第4話 職&宿ゲット!
「えぇ~!? ここが犯罪者の隠れ蓑ですってぇ~!? あはは、そんなわけないじゃな~い!」
ソフィーと名乗った美人店主は、目尻に涙を浮かべて思いっきり笑う。
「いや、でもこの辺すごいじゃないですか」
「あはは、荒れてるものね~」
笑うたび、彼女の長い栗色のゆるふわパーマがふわりと揺れる。
すると、彼女の体に染み付いたコーヒーの香りも柔らかく漂ってくる。
笑顔のよく似合う女性。
薄茶色の給仕服に、真っ白なエプロンがとてもよく似合っている。
所作も落ち着いていて、彼女のおっとりとした優しい性格が表れている。
なんだろう、この理想のお姉さん感。
さっきまでの無能感はすっかりと影を潜めていた。
「なんでこんなとこで喫茶店を?」
めちゃ気になる。
「ここくらいしか借りられるとこなかったのよね~」
ああ、お金的な問題?
「お店って始めてどれくらいなんですか?」
「三ヶ月よ~」
「オープンしたてなんだ……。でも、それでお客さんが何日も来てないってのは……」
味が壊滅的に不味いのでは?
そんな不安が頭をよぎる。
「そうなのよね~……。私、、誰かの『居場所』になれるお店が作りたかったんだけど、現実はなかなかね~……」
誰かの居場所……。
僕の日本での居場所は、ファミリーレストラン『クトルゥーフ駒込店』だった。
あそこがなかったら、僕は……。
「とても素敵だと思います。誰かの『居場所』。僕もそうやって救われてたことがあるんで、喫茶店に」
「そうなの~? じゃあ、ぜひウチの常連様になってもらわなくちゃ~」
「あ、その件なんですけど……実は僕らお金なくて。で、表に『アルバイト募集』って張り紙あったじゃないですか」
「アルバイト?」
「にゃ。『アルバイト募集中。年齢、種族、種族、犯罪歴問わず。本格コーヒーが自慢のお店です。時給応相談』」
「あ~、書いてたかも~。誰も来ないからすっかり忘れてたわ~」
忘れてたんだ……。
っていうか誰も来ないんだ……。
このお店、大丈夫なんだろうか……。
「で、僕らこの街に来たばかりで泊まる場所も仕事もないんです。よかったらコーヒーを飲ませてもらう代わりに、ここで働かせてもらえませんか?」
気がついたら口から出ていた。
最初は、まずコーヒーを飲んでから代金のことはどうにかしようと思ってたんだけど……。
なんか気が抜けちゃったな、この人見てると。
「キミたちは……一人と一匹? 両方ともバイト希望?」
「はい。こっちはロボットで、僕の友達のニャモです」
「ニャモと申しますにゃ! 御主人様に使える配膳ロボットなのですにゃ! よろしくですにゃ!」
「あら~、ニャモちゃん。ロボットなのに礼儀正しいのね~」
「喫茶店での実務経験ありですにゃ! 即戦力ですにゃ!」
「そうなのね~、頼もしいわ~」
ソフィー、すんなりとロボットを受け入れてるなぁ。
こっちでは普通なのか、ロボットって?
「あっ、でもお給料が……」
「大丈夫です。お金のことなら自分たちでなんとかします。というか流行らせます、このお店! 僕たちの力で! だからここで働かせてください!」
おぉ……なんかスラスラ口から出てくる……。
そうだな、このお店、いいもんな……。
温かな内装、優しそうな店主、そしてなにより。
このコーヒーの香り。
うん、僕はこのお店に惹かれたのかもしれない。
「ん~……実は、お店もう畳もうかと思ってたんだけどね~……」
えっ!?
「ダメですよ、こんな雰囲気のいいお店を!」
「そう~? 初めて褒められたわ~、ありがとう」
「にゃ。お店を辞めたらソフィーはどうするにゃ?」
「このお店出す時に借金しちゃったからね~。どこかに売り飛ばされるかも~、な~んて……」
「ダメです!」
また口から言葉が出ていた。
「こんなにいいお店、絶対にやめちゃダメです! 僕は毎日喫茶店に通ってコーヒーを飲んでたんです! だから……」
言葉が溢れてくる。
「へぇ……キミはそういう『居場所』を持ってたのね~……」
ソフィーの笑顔の目の奥が、少し細くなって僕を見つける。
それから、ソフィーは深くため息をついた後。
諦めたかのように呟いた。
「わかったわ……。喫茶店を愛する者同士、ここは一つ助け合いましょう。でも、本当にお給料は出してあげられないのよ? 床下の備蓄庫に泊まることは出来るし、ご飯も賄いで食べさせてあげられるけど……。ほんとうにそれでいい?」
「いいです! それでお願いします!」
「よろしくお願いしますにゃ!」
やった! 勢いで言ってみたら家と職をゲットだ!
「ふふっ……年下の可愛い男の子くんに押し切られちゃった~。それじゃ、ニャモちゃんと、え~っと……」
「ツカサです」
「ツカサくん」
にっこりと笑うソフィー。
「じゃ~、お店を繁盛させて、ここもキミたちの『居場所』になれるように頑張るわね~」
「はい! お願いします!」
こうして。
僕らは成り行きでここで働くことになった。
潰れかけの喫茶店『喫茶アンタルテ』。
素敵な雰囲気の喫茶店。
優しい店主さん。
うん、繁盛させて恩返し。
いいね。やれそうな気がする。
僕と、ニャモとでなら。