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次の日、エルゼはサーカス団の団長の奥さん、つまり叔母と一緒に朝食を作っている時、話しかけた。
「今日は一日、とある調査をしたいので外に出ます」
「分かったわ。でもボディーガードとしてラコンテを連れて行ってね」
ラコンテはイフリート達に朝ご飯を上げながら、「はあ?」と声を上げた。
「何が、はあ? なのよ。我が息子よ」
ジロッとラコンテの母親に睨まれ、「ググウ」と変な鳴き声を出すラコンテ。しばらく母親とにらみ合うが、結局「はいはい、行きますよ」と言った。
ラコンテの言葉に満足げに母親は頷き、エルゼに向き合った。
「と言う事だから、ラコンテと一緒に行きなさい」
エルゼは微妙な笑みを浮かべた。本当は一人で行きたかっただろうな。彼女は協調性を重んじるサーカス団に身を寄せているくせに、一人で行動するのが好きなのだ。
***
「エルゼ、どこに行くんだ?」
ラコンテは面倒くさそうに聞き、王都へと向かう馬車を見ていた。
エルゼは袋に入った刀である私を携えて「ディルア領地の隅の森」と告げて、歩き出した。それをラコンテは「遠いぞ!」と言って、すぐにエルゼの肩を掴んで止める。
「お馬さんの力を借りるべきだ。馬車で行こう」
「お金がもったいないし、歩ける距離よ。そもそも馬車を借りる場所まで歩くのが面倒くさい」
そう言ってスタスタと歩き出した。ラコンテは「マジかよ」と呟いて未練がましく馬車を眺めたが、結局エルゼの後を追って歩き出した。
そうして日が高くなりお昼になる頃、ようやくディルア家が管理する領地に着いた。
健脚のエルゼは平気だが、いつも劇団やサーカス団で鍛えられているラコンテも息は切らしていない。
「それでシルビア嬢に会いに行くのか?」
「ううん、今回は会いに行かないわ」
そう言ってとある本を見せた。どうやら恋愛小説のようだ。
「彼女の頼み事とアリバイとなる証拠を得るためよ」
そう言ってエルゼは森の茂みへと入って行き、ラコンテは「ちょっと待って!」と言って追いかけた。
一応、獣が通ったような細い道があり二人は歩いて行く。
「なんだか不思議な場所にたどり着きそうな道だな」
「ロマンチックね、ラコンテは」
「一応、王子様役とピエロ役をやっておりますので」
かしこまった口調で言うラコンテにエルゼは微笑む。
そんな会話をしていると、テントが付いた荷馬車があった。