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「初めまして決闘令嬢、エルゼです」
「ラコンテです」
二人は立ち上がり、入ってきたディルア家の当主とシルビア、見知らぬ青年に自己紹介して頭を下げる。
これにディルア家の当主は「お前達か!」と言って怒りを露わにした。
「お前たちが、シルビアをそそのかして決闘裁判なんて馬鹿なことを起こそうとしたな」
「ええ、そうです」
澄ました顔でエルゼが答えるので、更に当主の怒りに油を注ぎ「貴様!」と掴みかかろうとした。それを「お父様」と言ってシルビアが止めた。
「大体、お前もなんでこんなことをしたんだ! シルビア! 何もしないで部屋で大人しくしていろと伝えたはずだ!」
「だって、私はやっていないのに、誰も信じてくれないから……」
そう言ってシルビアは泣き出した。今まで我慢してきたものが溢れてしまったのだろう。すると先日エルゼを裏口に案内したメイドの女性がやってきて「シルビア様」と言って慰めて、「さあ、一度部屋を離れましょう」と言った。
でもシルビアは「大丈夫だから」と言って断った。
「フン。重大な事は当主が決めるんだぞ! それなのに、シルビア……」
「お父様だって、私がやってもいない事件に何も手を打っていないじゃないですか」
「打ってはある。国に小麦粉を渡さない」
当主の言葉に……兵糧攻めか? と思った。
ちなみに兵糧攻めとは私がいた国で行われた戦術である。兵士たちが立てこもっている城に一切、食料を持ち込ませないようにして飢えさせると言う残酷なものだ。
でもこの国は戦時中ではないし、立てこもっている敵もいない。部屋から出れないのはシルビアのみである。
自信を持ってディルア家の当主が答えたが、エルゼもラコンテもキョトンとしている。
「えーっと、小麦粉を国に渡さないって言うのは、どういう事でしょうか?」
「この騒動を国で鎮静化させないと、税で納める小麦粉を渡さないと言う事だ」
ある意味、ディルア家の当主は兵糧攻めをしようとしているって事だろう。それにダグラスとシルビアの結婚は王令だから、それに背いたりするとラテルナ家は色々と不味い事になるだろう。
当主の解決策を聞いてエルゼは小さな声で「なるほど」と納得するが、眉間にしわを入れてこめかみを人差し指で抑えて難しい顔をしている。
そして「難しいと思います」と答えた。
「何でだ!」
「この混乱を起こしているのは平民がよく購読している新聞なんです。王様が『嘘新聞を止めろ』って言って、新聞を止めたら平民たちは横暴だと思うでしょう。諫めることくらいはするでしょうけど、きっぱりとこの新聞は嘘だと決めつけるのは難しいです。更にもし、あなたが騒動を納めないと小麦を納めないと新聞記者に知れたら、【小麦を盾に国王に脅しをかけた】とディルア家を悪く言う記事が書かれると思います」
「だが……」
「それにあなたはシルビア様が婿を取らなくても、別の人間を養子にして、その方に次の当主にする手筈を整えていますよね」
チラッと見知らぬ青年を見る。精練して綺麗に整えられたスーツを着こなす王都の若者で、ディルア家の領地の人間には見えない。
エルゼを見るとニコッと青年は微笑んだ。
「噂ではシルビア様を勘当させると言われていますし」
「そんなことをしない! 貴様、よくもそんな嘘を言ってシルビアをそそのかしたな!」
ディルア家の当主がエルゼの言葉に激高して、再び掴みかかろうとした時、青年が「少々、落ち着きましょう」と言って、話し出した。
「エルゼ様、あなたの考えは私も概ね賛成です。ですが我々の話しも聞いてください」




