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華やかな金髪少女が車いすに乗り、それを大柄の少年が押していた。
少女は車いすからはみ出るくらいのフリルたっぷりのピンク色のドレスを着て、足元が見えないくらい丈が長い。そして丈の長いドレスからヒールの高い靴を履いていた。
「アルコバレーノ・サーカス、楽しみですわ。ダグラス様」
「ああ、そうだな。アリサ」
見ていると親し気なカップルである。噂の令嬢であるアリサとシルビア様の婚約者ダグラスである。
ダグラスがエルゼに「まだ入れるか?」とお金を出して聞き、エルゼは「大丈夫ですよ」と言ってお金を受け取ってチケットを渡す。
アリサは「うふふ、楽しみ」と言って、ダグラスと共にサーカスのテントに入って行った。
「あれが噂のお二人か」
ラコンテがそう言うとエルゼは「ええ、そうよ」と答え、「随分とお似合いだわ」と言った。もちろん嫌味として。
「そう言えばエルゼが探していた女の子、見つけた」
「あら、早いわね」
「フン、ピクシのコミュニティをなめるなよ。その子、面白そうだから決闘裁判も出たいって言っていた」
「その方が良いわね。民衆の前で証言をしてくれたら、信ぴょう性は増すでしょう」
「ところでエルゼ。シルビアのアリバイは証明させられるのか?」
ラコンテの言葉にエルゼは「もちろん、やって見せるわ」と優雅に言う。
そしてサーカスのテントではキメラの曲芸と堂々とした鳴き声に歓声が上がり、エルゼは何かに気が付いた。
「ねえ、ラコンテ。そろそろ、出番じゃない?」
「ヤバ!」
そう言ってラコンテはエルゼから離れていった。
ラコンテはこのサービス団のピエロ役だ。メイクを取れば彫の深い黒髪黒目の精悍な青年である。ちなみに団長の三男だ。
ピクシ人のサーカス一族として生まれたラコンテではあるが、別の顔も持っている。
「いやはや、恐ろしいキメラの芸に皆様の肝を冷やしてしまい申し訳ありません。お次は間抜けでお調子者のピエロの登場です!」
なんとも間抜けな調子でトランペットを吹いてピエロに扮したラコンテがやってきた。本当は上手にできるジャグリングを下手にやっていたり、先ほどのイフリートにちょっかいを出してお尻に火をつけられて慌てていたりと、あまりにも間抜けでお調子者を演じていた。
そんなラコンテの姿に観客は大笑いをする。
「うまいものね。【白き騎士】の劇の王子様役をするのに」
時々サーカスのテントで、ラコンテは演出家、脚本家、監督、俳優をやっている。劇はなかなか評判が良いようで、サーカス一座から一目を置かれている。
「どこかの劇団に引き抜かれないかしら。才能があるんだから」
そう言いながらエルゼは周囲を見渡す。
エルゼもまた真っ黒な髪を持っているが、瞳はこの周辺諸国に見られる青い目をしていた。また顔もピクシの者たちに比べて彫は深くなく、肌もピクシの民に比べて白い。周辺諸国の人と紛れても馴染める雰囲気があった。
エルゼの母親はここのサーカス団の歌姫だったのだが、大型船の船長だった男を結婚したのだ。エルゼの父親は東の国々と交流し、また貿易を行っていた。
更に鎖国状態だった極東の島国の人間が海で遭難していたのを助けた縁で、仇討などを禁止して役目が亡くなった刀である私をエルゼの父親は譲り受け、様々な調度品を手に入れた。
だから結構、小さい頃のエルゼは裕福な生活をしていたのだ。
母親と父親が亡くなるまでは。
***
サーカスは大盛況の中で終わった。テントから興奮冷めやらぬ観客が出てくる。もちろん車いすのアリサと車いすを押すダグラスも楽しそうな笑みを浮かべて出ていった。
遠い目をしながらエルゼは、テントから出てきた親子連れを見る。小さな女の子は見たことない生き物たちの曲芸に目を輝かせて話し、両親は慈愛に満ちた笑みを浮かべて聞いている。
エルゼも思い出しているのだろうか。
幼かった頃、サーカス団を両親と見て楽しんでいたことを。