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すぐさま「サイラル様」とレニは一礼をして、話し出す。
「旦那様とシルビア様は?」
「二人で話し合っている。でもすぐ終わると思う」
サイラルはそう言うとレニは再び一礼をして、エルゼとラコンテ達に「私はこれで」と言って屋敷に入って行った。彼らのためにお茶でも作るのだろう。
レニが去った後、サイラルはエルゼたちを見て「シルビアは決闘裁判に出ると決めたよ」と言って話し出した。
「ところでダグラス・ラテルナの情報は知っている?」
「国立騎士学校に通っていて、学年内だと一、二位を争うほどの強さだとか」
「ああ、新聞では彼の強さは誇張されて書かれているけど、かなり強いと言われている。すでに入学する前から剣の才能があると言われ、入学してからは上級生を打ち負かしていた。一部では学園で五本の指に入る実力とも言っている者もいるし、騎士として大成するだろうと言われている。ディルア家はシルビアを次期当主にしてダグラスは騎士学校を卒業したら婿にするつもりだったけど……」
「だったら騎士学校に行かないで、普通の貴族学校に行かせた方がよかったのでは?」
「言っただろう。ダグラスはすでに入学前から剣の才能があった。それに婿に行く運命が決まっているのだから、せめて行きたい学校に入学させたいとラテルナ家の当主が言って、それでダグラスは騎士学校に入学したんだ」
話しを聞いてラコンテは「だったら子供を婿にするって約束するなよ」と誰もが思う事を呟いた。
独り言だったがサイラルは気が付いて、理由を話す。
「飢饉になった時は二十年前だったんだ。ディルア家は領地をもらうか借金をする形で良いと言ったんだけど、ラテルナ家は強引に子供を嫁がせるって事を決めたんだ。お金も領地も渡したくなかったんだね。そうしてディルア家に初めての子、シルビアが生まれたんだけど、彼女の母親が二度と出産できない体になってしまったんだ。だけど当主は彼女と別れることなく、シルビアを次の当主にすると決めたんだ。ここでラテルナ家は焦ったんだ」
「……なるほど、ラテルナ家は男の子がディルア家の当主にすると考えていたんですね」
「その通り。ディルア家は女性も当主をやっている歴史もあったから、別にいいと思っていた。だけどラテルナ家は代々騎士を輩出する家だったから、女当主なんて考えた事も無かったんだ。約束を交わした時も恐らく嫁を出せばいいって思っていたんだと思う。現にラテルナ家には愛人の子である女の子を養子に迎えていた」
ことごとくラテルナ家の予想を覆しているな。ここまでくると可哀そうになってくる。
「自分たちが決めた約束だから覆せない。でもダグラスには剣の才能があったから、婿に出すのはもったいなかったんだよ。だからディルア家の当主に愛人勧めたり、シルビアの母親を『石女』って社交界で噂したり……」
「最悪ですね」
「だけどディルア家の当主はずっと奥さんを大事にしていたし、シルビアが十歳の時に亡くなってしまったけど、その後も後妻を迎えることは無かった。それにディルア家は社交界には出ないし、この家の悪口を言ったらうちの家が許さなかった」
「こうなると、この状況はダグラスの家にとってかなり好機でしょうね」
サイラルは頷く。
シルビアが幼馴染を突き飛ばしてケガしたと言う理由で婚約破棄して、新聞の力によってディルア家の評判を落としている。ラテルナ家はダグラスを婿に入れずに、騎士にすることが出来るから嬉しい限りだろう。
そしてサイラルは「我が家は決闘裁判に半分賛成です」と答えた。
「半分は反対って事でしょうか」
「決闘裁判で自分が無実だって表明するのは賛成です。だがそれにはダグラスとの決闘に勝たなければいけない。負ければシルビアが悪いと言う事になってしまう」
サイラルはエルゼをじっと見て口を開く。
「勝算はあるか?」
彼の問いにエルゼは「もちろん」と微笑んだ。
***
「これを質屋にお渡しする物ですね」
「はい」
父親との会話を終えて、シルビアは決闘裁判用の費用の捻出のため、質屋に売る物を持ってきてくれた。
また泣いたのか目を腫らしているが、シルビアの表情や声から吹っ切れている感じがある。
エルゼとラコンテは売る物は意外にも多く、華やかな服ばっかりだった。確認すると、ある事に気が付いた。
「あれ? この黄色のドレスと帽子とヒールってアリサ様も着てましたけど……」
エルゼがそう言うとシルビアは苦笑いをして「そうなんです」と言って話し出した。
「これ全部、ダグラス様の贈り物なんです。いつもアリサ様と同じものを贈るんです。そして次のデートに来ていくとおんなじ物をアリサ様も着ていて比べるんですよ。やっぱりアリサ様の方が垢ぬけて着こなしているとか言って」
「最低ですね」
「しかも私、高いヒールも履かないし、しかもこの靴は小さすぎるんです。多分、アリサ様の靴のサイズに合わせて贈ったんだと思います。だからきつくて痛くて、ヒールも履かないから足取りもフラフラになっちゃって、その上、エスコートもされなくて……、ダグラス様やアリサ様に笑われてしまいました」
「……最低の底以下ですね」
「そんな思い出しかないので、もうお金に変えちゃってください」
一切の未練もなくシルビアはにっこり笑って、ダグラスの贈り物をラコンテに預けた。




