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「なあ、見逃してくれよ」
縛られている強盗団がそう叫んで、サーカス団の者達に訴える。エルゼは契約書から目を離して、強盗団の方に目を向ける。
「お、俺達、同じ民だろ」
「俺達もピクシの民なんだよ。分かるだろ、俺達は疎まれちゃって、こうして盗みをしているんだ」
「なあ、見逃してくれよ」
どうやら強盗団はピクシの民のようだ。流浪の民であるため、帰る場所が無いのと不安定な仕事をしているから、困窮する可能性が高いのだ。そしてこういった悪行に手を染める。
これを聞いて団長は「エルフの民を呼んでくれ」と仲間に言った。そして「こいつらを近くの国に引き渡さないといけないからな」と言い、強盗団は「何でだよ!」と怒り出した。
ジロッと団長は強盗団を睨みつけて口を開く。
「同じ民だからこそ、このような事をしたのは許せないんだよ。強盗なんて馬鹿な事をして! 北の神に顔向けが出来ないだろ!」
「……だって、ギャンブルで借金しちゃって……、それで人に頼まれて……」
「言い訳は結構!」
厳しい言葉に強盗団はうなだれて、これ以上何にも言わなかった。団長も同じ民だから、団長は許せないものがあるのではないかと思う。
しばらくすると近くに住むエルフの長老と若い男たちがやってきた。
「難儀だったのう、サーカス団」
「いやいや」
「夜が明けたら東の国の憲兵に連れていこう。おや……」
エルフの長老は強盗団が盗んだ物に何か気が付いた。
「おやおや、この聖女像は東の国近くの修道院の物だのう」
「そうなんですか?」
「ああ、仲間が病気になった時、薬を分けてくれたことがあった。礼拝堂でこの像を見た事がある」
長老は穏やかに微笑む聖女の像を見て、そう言った。そしてエルゼは「あの、すいません」と話しかけた。
「修道院にクレアって方はいらっしゃいますか?」
「いるぞ。この方が仲間を看病してくれた」
長老の言葉にエルゼは微笑みながら契約書を眺めた。
***
日が昇り、サーカス団の男性たちは強盗団を東の国に引き渡し、エルゼとラコンテは聖女の像が盗まれた修道院に向かっていた。
「それで、白い結婚の契約書の持ち主が修道院にいるクレアさんって事か」
「そう。ついでに像も届けられる。信仰の対象が居ないままだったら可哀そうでしょ」
エルゼとラコンテの話しをしていると、近くに住むエルフの男性が「契約書ってなんだ?」と首を傾げた。そんな疑問に同じくエルフのシュマが「人間同士の約束が書かれた紙」と説明した。
「約束事を破られないように、忘れないように書いておくのさ」
「なるほど。人間たちはすぐに約束を忘れてしまって、違う約束を言い出すからな」
「我々もやってみようか」
「でも人間とエルフの文字って違うからな……」
説明を聞いたエルフたちは素晴らしいアイデアとばかりに、さっそく実行しようと話し合う。だが書いた紙が水にぬれたら……、とか文書の保管をどうしようかと悩んでいる。
そして契約の説明を終えたシュマはエルゼの方を向いて「だが白い結婚とはなんだ?」と聞いた。
「偽造結婚ですね」
「……偽装結婚? なんで婚姻を偽装するんだ?」
「色々、ですね。例えばピクシの民だった場合、ある国で仕事をして暮らしたいけど永住権が貰えません。だったらその国の人間の異性を見つけて結婚して永住権をもらうんです。あと貴族と普通では結婚出来ない平民やピクシの民が内縁関係だった場合、カモフラージュで自分より身分の低い貴族と結婚をする、とか」
「はあ、悪知恵がよく働くな」
呆れたように言うエルフにサーカス団のみんなは苦笑する。誇り高きエルフの民は嘘や約束を破らず森を守るという古の掟を守り続けている。だからこういったずる賢いやり口なんて、考えられないのだろう。
とはいえシュマ曰くエルフにも色々といるらしく、森から出て行ったりする者もいるらしい。現にファニーの父親は古臭いエルフの掟に嫌気がさして、アルコバレーノ・サーカス団に入っている。
「それにしても偽りの結婚で契約書なんて書くのか」
シュマが不思議そうに言うと、エルゼは「いや、普通は書きませんね」と答えた。
「それにこの契約書、ちょっと変わっています」
そんな話をしていると、森が抜けて東の国が見えてきた。




