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「リラさんのお爺様はエルフのクローバーの民でしたが、お婆様はピクシの民でした。他民族を結婚するのはクローバーの民の掟で追放となります。掟通りに一族を去ったリラさんのお爺様はお婆様と他のエルフの里や人里離れた森の中で狩りや農業しながら、リラさんのお父さんを育てながら暮らしていました。やがて、その地ではエルフの里で馴染めない、追放されてしまった者達が集まるようになっていき、次第には近くの村と交流するようになりました。彼らもクローバーの民と同じクローバーのシンボルとつけていました。そして二十年前の飢饉の時はそこの領地を助けたと言われています。その地では寒さに強い種が突然変異で出来たので、その種をこの地で使われていました。これがリラさんが寒さに強い種を持っていた理由です」


 リラの父親の出生については、生まれ故郷の里にいたエルフやピクシの民達から聞いたり残されたノートがエルフの民の文字だったらしく読める人間に読んでもらったりして調べたのだ。

 最初の村で借りた黒い気難しい馬に乗ってラコンテやエルゼは、各地を訪れて調査したので結構手間がかかったが、信頼性の高い情報が得られた。

 随分と長い距離を走った気難しい黒い馬には感謝しかない。


「さてリラさんのお父様は、お爺様が言っていた【かつてクローバーの民が住んでいた地】に行ってみたいと思って、飢饉が訪れる数年前に行ってみる事にしました。ですが古典的教えを信じる者達がいて、まだ自分たちを憎んでいる事を知り、その場から去りました」


 そしてその後、飢饉が訪れる。

 リラの父親はかつてクローバーの民の住んでいた地、つまり今のピクシの農園から離れた場所で農業を行う事にした。どうして父親と一緒に住んでいた村に帰らなかったのかと言うと、クローバーの民が住んでいた地が荒れ果ていたのを見て見ぬふりをしたくなかったのだ。

 父親から元々この地は豊かな場所だったのと、ここの地で行っていた農業方法を断片的に教えていたため、やってみたいと思ったのだ。

 そこで彼らが住んでいた近くの森の奥で研究を始めたのだ。その後、すぐにリラの母親と出会って一緒に農業をしながら研究し生活をしていった。そうして父親から教わった画期的な農業方法が分かったのだが、その後すぐに病気で亡くなってしまった。

 こちらについてはノートに記述されていた。


「従来の農業方法は農地が低下してしまうため休ませる休閑地を作っていました。それをリラさんのお父様は休閑地に、カブなどの作物やクローバーを育てて家畜たちの放牧などしました。それによって休閑地を作らず、農業生産を上げる方法です」

「……忌まわしき草を育てているなんて!」

「またリラさんのお父様が正体を言わなかったのは、あなた方に恐らく敵対される可能性があると思ったからでしょう。そして亡くなる前にこの農業方法を自分の名を言わないで広めてほしいとリラさんにお願いしました。父親との約束だったため、彼女は父親について語らなかったのです」


 ここでリラが「あの」と言って話し出した。


「今まで自分の手柄のようにしていて、ごめんなさい! でもどうしてもお父さんの教えてくれたことをみんなに広めたかったんです! 本当にごめんなさい!」


 頭を下げてリラは傍聴席にいる人々にそう言って謝った。傍聴人からは「謝らなくていい」「辛かったな」とねぎらいの声が上がった。

 それをエルゼは見届けて、「これがリラさんのお父様の秘密です」と言って、バスロ牧師に向かって言った。


「リラさんのお父様は普通のエルフとピクシの民の血を引く者でした。だからリラさんは聖女でも魔女でもなく、普通の少女です。無理やりな神判を行った貴方に非があるため、即刻謝罪をして和解を受け入れてください」


 バスロ牧師は予想通り「無理だ」と言った。


「あの子は魔女だ! そして彼女はあの地を占領するつもりだ!」

「そう思い込もうとしているんじゃないでしょうか? バスロ牧師。いえ、バスロ元子爵」


 エルゼの言葉にバスロ牧師は大きく目を見開いた。


「あなたの素性は分かっております。かつてクローバーの民と聖戦して勝ち取った地であり、飢饉の時にこの地を離れた領主の息子ですよね」

「……」

「飢饉前は古典的教えを守り続けたのでしょうが、農業方法は独特だったため不毛な土地でした。しかもクローバーを不吉として燃やしていたり、根菜を育てないなどの農業を行っていたのでしょう」

「そうだ! 我々は教えを守ってきた! だが飢饉と言う悪魔の呪いでこの地を離れなければならなかった。そして戻ってきたら魔女が支配していた。我々は魔女を倒して、再びこの地を取り戻す!」


 バスロ牧師はリラを魔女認定するために神判を行ったわけではない。ただ、ピクシの民の農園を奪う……バスロ牧師や古典的教えを信じる者達にとっては取り戻すための理由に過ぎない。

 飢饉を悪魔の呪いだと言って逃げ出した彼らは、どこの村でも領でも変わり者扱いされて、追い出されたり差別されてきたのだ。教えを強要するからそうなるのだが、それでも彼らもまた疎外される人々なのだ。

 だからクローバーの民に戦い勝ち取った自分たちの地を取り戻すために、リラを魔女扱いして処刑してピクシの民を追い出そうと考えていたのだ。


 そう、バスロ牧師や古典的教えを信じる者達に和解する選択など無いのだ。




 裁判途中ですが、ここで補足です。

 リラの父親が考えた農法は、現実だとイギリスのノーフォーク地方で普及したノーフォーク農法です。また休耕地を入れた農法は現実だと三圃制農業です。

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