表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/89

「さあ、さあ! 皆様、お聞きください! アリサ様の悲しき事件を!」


 王都の城下町の路上で新聞を片手に男性は講談師のように語り出す。商店が並ぶ人通りが多い通りの目立つ場所で言っているので、結構な人だかりが出来ていた。しかも男性の声は遠くまで響くくらい大きく、遠くで見るエルゼにも十分に聞こえていた。

 彼は新聞が読めない人間のために内容を解説する【読売】と呼ばれる者。だが解説と言うより、新聞の売り上げのために声を張り上げている。


「一か月前の花祭りの昼下がり、花が舞い散るくらいは花いっぱいになった王都に愛しい者であるダグラス様を待つアリサ様はあの階段を登っていました」


 そう言ってエルゼのいる階段を指す。階段は一人分しか通れないくらいの狭さだ。その階段の先には可愛らしい花屋があった。

 上を見上げると花屋の女主人が階段上から呆れた目で解説の男を眺めていた。


「またやっているよ。あの解説している男、話しを誇張して」


 うんざりしたような顔になって、そう言い女主人はその場を後にした。

 そうして女主人が言う誇張した話しは誰にも止められず、ドンドンと白熱していった。


「そう、あそこの花屋でダグラス様の花を買うため階段を登るが、その先には帽子を目深く被った黄色のドレスを着たご令嬢が佇んでいました」


 何度も話しを聞いているはずなのに、周囲の人は集まって固唾をのんでいる。基本的に城下町とはいえ、割と娯楽に飢えている部分があるのだ。だから劇的な話しを聞き入っているのだ。


「不思議に思うアリサ様。その黄色のドレスを着たご令嬢を通り過ぎた時、ポンっと肩を押されて……」


 解説する男は大げさな動きをしながら「ガラガラドシャーン」と擬音を言って、事故の激しさを証言する。それを聞いて周りの者は息をのむ。


「あっという間にアリサ様は階段下まで転げ落ちてしまい、二度と歩くことが出来なくなってしまいました。そして彼女は見たのです。突き飛ばした令嬢の顔を!」


 たっぷりとためて解説する男は「ディルア家のシルビア令嬢だったのです!」と声高々に発表する。


「ダグラス様のラテルナ家は二十年前の大飢饉の時、ディルア家の食料支援を引き換えに不当な取引を行いました。ディルア家に生まれる子供を結婚させよ。もし長女だったら婿を取ると」


 ……別に不当な取引じゃないと思う。だが解説する男性の話しを聞くとなるほどと納得した。


「ダグラス様には幼馴染のアリサ様を心よりお慕いして、真実の愛を抱いておりました。だから婚約者であるシルビア令嬢はそれを知って、嫉妬してしまったのです!」


 ここでダグラスとアリサのどうでもいい馴れ初め話になって、エルゼも私もうんざりしてきた頃、トランペットと太鼓、バイオリンの音が大通りから聞こえてきた。

 この音に解説の男の周りにいた人々は、すぐさま音のする大通りへと向かう。呆然とする解説の男を横目にエルゼも大通りへと行く。


「皆様、お待ちかね! ピクシ人のアルコバレーノ・サーカス団がやってきたよ! ユニコーンの芸馬、キメラの火縄くぐり、ハラハラドキドキの芸を見ていってね!」


 巨人がチェロをギターのように弾き、ユニコーン達は美しい少女を乗せて優雅に歩く、ライオンの顔と馬の胴体、蛇の尻尾を持ったキメラが力強く鳴く。そして空から鷹ほどの大きさの竜が飛んできた。

 その一団を率いるのは寝間着のような服を着て、顔には変な化粧をした青年だった。トランペットを吹きながら、サーカスを宣伝する。

 ふと青年がエルゼと目が合うと、ウィンクをした。エルゼは苦笑しながら、手を振る。


 そうしてサーカス団は大通りを抜けて、城下町を少し離れた広場へと向かう。これから一週間、たくさん客を集めて歓声を浴びて、人々に話題と娯楽を与えるだろう。


「さてと、そろそろ私も裁判所へと行きましょう」


 そう言ってエルゼはシルビアに書いてもらった書類を見ながら歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ