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青年がエルゼの話しを賛成していることに驚きだ。と言うか当主も驚いており、「え? サイラル様?」と尋ねていた。
「叔父様、私に様をつけないでください」
「あなたは公爵家の者ですので」
どこまでも他人行儀なディルア家の当主に、サイラルと呼ばれた青年は少々不服そうな顔をする。
ためらいがちにラコンテは「どういうご関係でしょうか?」と聞くと、サイラルは口を開く。
「申し遅れました。ハフルト公爵の次男、サイラルとお申します。私の母がディルア家の当主の姉なんで、仕事上などで色々と交流があるんです」
「え? 公爵家の人、何ですか」
ラコンテもエルゼも絶句している。こんな場所で公爵が出てくるなんて思ってもみなかっただろう。
「驚くのも無理はありません。ディルア家は社交界に出ない条件で子爵の身分なんですが、この国の農産業を携わっている貴族や経営者達には絶大の信頼があるんです。我がハフルト家は代々王宮に飾る花を育て、王立植物園を営んでおりますが、植物の相談もディルア家の当主にしているんです」
「……もう子爵に収まっているのがおかしいと思います」
「実際にそうだと思います。だけど貴族の世界は政が関わってきます。どうしても社交界に出ないとやっぱり身分は上がらないんですよ」
するとディルア家の当主は「身分なんて関係ない」と腕組みして言う。その姿は伝統を重んじて、時代に流されない頑固な人にしか見えない。
それにサイラルは頭を抱えて「だからラテルナ家とルトリルの新聞屋になめられるんだ」と言い、説明をする。
「こんな感じなのでディルア家の功績を低く見る者が多いです。特に王都近くにいる貴族達は、ほとんどの者がそう思っています。飢饉であんなにお世話になったラテルナ家なんて子爵に支援されて感謝しなければいけないのは嫌だ、田舎に息子が婿に行かされて可哀そうだ、騎士として活躍できるのになんで農業しなきゃいけないんだと嘆いています。飢饉になるのだから贅沢は控えろと忠告したのに、何もせず今まで通り贅沢に過ごして対策していなかったから自業自得なのに」
「こんな感じですと、アリサ様の事件はチャンスと考えますね」
「そうですね。実はアリサの事件を民衆に広げているのは、ラテルナ伯爵家が支援しているおかげなんです。これでシルビアとの婚約破棄する理由が出来ますからね」
アリサの事件と聞いて、再びシルビアの目に涙が浮かぶ。
ここでラコンテがエルゼに「あのさ」と言って小さな声で話し出した。
「ここまで大事なのに国はこの事件を調べないのか?」
「もちろん調べているわ。だけど証拠不十分って事でシルビアは犯人では無いって発表しているんだけど」
エルゼとラコンテの話しを聞いて、サイラルは「これもアリサはこう言っている」と言って話し出した。
「シルビアは巧妙に証拠を隠して突き落としたんだ。だから性悪な女だと」
「……実際にやっていないのに」
「国も調べて発表する方法したが、こんなにも混乱してしまいました。かといって国王が介入するのも難しいです。貴族同士の諍いだったら、国王は口出しできます。だけど今回は新聞で誤った情報が対処不能なくらい貴族どころか民衆にまで広がっているし、やっぱり当人が前に出て自分はやっていないと言った方が……」
サイラルの言葉に「駄目だ!」とディルア家の当主が怒鳴る。
「そんなシルビアが辱めるような行為など俺が許さん! そんな決闘裁判に出るなんて! だったら何もしない方が……」
「いい加減にして!」
シルビアが立ち上がって怒鳴った。




