9
サーカス団のテント内。様々な新聞の切り抜きが散らばっていた。
【ローエングリン男爵宅に強盗! 当主と妻が殺され、一人娘が行方不明!】
【行方不明中のエルゼ・ローエングリンの捜査打ち切り】
【ギャトレー子爵、息子のローエングリン子爵の資産を受け取る】
【元騎士団、ローエングリン男爵強盗事件に疑問。本当に強盗だったのか?】
【ギャトレー子爵当主、突然死? 長男 ボイド氏が継ぐ】
【ギャトレー子爵、受け継いだローエングリン社が経営不振のため親戚に売買】
エルゼは自分の事件や犯人についての情報を得るため集めた新聞だ。かなりの量になり、全部の量を読むのは大変だった。
良くも悪くもエルゼの父親は有名人だった。貴族の血を引いていたが平民の身分だが貿易業で成功し、貴族になったのに一途に思っていた流浪の民の妻を迎え、そして強盗に襲われて死亡する。
こんなにも劇的な人生は周りから見れば刺激的だ。更に生前は新聞の取材にも応じなかったり、社交界には父親しか出ず、冒険か仕事についての話しくらいしかしないミステリアスな部分もあった。
だから事件が起こった時はかなりセンセーショナルだったようだ。
そしてギャトレー子爵の親子にも、周囲の目は否応なく向けられた。
この事件は彼らが通報したのだが、本当に強盗が来たのか? 実は殺したんでは? と言う疑いの目がずっと向けられていた。現に飢饉の時の負債を抱えていたが、ローエングリン男爵の財産や会社を引き継いで返している。だが事業の失敗により、ほとんど消えてしまった。
それからエルゼの父親が他国に武器を売っていた事も知った。
「小さい時は分からなかった事も、今だとすんなり分かる」
エルゼはそう呟き、【ローエングリン男爵、異国の者に呪い殺されたか?】と言う見出しのスキャンダル紙を見る。そこには自分の家に強盗が押し入ったのは異国の者の呪いだと言う、眉唾物の記事が書かれていた。
これ以外にも父親の武器を売っていた批判記事があり、エルゼは複雑そうな顔で読んでいた。そして辛うじて読めるラコンテも眉をひそめている。
「こんなに情報があると、どれが本当なのか分からないな。と言うか、エルゼの祖父が死んだのはエルゼの怨霊って書かれてあるぞ」
「みんな好き勝手に書くからね。十年も行方不明だったから死んだと思われているんでしょう。ちゃんと自分が生きているって証明出来たら、抗議しないと」
冗談っぽくエルゼは言うが、ラコンテは心配そうだ。それに気が付いてエルゼは「どうしたの?」と聞いた。
「いや、大丈夫かなって?」
「えー、私、何回も決闘裁判やっているよ」
「……自分の事件は初めてだろ」
「それは初めてだね」
エルゼは当然って顔でそう言い、ラコンテは納得いかなそうな顔で集めた新聞を見る。その顔に不満なのか、エルゼは「何かあるの?」と聞いた。
「文句は言わないけど、突然過ぎたからさ」
「あっちに訴えられちゃったからね。私が偽物のエルゼって」
そう言ってオルトからもらった証書と新聞記事をエルゼは出した。ラコンテは新聞だけを取って読む。
「【噂の決闘令嬢は、行方不明中のエルゼ・ローエングリンか? 叔父のボイド・ギャトレー子爵は否定】か……」
「そう。偽物だって言われたら、決闘令嬢として仕事が出来ないわ」
「なるほど。そりゃ、一大事だな」
そう言いながらラコンテは「証拠集めは進んでいる?」と聞くと、エルゼは「もちろん」と微笑みながら言った。
「相変わらず、抜かりないな……。って、あれ?」
ラコンテは広がっている新聞の切り抜きの一つを手に取った。エルゼは「あ!」と声を上げてマズイと言った顔になった。
「【ルドバン公爵夫人殺しの決闘裁判への批判】?」
 




