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青年から借りた馬は風に乗っているかの如く、速かった。とても力強く頼もしい馬だが、操っているラコンテと一緒に乗っているエルゼは不安な顔をしていた。
珍しく夜に裁判らしいが、今は日が落ちかけている、もしかしたら間に合わないかもしれない。それでも馬は力いっぱい走っていた。
「というか、何で夜に行うんだよ! 普通は日が出ている時間でやるだろ?」
「普通はそうなの。裁判とか神判は太陽が出ている時にやるのに」
村の様子からして、寝耳に水のような感じだった。恐らく突然、神判をするって事になったのだろう。
「つまり、あの牧師は今日中にやらざるを得なかった」
エルゼはそう呟いていると、ラコンテは「おい、あれ!」と言って指さした。そこには火の明かりがついて、祭りのように人だかりが遠くからでも見えた。そして一番目立つところに、木で出来た正方形の枠のような物が立てかけられた。
「……全知全能の神のシンボルがある。もうすぐ始まるのかも!」
ラコンテの声で黒い馬は更に速く走った。
***
数時間くらいかかると言っていたが、一時間と少しくらいでピクシの民の農園に着いた。
エルゼが「ありがとう」と言うと、黒い馬は『別に』とばかりにそっぽを向く。素っ気ないが、優しい馬である。
「エルゼ。俺は馬小屋を探してくるから、先に裁判の方に行け!」
「分かった!」
すぐさま、エルゼは刀である私を持って走り出した。
裁判の会場に着くと、農園にいたピクシの民全員が紛糾し、全知全能の神のシンボルが立つ舞台を取り囲んでいた。
近づいて舞台の方を見ると真ん中にエルゼと同じくらいの女の子、恐らくリラが泣きそうな顔で俯いている。そして牧師服を着た男たちがリラを取り囲んでいた。
「え? なんでこんなに牧師がいるわけ?」
教会にやってきたバスロ牧師一人のみだったはず。それなのに、どうして多くの牧師がいるのだろうか?
不思議に思っていると、一人の偉そうな牧師が舞台にあがった。すると観衆のピクシの民が「バスロ牧師! なんでこんな事をするんだ!」「即刻、やめろー!」と怒鳴り声が挙がった。
そんな声を無視して、「静粛に!」と怒鳴った。彼の胸には声が遠くまで聞こえる魔法石が付いているのに、変に怒鳴ったためキーンって言う耳が痛くなる音が聞こえた。
「オッホン。静粛に、劣等のピクシの民」
「誰が劣等じゃ!」「お前の頭の方が劣化ているだろ! 古典的牧師!」「お前が静粛しろ!」
「黙れ! お前ら!」
全然、やまないヤジについにバスロ牧師をブチ切れて、持っていた杖をリラの方に振り上げる。リラは更に縮こまり、集まったピクシの民も黙った。
「フン。それでは神判を行う。もし聖女であれば、この灼熱の鉄を掴んでいても火傷は無いはずだ」
そう言って仲間の牧師から先から煙が出て赤黒くなっている鉄の棒を持ってきた。見ているだけで熱波を放つような棒である。
それをリラの前に出して、「握れ!」とバスロ牧師は言う。
「お前が聖女であれば無傷なはずだ」
「……私は、聖女じゃ……ない……です」
「だとしたら、お前は魔女か!」
バスロ牧師は大声でそう迫り、他の牧師も近づく。それが恐ろしくリラは、泣き出してしまった。
エルゼは「本当に最低の底以下!」と呟いて走る。もちろん、舞台へ上がるためだ。だが観衆は多く、舞台まで遠い。急いで走るエルゼを無視して、一方的な神判が続く。
「お前が魔女だとしたら、お前の家族も処刑だ」
「……お母さんは、関係ない、です」
「お前と言う魔女を生んだ罪だ! その罪を払ってもらわないといけない!」
「そんな……」
最低な事を言い放つバスロ牧師に、リラは嗚咽交じりで「魔女じゃないです」と言った。すると灼熱の棒を突き出した。
「だったら、これを持てるはずだ!」
「……」
「お前のような、野蛮で、劣等で、汚らわしいピクシの民が画期的な農業方法なんて編み出すどころか、知識なんて持てないだろう! お前は魔女で、この方法を悪魔から教えてもらって、みんなが油断している隙に、陥れるつもりだったのだろう!」
「そんなこと、しない!」
「じゃあ、持ってみろ! 魔女じゃないなら持てるはずだ! 持てなければ、お前の母親を処刑する」
「……そんな」
一方的かつ、無理難題かつ、とんでもない理論をまくしたてるバスロ牧師。これにはさすがに観衆もヤジが飛ぶ。それにバスロ牧師は人質に刃物を突き付ける如く、リラに鉄の棒を突き付けて「黙れ!」と怒鳴る。
「もう、先に母親を処刑させよう。処刑台を!」
「ちょっと、待って! 持ちます!」
エルゼが「まずい!」と言いながら、舞台袖近くまで来た。だが見張りの牧師がいて、エルゼに立ちふさがった。
「誰だ! お前!」
「リラの親族です! この舞台に立つ権利が……」
その時、甲高い悲鳴が舞台からあがった。




