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港はとても綺麗で栄えていた。綺麗なドレスを着た若い女性や黒い燕尾服を来た老人が、豪華客船に乗っていく。一方で薄汚れた少年が新聞売りをしたり、靴磨きをしたり、女の子はお菓子を売っている。老若男女、貧富も関係なく港にいた。
これを見てボソッとエルゼは「随分と栄えたな」と呟くが、ラコンテには聞こえなかった。
グレーテル国は他の周辺国家に比べて栄えている方だ。二十年前に起こった飢饉により穀物の高騰が発生した時、グレーテル国は飢饉の起こっていない国へ船で行くなどの貿易を行った。元々、他国の貿易は栄えていたが、これにより更に発展していったと言われる。
「ピクシの民の農園がある領地は結構、遠いみたいだ」
「……じゃあ、歩いていけないね」
残念そうに言いながらエルゼは馬車乗り場へと向かう。
ところが結構な列が並んでいた。仕方がないと思いつつ、エルゼとラコンテは後ろに並ぶ。だが二人の番になった時、馬車の行者は無視して次に並んでいた人を呼んだ。
「え? ちょっと! 俺たちの番だったじゃん!」
ラコンテは文句を言うが行者はそれも無視していた。それを見ていたお菓子売りの女の子がエルゼに「お姉さん」と小さな声で話しかけてきた。
「お姉さんって別の国から来たピクシの民?」
「そうだよ」
「あのね、ここの馬車はピクシの民とかの少数民族の人は無視されちゃうの」
「なんだそりゃ!」
行者に文句を言っていたラコンテもやってきて、お菓子売りの女の子は馬車から少し離れた場所へ案内して話し出す。
「この国は初めて?」
「んー、初めてじゃないけど久しぶりだな」
「この港って、海外のお偉いさんとか貴族の方もやって来るの。だから……えーっと、みんながそうってわけじゃないけど、ピクシの民って自由人だから馬車の中で、はしゃいで汚くするかもしれないから……」
「乗せられないって事?」
エルゼがそう言うと女の子は気まずそうに頷いた。この話しにラコンテはあからさまに怒った顔になる。
どうやらこの港は少数民族に厳しい雰囲気のようだ。確かに周囲を見ると貧富の差はあるものの、少数民族の人は見かけない。
どうしようと思っているエルゼたちに、女の子は「でも馬車じゃないけど、乗せてもらえる所を知っているよ」と話してくれ、案内してくれた。そこは露店が立ち並ぶ場所で港の賑わいもあるが、少々汚い場所だった。
そこで女の子は一人の老人に話しかけて、エルゼたちを紹介した。
「この人たち、ピクシの民がいる農園に行きたいんだって」
「おう、そうかい」
「よろしくお願いいたします」
穏やかそうな老人は農作物を運ぶための荷馬車へと向かう。先ほど待っていた馬車の馬は三匹でキリっとした顔だった。だが老人の荷馬車の馬は老馬で一匹しかいない。しかも屋根は無く、本当に荷台だった。
だが乗らないで徒歩で行くよりはマシだ。というか、わがままを言ってはいけない。
「のんびり行きましょうね」
「ところで、どこの位かかるんだ?」
「二日くらい、かな?」
老人の言葉にラコンテは「はあ?」と言った。エルゼも戸惑う。
「私は途中までしか行けないんだ。でも大丈夫。村についたら宿屋と馬車を用意しよう」
この言葉にラコンテは落胆し、少しエルゼは苦笑した。わがままを言ってはいけない。




