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ボイドは「待ってくれ!」と手を上げて言い、審判であるオルトは「待て」と告げた。エルゼは振り上げた刀の私を下ろした。
ボイドは胸を抑えて、言葉を紡ぐ。
「君は本当にエルゼ・ローエングリンで、両親の遺産は要らないんだな」
「ええ」
「だとしたら、条件を付けて和解しよう」
ボイドの「条件」と言う言葉にエルゼは首を傾げる。
「君がエルゼ・ローエングリンであることを僕は認める。だが僕は君の両親を殺していない!」
この言葉にエルゼは「はあ?」と言い、傍聴人たちも騒めいた。
「殺したのは君の祖父だ! あの日、融資を断られて、カッと来たのか君の祖父は隠し持っていたナイフを振り回して、二人を殺したんだ」
「……だけど、私はあなたがナイフを持っていたのを見た」
「二人を殺した時に僕はナイフをもぎ取ったんだ! それで我に返った君の祖父は嘆いて君の父を抱きしめていた」
「……」
「信じてくれ! 殺したのは君の祖父、ギャトレー子爵の前当主なんだ! 僕はただ、……どうしたらいいか、分からなくて……」
衝撃的な事実にエルゼは唖然として、目を見開いた。
だがすぐに睨んで「じゃあ、何で強盗って嘘をついた!」と怒鳴った。
「あの時、君の祖父が殺したという事実を隠そうと思ったからだ! 当時の当主がこんな事をしでかしたら家は潰れると思って……、強盗がやったと嘘をついた」
この言葉にエルゼは揺れ動いていた。目の前の男は事件当時、確かにナイフを持って立ち尽くしていた。
だがエルゼは両親を刺している所を目撃していない!
彼のいう事が本当だったら……。
ボイドは「これが真実だ」と呟きながら、「和解してくれ」と言った。
エルゼは黙ったが、「無理だ!」と言った。
「あなたは嘘ついてきた! あの日も、そうだ! この事実だって大嘘だ!」
この叫びにボイドはたじろいだ。真っ青な顔になり、震えて腰を抜かしたまま、後ずさりする。
それをエルゼは跡を追うように、大きく一歩前に出て口を開いた。
「私は和解しない! お前が罪を認めない限り、私は戦い続ける!」
そう言って「審判!」と呼ぶ。
「続行します!」
この場合、審判が「待て」と言った時の態勢で戦いが続行される。つまりエルゼは刀を振り上げて、ボイドは腰を地面に着いて剣を持たない状態で戦いが始まる。これは態勢を変えて、有利に変える事が無いようにするためだ。
エルゼは刀を振り上げると、オルトは「初め!」と言った。
ボイドは真っ青な顔になり、頭を守るように手で覆う。
それをエルゼは……。




