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刀の私を抱いたエルゼが両親のいる部屋へと向かっていると、すでに祖父が慌てた声で父親を呼んでいた。
部屋の近くには小さな金属の円形の物が落ちていた。何かの蓋のような物で繊細な彫刻が施されていた。父親の物ではないと思いつつ、何となくポケットの中にいれた。
部屋を覗くと母親と父親は倒れて動かず床に血が流れていた。祖父は父親を抱きかかえて呼んでいるが、叔父は呆然と見ていた。全員血だらけで地獄絵図である。
エルゼは小さく悲鳴を上げて、後ずさりをした。
「あ……」
叔父がエルゼの悲鳴で気づいて振り向く。あっけにとられた顔だったが、すぐに取り繕ったような笑みを浮かべてエルゼに近づいた。
「えーっと、エルゼちゃんだって?」
「……」
「今、強盗が来て両親を殺していったんだ。それで僕たちが追い払ったんだ」
「……」
「だから、もう、大丈夫だから」
叔父はそう言っているが、エルゼは「嘘つき」と言った。
「強盗だったら、もっと大きな物音とか声とかするでしょ! それにどこから侵入したの? 窓は割れていないし、玄関だったら廊下がもっと荒れているでしょ! それに強盗の声なんて聞こえなかった!」
「いや、その、話しを聞いて」
「あと、何で、左手を隠しているの!」
叔父のパッと左手を叔父は隠そうとするが、エルゼが回り込んだ。叔父の左手にはナイフが握られていて、血が付いていた。
エルゼの息をのむ声が聞こえた。
叔父は舌打ちを打ってナイフを突き出した。
「やっぱり、あなたが……」
「うるさい! 僕をバカにするな! 黙ってこっちに来い!」
そう言ってエルゼを掴もうと叔父は手を伸ばす。その瞬間、エルゼは刀である私を引き抜いいて、叔父の腕を斬った。
左腕に大きな傷を受けた叔父は悲鳴を上げて膝をついた。
刀が抜けたことに驚いたのか、それとも叔父を傷つけたのにショックを受けたのか、エルゼは呆然としていた。しかし祖父が「お前!」と呼ばれ、エルゼはハッと顔を上げる。
そのまま私である刀を抱きしめて、走り出した。
***
家を出て、街へと走るエルゼ。実を言うと彼女はほとんど外に出たことが無いし、ピクシの民や貴族や平民と話したことは無い。
父親が貴族の位を持っていたが母親がピクシの民だったが故、貴族並みのマナーと知識を持っていたエルゼはピクシの民や平民、貴族でも特殊な存在だった。
エルゼの家族は浮浪者であるピクシから見たら違う世界の人間だったし、貴族や平民から見たら成金風情の下品な人間と言われていたのだ。
だからエルゼの母親も父親以外、気を許せる人間なんておらず、外に出ることは無かった。
だがラコンテと叔母がまだいるはず。
彼女は持ち前の運動神経でサーカス団のテントまで走って行った。




