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オルトが出したのは決闘裁判の証書をエルゼは受け取った。内容は決闘令嬢がエルゼ・ローエングリンであると騙っていると言うものだった。
オルトはエルゼのつけている正方形のシンボルが付いたネックレスを見て、口を開く。
「ほとんどのピクシの民は、全知全能の神を信仰していない。だが君は洗礼を受けて、牧師からシンボルのついたネックレスをかけたと記載されている。流浪の民は決闘裁判を起こすことも出来ない。だが君が信者だから決闘令嬢として活動出来た」
「ええ、私は確かにエルゼ・ローエングリンです。こうして騙っていると言われるのは心外ですね」
「だが、どうして家に帰らない? すぐに生きていると教えたらいい」
事情を知らないオルトの言葉にエルゼは微笑んだ。
彼も覚悟が決まっていたり、冷静に怒っている時にエルゼが微笑むのは分かっているようで、憮然とした態度になった。
「実を言うと私も、この親族を決闘裁判にかけたいと思っているんですよ」
「……どういう事だ?」
「私の両親は強盗で殺されたのではありません。父の兄である叔父に殺されたのです」
エルゼはあの事件について話した。オルトも過去を聞いていたエルゼの如く、相打ちをしないで黙って聞いていた。
そしてすべてを語りつくした後、オルトは口を開いた。
「それで君は本物のエルゼ・ローエングリンと公表して、叔父を両親殺害で決闘裁判にかけるのか?」
「そのつもりです」
オルトは「そうか」とだけ言ったので、エルゼは不思議そうな顔になった。
「何か?」
「いや、批判されるかな? って思ったので……」
「全知全能の神を信じる者だったら、決闘裁判をする権利はある」
そう言いながらオルトはチラッと刀の私を少し羨ましそうに見ていた。彼もまた私のような存在と出会っていたら、父親の敵を討ちたかったのかもしれない。
***
色々と話した後、オルトから「盾の問題は解決したので、この修道院を出て行っていい」と言われた。
「サーカス団に早く行ってほしい」
「あれ? アルコバレーノ・サーカス団がこの国に入国しているんですか?」
「している。本当だったら、もう少し修道院にいて目立たせないようにしようと思った。だけどピクシの民が、君が処罰を受けるため教会に捕まっているって噂が広まってサーカス団が来たみたいだ」
このままだとピクシの民を集めて教会で抗議するかもしれない……と憂鬱そうな顔で言った。
エルゼはお世話になった修道院に挨拶した後、すぐにサーカス団へと向かった。
「ただいま! みんな!」
「あ、エルゼだ!」
エルゼがサーカス団に着くとみんなが出迎えてくれた。こうしてみるとエルゼは異質な存在ではあるものの、決して一人じゃないと思う。みんなエルゼを心配していたのだ。
ラコンテはもちろん、ファニーやシュマ、ゴーシュ達が集まり、ユニコーンのガーディン、キメラのミーコも鳴いて歓迎していた。
「ごめんなさい、心配かけて」
「無事でよかった」
そう言って叔母がエルゼを抱きしめてくれた。偽りもなく叔母はエルゼの二番目の母親だった。しかも決闘令嬢になろうとするエルゼの意志を尊重して育ててくれた人だ。
再会の喜びに浸っていたエルゼは、真剣な顔をしてサーカス団のみんなに告げる。
「みんな、私、両親殺しの裁判を起こすわ」
 




