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なんで二年も経って契約違反と言い出したのだろう……。エルゼの不思議そうな顔になるが、クレアは教会新聞を出した。そこにはクレアとガスラの決闘裁判の記述が書かれていた。
エルゼと見たが契約違反である事を証明するための決闘裁判とあった。
この時、何で契約違反だったら裁判を起こさないで、こちらに来ればいいのでは? と思った。でもクレアは修道院にいるという事をガスラに言っていないだろう。もし知っていても、ここは男子禁制だから入れない。
なるほど、だから裁判で呼びだすのか。
ここでエルゼはもう一度、契約書を見て口を開いた。
「この契約書には契約違反した場合について書かれていませんが、違反したらどうなるんでしょうか?」
「……分かりません。というか違反させないように、目を光らせていた感じだったので」
「それでクレアさんは出廷するつもりですか?」
エルゼの質問にクレアは「するしかないじゃないですか」と言った。
「決闘裁判に出廷しなければ、罰金を払わないといけないし、何よりガスラの主張が正しいとなってしまいます。……ですが」
「ですが?」
「強盗が取った契約書をあなた方が取り返してくれたんですが、守衛のトムさんがケガをしてしまって……。和解による話し合いもするでしょうが、和解できなかったら決闘になります。あなたもそうですが決闘士というのは、お金を払わないといけないので……」
「もし条件が揃って、こちらの要望をのんでいただければ、無料でやってもいいのですが」
エルゼの言葉にクレアが身を乗り出して、「本当ですか?」と言った。
「条件と要望をのんでいただければの話しです。まずは条件に付いてです」
エルゼは契約書のサインを指さした。クレアとガスラの名の下に【オルト・ルートゥリア】という者の名も書いており、教会の判子が押されていた。
「この方は?」
「牧師さんです。私達の結婚式での宣誓をしてくれました。式の前にこの契約をしたんですが、第三者も入れようって事になって急遽、彼も交えて契約書にサインをしました」
「彼がサインしたと証明してくれることは可能でしょうか」
「実は決闘裁判が行われると分かった日に手紙が来て、自分がサインした契約書だから証人として出ますと書いてありました。今は他国の教会にいるそうですが、当日には間に合わせるともありました」
教会の牧師と言うのは一生その地に留まる者もいれば、貴族のエリートやもっと高い地位につきたいとか考えて試験や経験を積んで様々な場所に移動する牧師もいる。オルトは後者の方のようだ。
ただ自分がサインした契約書にケチをつけられたから、証人になるため他国にいるのに来るというのは少々驚いた。普通だったらお金を出したり、頼まないといけないのだ。
「彼が証人として来てくれるなら、大丈夫です」
「それで要望は?」
クレアが恐る恐る聞いて、エルゼは微笑みながら答えた。
***
修道院の敷地にアルコバレーノ・サーカス団のテントが立つ。修道女たちも恐る恐るだが、興味津々で見ている。
そう、エルゼの要望はサーカス団が活動する敷地を貸してほしいというものだった。
「助かりました。ずっとキャンプをしているのも大変だったので」
「お礼なら修道長に行ってください。あとルールを守ってください」
クレアさんは少々厳しい顔になってそう言った。そして遠い目をして「これで決闘裁判に出てくれるんですね」と言った。
「はい。この契約書を第三者が見て、証人として出てくれて、書いたと証言してくれれば【助太刀】の鞘も抜けます」
首を傾げるクレアにエルゼは刀である私を見せて話しを続ける。
「この刀は精霊が付いています」
「精霊ですか」
「はい。ですが実態を表すには切るべき相手が本当に悪であるか、証拠を見せないといけないんです。それがすべて揃えば、真実を訴える弱き者のために戦ってくれます」




