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 修道長の計らいで談話室を貸してもらって、エルゼとクレアはそこで話し合う事になった。落ち着いた雰囲気がある談話室で丸テーブルと椅子があった。

 クレアは紅茶を入れて、すでに座っていたエルゼの前に出された。エルゼは「ありがとうございます」と言って紅茶を飲む。


「あのエルゼさん、あなた女の子なのに、決闘士なんですね」


 クレアの問いにエルゼは「ええ」と頷いた。

 決闘士とは決闘裁判で原告か被告の代わりに戦う人間だ。元々は子供、女性や老人など弱い者達の代わりに戦っていたが、お金を積めばどんな人間の代わりに戦うようになった。大体、様々な理由で辞めさせられた騎士がなっている奴が多い。

 そして決闘士はほとんどが男性だから、女性はかなり珍しい。

 エルゼは「決闘士ですけど、戦うのは【助太刀】という精霊です」と言って、刀である私を見せる。


「これ【刀】って言う極東の剣ですよね」


 クレアの言葉にエルゼは「あ、知っているんですか?」と言って驚いた。もちろん私も驚いた。地球の裏側にある我が国の文化を知っている人間なんて少ないのだから。

 クレアはちょっと恥ずかしそうに話し出した。

「実は昔、グレーテル国にいる父の知り合いの貴族の家に行った時に見せてもらったんです」

「そうなんですか」

「でもこの【刀】は大きいですね。彼らは小さいらしくて、刀も小さいと父の知り合いの方は言っていましたけど」


 クレアの言葉にエルゼは「へえ」と微笑み、しばらくクレアの父の知り合いの話しを続けた。そうして話しているとクレアはハッとした顔になった。


「すいません。そろそろ私が訴えられた決闘裁判についてお話ししないといけなかったのに」

「ああ、そうでしたね。申し訳ございません。私もつい楽しくなっちゃって」


 クレアは姿勢を正して「まず彼との婚姻についてお話しします」を語り出した。


「実を言うと我が家は事業に失敗してしまって、多額の借金を背負ってしまいました。それで私はなかなか結婚相手が見つかりませんでした。そこにガスラ・ジングという他国の貴族が持参金なしで私と結婚したいと来たんです」


 結構、いい話に聞こえる。でも甘い話って言うのは裏があるというのは、古今東西共通している。


「父はこの話しを聞いてすぐに飛びついて私とガスラとの婚姻を認めました」

「……でも怪しすぎません?」

「私も怪しいと思いました。だけど父は私が邪魔だったんですよね。私の母が亡くなって、後妻を迎えて腹違いの妹が出来て……。父は政略結婚で結ばれていた私の母に対して愛情など欠片もなかったと思います。だから怪しくてもさっさと私を嫁に出したいと考えていたんでしょう」

「それで他国に嫁いだんですね、クレアさんは」


 クレアは暗い表情で返事をする。この表情だと怪しい予感は的中していたんだな。いや、契約書を出された時点で最悪だろう。


「それで結婚後【白い結婚の契約書】を出された」

「はい。結婚式当日に『僕には愛し合っている人がいる。だから三年間、夫婦のフリをしろ』と言われて、この契約書にサインしろって言われました」

「最悪ですね。しかも結婚式当日って……」

「あまりにもうまい話だったので、そうじゃないかなとは思っていました。だからあまりショックは無かったんですけど……」

「あと、申し訳ございません。ちょっとこの契約書を読んだのですが、これ半分以上結婚に関して書かれていませんよね」

「はい。ほとんど彼の事業に関するものです」


 エルゼは「つまり結婚後は彼の事業の手伝いもしろって事ですか?」と呆れた顔で言うと、頭が痛そうな顔になってクレアは「そうなんです」と答えた。

 これは【白い結婚の契約書】じゃなくて【就職の契約書】じゃないか。


「えーっと、契約書によるとクレアさんは屋敷で女主人としての役割や事業の会計もやっていたんですね。しかも無給で」

「はい。元々持参金も結婚式代もあちらで払ったので、その分を返したって返すためにやれって言われて」

「それからレディルさんって誰ですか? この人のいう事は正しいので、ちゃんと聞けって書いてありますね」

「ガスラ様のお母様ですわ。厭味ったらしくて細かくて面倒でした」

「……何と言うか【就職の契約書】ですよね、これ」

「就職するにしたってもっと優しいですよ。これじゃあ懲役刑ですよ」


 もう思い出したくもないって感じでクレアは言い、エルゼは質問はやめた。確かにエルゼと一緒に契約書を見たのだが、内容は理不尽すぎて唖然としてしまった。クレアが懲役というのも仕方がない。


「三年間、偽装結婚した後は離縁とありますね」

「ええ、その当時は三年間、真っ当に彼の偽装結婚を演じて、子供が出来ないって理由で離縁しました。離縁された後は嫁に行く時に着て行った服を着てそのまま外に出されました」

「最低の底以下ですね」

「本当に。それで実家に帰るわけにも行かず彼の国を出て森をさまよっていたら、親切な商人が行く当てのない私にここの修道院まで連れて言ってくれたんです。それから二年間、ここで生活をしています」


 そしてクレアは大きなため息をつきながら「ところが」と話し出した。


「最近になってガスラ様がなぜか突然、契約違反と言い出したんです」



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