第2話 異世界で喫茶店捜し
ネコ型配膳ロボ「ニャモ」は、異世界の街をズンズンと進んでく。
(ん~、変な感じ)
周りの景色は完全に異世界。
さっきいた噴水前広場では、たくさんの異国人や亜人が行き交い、
露店で活気盛んに値段交渉し、
嗅いだことのないスパイスや食べ物の匂いが漂いまくってた。
そんな中を、ファミレスにいる「ニャビィ」が普通にぶぃ~んと移動してる。
(ザ・シュールだな……)
そのシュールな光景を見てると、なんだか異世界とか、これからの人生とか、全部どうでもよく思えてくる。
前を行くニャモのお尻には、ファミレスのと同じ場所に小さい傷がある。
これは、やはり同じニャモなんだ。
ファミリーレストラン『クトゥルーフ駒込店』で僕の接客をしてくれてたネコ型配膳ロボット。
ニャモなんだ。
(ロボットだけど……知らないところで一人っきりじゃない、ってのはちょっと心強いかも……)
次の瞬間さっそく心細くなった。
ニャモが表通りから脇に逸れ、どんどん狭い路地裏へと足を踏み入れていくからだ。
「おい……? ニャモ……?」
裏道に入ると、街並みは一変した。
陰気感はんぱない。
壁にもたれた汚れた男たち。
そいつらが、酒瓶を傾けながらナイフをチラチラ見せる。
ひぃ~……。
腐敗した生ゴミとヘドロの臭い。
べとっとした空気が肺に侵入してくる。
おぅえっ。
「ニャモ? 本当にこっちで合ってる?」
急にぐりんっと振り返ったニャモが明るい声で答える。
「順調に近づいてますにゃ! 大船に乗った気持ちで着いてきてくださいにゃ!」
そう言った直後、物陰から典型的なゴロツキが数人飛び出してきた。
「オラァ! そこのガキ! てめぇが着てるその変わった服を寄越しやが……ぶべぇ!?」
そして、ゴロツキたちは一瞬にしてニャモにふっとばされた。
(え……? 合気道……?)
さらに。
きら~ん☆ ฅ(=✧ω✧=)ฅ
と、ニャモの目が光って……。
ビビビビビ~!
目からビームが発射された。
ビームはゴロツキの体の周りを「ジジジ~」っと縁取ると、
ポロっ……ガラガラガラ~ン。
ゴロツキの背後のレンガの壁が、ボロボロと崩れ落ちた。
(…………は?)
「ひ……ひぃぃぃぃ! なんなんだこいつぅぅぅぅ!」
ビビりすぎて漏らした仲間を抱え、ゴロツキたちは走り去っていく。
「にゃっはっは~! 御主人様にケンカ売るなんて百年早いのにゃ~! おととい来やがれなのにゃ! でも本当に来たら今度は地獄の業火で焼き尽くすのにゃ~!」
「……いや、ニャモ? 物騒なのはやめてね? 壁も壊さないで? NOトラブル。平穏に行こう。っていうかニャモって……何者なの?」
「にゃ! ニャモは御主人様に仕える給仕ですにゃ」
給仕……。
いやまぁそりゃそうなんだけど、そういうことじゃなくて……。
ちらっ。
ディスプレイに浮かぶニャモの「ฅ^•ﻌ•^ฅ」なニコニコ顔を見てると、なんだか肩の力が抜けてくる。はぁ……。
「まぁ、いいや。うん、そうだね……ニャモ! 守ってくれてありがとう!」
「にゃにゃにゃ~。御主人様に褒めてもらえて嬉しいですにゃ~」
なんと。
ニャモは溶けたロウソクのようにふにゃふにゃになった。
え、どんな材質なんだこれ……?
喋れて、道案内できて、体当たりが強くて、目からビームを出せる配膳ロボ……。
うん……もうわかんないや……。ははっ……。
とにかく早くコーヒーで一服。
そしてゆっくりと頭を整理したい……。
そうして、僕はニャモの後をついていき、裏道をぐねぐね何度も曲がって、ようやく。
ようやく!
たどり着いた。
喫茶『アンタルテ』。
レンガの壁に蔦がいっぱい這ってる。
雰囲気のいい喫茶店。
薄汚れたスラム街には不釣り合いすぎる趣。
いい感じである。
味も期待できそう。
「よさそうだね、ニャモ」
ニャモは「どやっ!」とばかりに得意げに胸を張る。
うむ、褒めてつかわそう。よしよし。なでなで。ぐりぐり。
撫でられたニャモは嬉しそうに耳をピクピクする。
(うおぉ……かわいいな……)
こうして異世界の喫茶店に無事たどり着いた僕は、ロボの頭をうりうり撫でるという、端から見るとなかなかシュールな行動にしばしふけっていた。