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「何にもしないから、こんなにも噂が広がったんじゃない! 何にもしていないのに外に出れなくて監獄にいるみたいよ!」
「だって、外に出たら、お前が傷つくだろ」
「黙って部屋にいてもずっと傷つくわ!」
ぽろぽろとシルビアは涙して、さらに言う。
「ここの領地は王都から遠いのに我が領民にも噂が流れているのに気付いているし、友達からも私が何にも言わないから、疑われているのよ。言いたいことがいっぱいあるのに、黙って部屋に閉じこもって、心が不安で押しつぶされるよ!」
「……でも」
「家の恥だと思っているんですか、お父様! こんな噂を立てられて! 言ってましたものね! 火のない所に煙は立たぬって! 私の態度が悪かったんだって! 夫になるダグラス様を立てないからこんな事になったって!」
「それは……」
「言っておきますけど、ずっとダグラス様はアリサ様ばっかりエスコートして、私なんて眼中にありませんでした。デートの時だってアリサ様が居たり、ドタキャンされてばっかりでした。それにダグラス様はずっと私の事を『土臭い』ってばっかり言って、私のプレゼントなんて目の前で捨てたんですよ」
「……」
「こんな事までされて、今回の件。もう我慢できません!」
シルビアは涙を拭いて、「私は決闘裁判に出ます!」と言った。今までシルビアの話しに圧倒されていたディルア家の当主は「それはならん!」と怒鳴った。
「決闘裁判なんて、そんな、荒事とお前が……」
「だったら家を出ます!」
衝撃的な言葉にディルア家の当主は目を見開く。
新聞には【ディルア家の当主はシルビアを絶縁する】とか『シルビアを勘当して、養子を迎える』とか書いてあったが、当主の反応を見るに嘘のようだ。
「ちょっと、……待ってくれ、シルビア」
「もう無理です! 私、決闘裁判で戦います!」
「決闘だぞ! つまり剣で戦う……」
「あ、それは大丈夫です。代わりに戦う者を用意していますので」
ずっと黙っていたエルゼは持っていた刀である私を見せた。
「彼女には決闘裁判を起こすだけで、剣の精霊が戦います」
「え? 精霊?」
「はい。この刀と言う剣には精霊が付いて、真実を訴える弱き者を助ける為に姿を現すと言われています」
そしてエルゼは「そしてシルビアが潔白であると言う証拠は集められました」と言った。
「精霊を出し、彼女が潔白である証明できます」
***
エルゼとラコンテはディルア家の庭を見て回る。ディルア家の当主とサイラル、そしてシルビアの三人だけで話し合うためだ。
「綺麗ね。ものすごく丁寧に育ててある。しかもバラまで育てている。バラって育てるのは難しいって言うのに」
「裏の方には馬小屋や鶏があるんだな。よくある牧歌的な農業営む貴族の屋敷って感じだな。お! 番犬もいるんだな」
ラコンテが番犬のジョーを見つけて近づく。だがジョーは鼻を鳴らして離れていく。ピクシの民は動物に好かれやすい能力があるのだが、よく躾けられた番犬のジョーには効かないようだ。
番犬のジョーに嫌われたラコンテは残念そうな顔になって「エルゼ」と話しかけた。
「ここの当主、別にシルビアの事を嫌っていないみたいだな」
「当たり前です」
エルゼの代わりにエルゼを裏口に案内した中年女性がやってきた。そしてここに勤めている事を誇りに持っているかのように胸を張っていた。
そしてエルゼがシルビアと会うために渡したお金を返して、話し始めた。
「私はシルビア様の乳母も務めていたメイドのレニです。あの新聞で好き勝手に書かれているようですが、シルビア様の噂同様、旦那様の噂も大嘘です」
「どうやらそのようですね。最初に訪れた時は門前払いされてしまいましたから……」
「旦那様は言葉足らずなところがありますが、シルビア様を心から愛しています。この家から出さなかったのは、家の恥ではなくシルビア様が傷つくと思っての事です。ですが、シルビア様にはそれが辛かったと思います」
このレニと言うメイドはディルア家の当主とシルビアの気持ちを知って板挟みになっていたのだろう。とても複雑そうな顔で話していた。
そんな時、サイラルが外に出てきた。
「やあ、決闘令嬢。少し話さないか」




