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「お前が弱くないから」


 エルゼはずっと刀の私を抱いていたが、言葉を発したのは初めてだった。

 聞いた瞬間、驚いたが声を上げずに人のいない場所へとエルゼは移動して「え? 喋れるの?」と聞いた。


「話せる」

「何で、今まで話してくれなかったの?」

「喋るのが好きじゃない」

「何で好きじゃ無いの?」

「私は刀であり、物だ。物が喋るのはおかしいだろ。それに話しかけても、聞こえない者が多い。だから好きじゃない」


 私の答えに納得していない顔になるが、それ以上に聞きたいことがあるらしく「さっきの言葉……」と話し出した。


「私が強いから、助けてくれる人がいないって事?」

「違う。弱くないが、お前は強くない。弱い者は何もできない。だがお前は違う。叔父の言葉を嘘であると発言して、刀を抜いて切りつけた」

「……だって、あの時は必死だったんだもの」

「弱い人間は刀も抜けない。だからお前は弱くないんだ。だか力が無いから強くない」

「あなたの基準って、よく分からない」

「だから、お前の父親にもらわれていったんだ」


 【真実を訴える者】に刀を抜くことができ、【真実を訴える弱き者】に侍として姿を現す。そう言い伝えられていたが、私の基準で考えているため人間達には理解されない。更に私の言葉を聞こえないものが多いから、私の意志も分からないのだ。

 助けてほしい時に刀が抜けない、侍が現れない、と言った事が起こり、やがて私は抜けない鈍ら刀となり捨てられる運命だった。

 だがそんな時、エルゼの父親が我が国に来て珍しい物の一つとして贈られたのだ。


「……ねえ、私はどうしたらしい?」

「よく分からないが?」

「お父様とお母様が死んだのに私は逃げてしまった。本当だったら、犯人を突きださないといけないのに」

「お前の立場、ここのサーカス団の考え、そして周辺諸国の事も、全知全能の神も、よく分からない。だがお前は犯人を突き出すことができる」


 私の言葉にエルゼが「どうやって?」と聞いた。今まで見ていた劇に答えがあるだろうに、と呆れつつ私は答えた。


「決闘裁判をしろ」


 エルゼは目を見開いて、私を見た。


「だが今は無理だ。本当に犯人なのかの証拠と真実を集めて、私の前で宣言しろ。そうすれば再び私の刀は抜ける」

「侍の姿になって助けてくれないの?」

「無理だな、お前は弱くないからな」

「……私は弱いよ。助けてほしいよ、誰か」


 そう言って泣くエルゼに「王子でも待つつもりか?」と聞いた。


「あの劇に出てくる姫のように王子を来るのを願い続けるのか?」

「……」

「願い続けるより、自分でやった方が確実だ」

「……」


 エルゼは泣くのをやめて刀である私を見つめた。彼女も分かっているはずだ。王子様が来るのは物語だけであることを。

 鼻をすすって、エルゼは「私は何をした方が良い?」と聞いた。


「とにかく決闘裁判について調べろ。そして自分で戦えるように鍛える。だが焦ることは無い。じっくり時間をかけてやれ」

「うん、分かった」


 エルゼの目に強い意志を宿った。そう、戦うと決意した弱くない人間にしか出来ない目だ。

 そして「ねえ、あなた、名前は何て言うの?」と彼女は聞いた。

 本来、物だから名前など私にはない。だが【真実を訴える弱き者】のために実体化して出てきた時に言われた名を告げた。


「助太刀だ」

「そう、私はエルゼ。よろしく」


 エルゼは貴族のように優雅に微笑みながら刀の私を抱きしめた。


 こうしてエルゼは決闘令嬢になった。

 自分の両親を殺した者を仇討するために。





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