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「……やっぱり。決闘裁判は野蛮だ」
「あら、まだ言っているんですか?」
「当たり前だ。これは結局、当事者同士でしか問題の解決方法でしかない」
エルゼは不思議そうな顔をして「当事者同士の問題とは?」と聞いた。するとオルトは「そうだな」と言って話し始めた。
「【白き騎士】の物語は知っているか?」
エルゼは「もちろん」と答えた。概要は王殺しの疑いを持たれた姫を救うため、白い騎士が決闘裁判に出て勝つと言う王道で有名な物語である。
「実はこの物語の原作は本当にお姫様が無罪なのか、はっきりしていないんだ」
「え? 確か訴えた公爵の息子が殺したって」
「そう言った謎解き部分は後から付け足されたものだ。本当の話しだと他殺どころか自然死なのか、分からないんだよ」
エルゼは素直に「勉強になります」と答えた。それを冷たい目で見ながらオルトは口を開く。
「そして白い騎士が隣の国の王子って言うのも後付けだ」
「そうなんですか?」
「ああ、それどころか一体何者なのかも分からないんだ。原作者の名前もない、童話のような短い物語だからな」
意外と簡略的な物語なんだなと私は思った。だが物語がどんどんと後付けされるのは、よくある事である。
そんな話をしてオルトは「何が言いたいか分かるか?」とエルゼに聞いた。だが答えを待たずに話し出した。
「この【白き騎士】の物語同様に決闘裁判には真実が無いんだ」
「……私は一応、原告や被告について調べていますけど」
「君は裁判前にピクシの民の仲間を使って情報収集しているようだね。まあ、ピクシの民はこの周辺諸国に散らばるようにいるからな」
「それに助太刀は真実を言わないと姿を現さないですからね」
そう言って刀の私を見る。オルトはそんなエルゼの姿を見て、「あなたみたいな者は少ない」と告げる。
「決闘裁判の根本は誰が勝者であるか? という事だけだ。【白き騎士】の姫は王殺しをしたのか、していないのか、なんて真実を考えていないんだ。もし公爵が犯人では無かったとしたら? 騎士は新たに死体を生み出しただけだ」
「……【白き騎士】の公爵は決闘裁判で、姫は殺しをしていないと認めて和解しましたよね」
「原作だと普通に殺される。後付けされてロマンスと騎士道の物語と言われているが、原作は血生臭いものだ」
遠い目をしながらオルトは話す。その姿にエルゼは「あなたって何者なんでしょうか?」と聞いた。
「【白き騎士】は古い物語です。その原作を持って、なおかつ読んだことがあるって事は、高位貴族なのでは?」
「あなたのおっしゃる通り、確かに私は公爵家の人間だ。何にもなければ跡取りだった」
若いのにグレーテル国で一番大きな教会に所属しているのは不思議に思っていたが、公爵の人間だったのか。
驚くエルゼにオルトは自嘲気味に「もう違いますけど」と言った。
「小さい頃の私は父親の跡を継いで当主になると思って、勉強に励んでいました。でも十歳の時に母が病気で倒れました。父も色々と手を尽くしたんですが、結局良くならず亡くなってしまった。その死に対して、母方の叔父が殺したのでは? と訴えて決闘裁判になりました」
「……」
「母を見ていた医師も病気と証言したのに、和解にならず決闘になりました。父は決して強くなく、叔父は武官でした。裁判の結果は当然のように父が殺され、母を殺したと言う事になりました」
彼の人生は決闘裁判で一変したと言ってもいい。確かにこういった事は起こっている。犯罪者が逮捕された時、いないのに共犯者がいると密告して冤罪の者を決闘裁判で判決を下す事もあるのだ。
あまりにも理不尽な話しなのに、決して感情的にならず喋るオルトが不思議だった。エルゼは相打ちをしないで、黙って聞いていた。
「この判決に対して、父と私に同情する者は多かったです。確かに父は母を殺していないと言う事は、身近な人は分かっていましたから。公爵家は父方の叔父が継いで、孤児になった私は決闘裁判で審判をしていた方の勧めで教会に入りました。それからこの裁判をどうにかしたいと思って、今までやってきたつもりです」
そしてオルトは「私の事はどうでもいいです」と言って、一枚の紙を出した。
「かつて誘拐された少女を騙っていると言う理由で、訴えられていますよ。エルゼ・ローエングリン」
 




