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 翌日、エルゼはディルア家の屋敷に向かう事にした。もちろん、憂鬱そうなラコンテも連れて。


「私は一人でも大丈夫だよ」

「俺が不安なの!」


 今回は母親に言われずに、ラコンテは付き添いを申し出た。なんだかんだ言って、エルゼが心配なのだろう。両親失って自暴自棄のエルゼにラコンテの両親以外で一番、寄り添った奴だからな。

 今回は時間指定されているため馬車で行こうとラコンテは言い、エルゼも賛同した。


「大丈夫なのか?」

「駄目でもシルビア様を説得させて強行するわ」

「うーん、強引」


 馬車の窓を見ながらエルゼは呟く。


「何もしなければ状況は変わらないわ。彼女は悪いことしていないのに、後ろ指さされると言われてしまうのよ。その運命を受け入れるって選択をしてもいいけど、そのまま流されて後悔し続けるのは嫌でしょう」

「……それは自分自身にも言っている?」


 上目遣いにラコンテは聞く。エルゼはどうかしらと言った表情になった。

 ふとラコンテが車窓を見ると見事な小麦畑を広がっていて「うわ、綺麗だな」と呟いた。青々と広がる小麦畑で、誰もがため息をついてしまう。私もエルゼもこの小麦畑を初めて見た時は感動していた。


「ここってシルビア嬢の家の小麦畑なんだろ。すごくきれいだ」

「ディルア家は割と長い歴史を持った家なのよ。そして国王の食糧庫の一つと言われているの。前の飢饉の時は予兆に気が付いて、すぐに対策を打ったから他の領地も支援が出来たの」

「何で、そんな家が子爵なんだよ。支援もしたんだから、伯爵くらいの爵位くらいはもらえるだろ」

「ここの当主は代々政治や社交界について興味が無いようなの。それからこの家の家訓で【作物は一瞬でも目を離してはいけない】って言うのがあるみたい。天候や土や作物の状態を見ないと、あっという間に駄目になってしまう。だから領地の農園は責任を持って代々当主が監督しているの。それに爵位はそのままでいいから、社交界には出ないって王様に直々言ったみたい」

「うーん、時代遅れと言うか昔ながらの頑固な職人みたいだな、ディルア家の当主は。そしてその恩を忘れたラテルナ家。でも婿になるダグラスも可哀そうだな。王立の騎士学校に行っているのに、将来は農具を振るう事になるから」

「確かにそう考えると可哀そうね。しかも彼は王都育ち。田舎に憧れを持っている人間じゃないと、ここの良さは分からないでしょうね」


 今までシルビアの冤罪について考えていたけど、ダグラスも選択肢のない人生である。

そう言えば新聞を解説している男もシルビアとの結婚は不当な取引だったと言っていた。私から見れば不当ではないけどダグラスから見たら生まれた瞬間から、こんな時代遅れの田舎の領地に行くのは理不尽に感じるだろう。


 ダグラスの身の上を憐れんでいると、小麦畑の丘の上にディルア家の屋敷が見えてきた。




***

 ディルア家の屋敷に到着して、玄関で名前を言うとすぐに通してくれた。もちろん歓迎するような雰囲気ではない。


 応接間に案内されてフカフカなソファに座ってエルゼとラコンテは待った。一応、紅茶も出してもらい、エルゼは優雅に飲む。

一方、ラコンテも応接間の窓から見える景色に「いい庭だなあ」と呟く。

 長く使い古された農具や綺麗に整えられた花や木々。遠くには自分の家が育てている小麦畑が見えた。

先祖代々住み続けてきた場所であり、物も植物も一つ一つに歴史を持ってあるように思えてきた。

 ピクシの民のラコンテには一番縁のない場所とも言える。


 しばらくしていると応接間に当主とシルビア、そして知らない青年が入ってきた。





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