝らしい。

 そうしてカードをシャッフルさせて、机の上に置く。ローラは「さあ、選んで」と言ったので、エルゼは一枚を選んでめくる。


「なんのカード?」

「あれ、恋人のカードですね」


 ピクシの民に伝わるカードには、愛し合う二人の男女の絵が描かれていた。

 ローラは「おやおや!」と言いながら、目を輝かせる。やっぱり占いと言ったら恋や恋愛の方が盛り上がるようだ。


「ついにエルゼにも恋が……」

「無いですよ」


 興奮するローラに水を差すように、エルゼは恋人のカードを戻して別のカードをめくる。そこには剣を持った王のカードだ。


「うん。成功のカードだ」

「引き直さないでエルゼ。もしかしたら恋の始まりがあるかもしれないんだから」


 ローラはエルゼから成功のカードを取って、恋人のカードを渡した。これを見てエルゼは少々複雑そうな顔になった。私もエルゼに恋人が出来るという想像がわいてこないから、エルゼもそうなのだろう。

 そんな時、通りかかったラコンテが「お、エルゼ、占いをしてもらっているのか?」と茶化し始めた。


「へえ、恋人のカードか。出来るイメージが見えてこないぜ」

「ラコンテ、あんたも占ってあげるよ」

「いらないよ、姉ちゃん」


 嫌そうにラコンテは言うがローラはカードを集めてシャッフルして一枚引いた。そして、いたずらをする子供のような笑みを浮かべてラコンテにカードを見せた。それは決闘する二人の騎士のカードだ。


「ライバル出現のカードよ、ラコンテ」


 ラコンテは呆れながら「なんだよ、それ」と言うが、ローラは無視してエルゼに手紙を渡しながら「忘れていたんだけどさー」と言った。


「オルトさんって方から恋文が来ていたよ、エルゼ」

「何だって!」


 エルゼより、なぜかラコンテが驚いた。





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