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 大人でも馬車で行くだろうって言う距離を、子供のエルゼは走って向かった。刀の私を携えて。途中で転んで、膝に大きな擦り傷が出来た。それでもアルゼは泣きながら走り続けた。

 途中でライトを持って夜道を歩く人々とすれ違った。


「おや、子供だ」

「女の子だ。ねえ、君、どうしたんだい?」


 後ろ暗い感情は無いと思われたが、エルゼはその声を振り切って走って行った。


 そして夜が明ける頃、アルコバレーノ・サーカス団のテントを見えてきた。


「叔母様! ラコンテー!」


 大声でエルゼは叫んで、テントの所へと向かった。

 この大声に人間達は気づかなかったが、サーカス団の動物たちが気づいてエルゼの声に答えるように鳴きだした。


「エルゼ!」


 サーカス団のテントに着くと、すでにサーカス団の大人とラコンテが外に出ていた。動物たちの異変に気付いたのだろう。

 エルゼは真っすぐに叔母の胸に飛び込んだ。


「エルゼ、どうしたの? 姉さんは?」

「……叔母様、お父様とお母様が死んじゃった」

「え! 嘘でしょ!」

「お父様の家族に殺された……」


 それだけ言うとエルゼは気絶した。




***

「早く国の騎士団とかにお話ししましょう」


 エルゼを寝かしつけた後、叔母が言うが、叔父であるアルコバレーノ・サーカス団の団長は「駄目だ」と首を振った。


「どうしてよ」

「俺達はピクシの民だ。俺達が言っても、もしかしたら俺達が犯人にされる可能性があるぞ」

「……だけど、そのままにしていいの?」

「変に疑われるよりマシだ」


 そして団長は「エルゼを連れて、予定通りこの国を出発する」と告げた。

 自由と言うのは、誰にも守ってもらえない、保証されないという事だ。ただあてどなく放浪している彼らが無実であると訴えてくれる者達は皆無だ。なら疑われないように生きるしか無いのだ。

 だがエルゼにとっては情の無い決断である。



 日が完全に登るとエルゼは男装させて、グレーテル国から出国させた。事件について黙っているって事は叔母や叔父から話しを聞いた。それからピクシの民の事情もここで教えた。

 エルゼは泣くこともなく、ただ指示に従った。反抗したり怒ったりするのにも体力がいる。もうエルゼにはそんな力は無かったのだ。

 だがすべて納得したかというと、そうではなかった。かといって反抗する事もなく無気力で過ごしていた。ラコンテやファニー、シュマ、ゴーシュ達、サーカス団の面々は心配するが、エルゼは全く元気が出ず、何もする事もなかった。


 そんなある日、サーカスを行う前に劇をする事になった。演目は【白き騎士】だ。


『ああ、そうか。罪を認めないのか! では決闘だ!』


 父親殺しの冤罪を突き付けられたお姫様の前に現れたのは、白い鎧を着た騎士だった。騎士は決闘裁判で勝ち、見事お姫様の無罪を証明したのだ。

 そしてお姫様は『あなた様は誰でしょうか?』と尋ねると、騎士は頭の兜を取る。すると隣の国の王子様だった。

 こうしてお姫様と王子様は結婚して、国を豊かにしました。……という内容だ。

 よくある王道の物語ではあるが、エルゼにとっては辛いものだった。


「どうして私を助けてくれる人はいないんだろう?」


 その呟きに私は「お前が弱くないから」と言った。





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