第28話 僕たちの居場所
僕とニャモは背中を合わせ、くるくると回る。
噴水の飛沫に照らされた光がストロボのように僕らを照らす。
僕は「たんたたんっ」と、ニャモの収納空間から現れたパンケーキを審査員たちの前に並べる。
それから次々に取り出したるトッピングを各皿にふりかけていく。
まずは、はちみつシロップ。
次に、四角く切った常温バター。
そして、丸~いアイスクリーム。
それから、ふわっふわのホイップクリーム。
最後に。
「おお~!」
集まった観衆たちのどよめきの声。
甘~いお砂糖の海に、赤と紫のベリーを舞い散らせる。
「へぇ、この蕩けるような匂いの中に酸味の効いたベリーを乗せる。ふぅん、なかなかわかってんじゃん、『味覚の乗算』ってやつを」
これまで無言を貫いてニタニタ笑っていた審査員の緑髪少年が、急にグルメ漫画みたいな解説をしだす。……何者?
まぁいい。それより、今は仕上げだ。
「おっと、皆様! 僕はさっき『残り四段階のトッピングがある』と言いましたが、忘れてました! もうひとつあります! ってことで……これがほんとにほんとの、最後の仕上げです!」
ぱちんっ☆
僕が指を鳴らすと、ニャモの収納空間から袋がひとつすぽっと飛び出してくる。
それをパシッとキャッチした僕は、審査員たちの前に並んだパンケーキの上にサラサラと中身をふりかけていく。
「おお……! ありゃ雪か!?」
「ホワイトパウダー? 小麦じゃなさそうだが……」
「ああ、このたまんねぇ香りの正体は何なんだよ!?」
粉糖。
つまりは粉状の砂糖。
ほら、シュークリームの上とかにかかってる白いやつ。
それを、色鮮やかなベリーの上に華麗に散らしていく。
「まぁ、なんて素敵ィ~! いぃ~! 春なのに冬の気分を味わえるだなんて! ビューティフォー! フォォォ!」
審査員の成金おばさんもご満悦のご様子。っていうか様子大丈夫……?
ま、そういう港区界隈みたいな人ってさ、よくインスタでこういうの載せてるじゃん。
きっと見事ツボにハマったのだろう。
「うぉぉぉ! なんだかわからん! わからんが食べる前から腹が鳴ってたまらぁぁぁん! さっきステーキを食ったばかりだというのに! きゅ~ごろろ……!」
脳筋ヒゲ男もフォークとナイフを手に吠えてる。そして泣いてる。怖い。うん、いるもんね、こういう体型で甘党のおじさん……。
「これはこれは。さぁて、一体どんな原材料、発想、技法で作ったんだろうねぇ? と~っても気になるな♡」
緑髪の半ズボン少年の含みをもたせた笑顔が怖い。
なんにしろ審査員三人、それぞれ好意的な反応だ。
よし! それじゃあ食してもらいましょうか!
この世界初の、パンケーキを!
「さぁ、喫茶アンタルテのオリジナルメニュー『特製パンケーキ・クトゥル』が完成いたしました! どうぞ、存分にお召し上がりください!」
結果。
「美味すぎるだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!」
脳筋ヒゲ男の咆哮が天を裂く。その咆哮は、天界の最奥の宮殿『白深雲ノ奥殿』にまで届いたと後に記される。
「あぁん……! ダメぇ……ん! こんな味覚ぅ耐えられない抗えなぁ~い……! しかも、このコーヒーもまるで天上の調……! 私、あんっ! あぁぁぁぁん! 昇っ! 天ッ! ですわ~!」
成金女はきっちりコーヒーまで飲み干し、パタリとイッてしまう。
そして、最後の審査員。緑髪の少年は──。
「うん、これは甜菜だねっ♡」
一発でパンケーキの原材料が甜菜であることを見抜いた。
おぇ……? マジで何者?
しかも続けてグルメ漫画の如きご高説を延々と垂れてくれる。
「いやぁ~、まさかあのクズ野菜でおなじみ甜菜の味を、ここまで濃縮するとはね~♡ もう見事としか言いようがない! 大好き! このパン生地、アイス、ホイップクリーム、それにこのホワイトパウダー。すべてに甜菜が使われている。ベリーの渋み、色味、食感もアクセントとして完璧! まさに芸術、と言っていい一品だね♡」
おぉ……何者かは知らないけど、さすが審査員に選ばれるだけのことはあるってとこか。
どうも解説ありがとうと言っておこう。
「それに! 大事なのはこのコーヒーだよ! この強烈なパンケーキの味と見事にバランスの取れたコーヒーの爽やかさとコク! これを淹れたマスターの腕も相当だね! きっと、首都レンドルフの一等地にお店を出してもやっていけるんじゃないかな♡」
お、ソフィーのコーヒーもちゃんと評価! うれしいね!
さ、ともあれこれで審査員は三人とも完全攻略。
審査員たちも。ここまでのリアクションを見せた後にサジを勝たせたりしたら、それぞれの面子に関わるに違いない。
……彼らがそこまでの恥知らずじゃないことを祈るばかりだ。
「……うん」
少年は満足げに呟くと、ゆっくりと立ち上がった。
「農耕ギルド長、そしてエルフ王国エジリンベルグの王家末席が一人、モリゾーノ・ハヤシ・キーギが断言しよう!」
え、エルフ……?
お、王家……?
この少年が?
急にファンタジー要素ぶっこまれてきたからちょっとびっくり。
キーギ少年はにやりと笑い、高らかに宣言する。
「このパンケーキなる代物は──世界を変える味であると!」
その言葉を受け、観衆が沸く。
「世界を変えるだって!?」
「つ~か、王子だったのか、あの人!?」
「そんな人が保証するようじゃ、マジの美味さなんだろ!」
「おい! 俺にも食わせてくれ! その世界を変える味を!」
「どこに行けば食えるんだよ!?」
「スラムだってよ! スラム!」
「スラムの喫茶『アンタルテ』だって!」
「ま~たスラムから新たな才能が出てきたのか!」
さっきまでスラムを馬鹿にしてた人たちも目の色変えて食いついてくる。
まったく……お偉いさんが保証してくれたからって現金なもんだよな。
「そして、私はこの勝負、喫茶『アンタルテ』へと投票する!」
キーギが僕らの勝ちを記す白旗を上げる。
同時に、脳筋と成金も白旗を掲げた。
「こんなの認めん……認めんぞぉぉぉぉ!」
サジがわなわなと震える。
「そうだ……こんなの不正……お前らが絶対に不正したに決まって……ぶべっ!」
顔面蒼白で詰め寄ってこようとしたサジが、押しよせてきた観衆たちに蹴り飛ばされ、人垣の外へと転がっていく。
わお、なんかパニックになってない?
僕は振り向き、みんなの顔を見る。
ヨル。
ソフィー。
ニャモ。
みんな笑顔だ。
急に喜びが胸に湧き上がってくる。
「みんな……勝ったよ!」
「勝ったのだ! さすがツカサ、我が主なのだ!」
「御主人様の力をもってすれば当然の結果ですのにゃ!」
「うふふ~、サジくんいい気味ね~。さぁ、これまで散々いちゃもん付けてきたお返し、どう倍返しさせてもらおうかしら~?」
みんなを見てたら実感が湧いてくる。
これから先も喫茶『アンタルテ』は無事に存続できるってことが!
ってことで!
「一旦お店に避難~!」
めっちゃ人が押し寄せてきてるって! 巻き込まれる前に退散~!
僕たちは駆け出した。
これから先も、アンタルテの未来は、きっと明るく拓けている。
だって僕とニャモと。
ヨルとソフィーがいるんだから。
そう。
ここが、僕達の新しい居場所なんだから。
読んでいただいてありがとうございます!
配膳ロボ&異世界、ずっと書いてみたかったので楽しく書かせていただきました。
けど、すみません……浮かんでしまったんです……次作の構想が……。
次は異世界転生もので、二つのチート能力を持つ主人公の話です。
1ヶ月後くらいには連載をスタートできればと思います。
よってこの作品はここで終了とさせてください。
最後までお付き合いいただき、ほんとうにありがとうございました!
よければぜひまた次作で……!




