099 転校生と新たな関係
寒さが残る春空の下、バスが止まった。
わらわらと生徒が吐き出されて、校門をくぐり学校への道を歩いていく。
あなたは後ろを振り返り、発車したバスを見送る。
「――――――よしっ」
小さく呟いて、気合を入れた。
それから鞄をかけ直し、生徒たちに混じって歩き始める。
親の転勤による引っ越しで、あなたは春からこの街へとやってきた。
元々住んでいた家は学校から近く、通学のために飛行機を使うこともなかったために、あなたは愛機を持っていなかった。
クラスメイトに泣く泣く別れを告げて、あなたは高等部二年への進級を境に、第五統合学校へ転校することになったのである。
昇降口から見える階段は、前の学校と正反対の場所にあった。
下見や面談で来たことはあるものの、慣れない景色に気後れしてしまう。
担任の教師には前もって、登校したら職員室へ来るようにと言われていたが、あなたは緊張で胃がきりきりと痛かった。
……いきなり職員室のドアをノックするなんて、今は絶対無理。
とりあえず気を落ち着かせようと、トイレを探す。
人の多いところを避けながら歩いていると、途中で一組のカップルとすれ違った。
仲睦まじく歩く様子は本当に幸せそうで、自分もこんな青春を送るのだろうか――――とあなたは新生活に思いを馳せる。
それにしても彼女の子、すごい美人さんだったなあ……肌も髪も真っ白で、目は真っ青で、まるで天使みたいだった。
そんなことを考えていたら、あなたは見事に道に迷ってしまった。
落ち着け、落ち着けっ。
ばくばくする胸を押さえて、あなたは腕時計から目を離す。
予鈴まではあと五分。
早く職員室へ行かなければ、転校初日から目をつけられてしまう。
内申……はどうだかわからないけど、もしかしたら響いてしまうかも。
じわ、と手汗をかきながら、あなたは歩き続けていた。
トイレどころか、校内案内図すら見つからない。
焦りと時間だけが積もっていく。
相変わらず胃も痛いままで。
「…………はぁ……」
鞄がとさりと、床に落ちた。
ため息をついて、ひんやり冷たい壁に背中を預ける。
重力に任せてずるずるしゃがみ込もうとした、ちょうどその時。
「…………もしかして迷子?」
突然隣で声がして、あなたはびくりと飛び退いた。
見れば、んー? と目を細めて、ショートカットの女子が顔を覗き込んでいる。
…………助かった。びっくりしたけど……。
胸を押さえつつ、あなたは首を縦に振る。
「……てか胸元のそれ、同じ学年の色じゃん! てことは君がそうなんだ、うちのクラスに来る転校生っ!」
えっ――と困惑していると、女子は自分のリボンを揺らし、赤は二年だから! と笑った。
2-Bでしょ? と聞かれて、あなたは再び頷いた。
「あたしは賀島エナ。これからよろしく! あ、行き先は職員室だよね? 案内してあげる!」
勢いに押されたあなたは、――ありがとう、と立ち上がる。
エナと名乗った少女はたたっと走り、手をぶんぶん振りながら、階段の前で早く早くと跳ねていた。
「単羽連邦から引っ越してきたの? 遠かったでしょ、大変だったねぇ」
小走りに進みながら、エナの話は止まらない。
彼女の人となりもあり、あなたはすぐに打ち解けて、個人情報をべらべらと話していた。
自己紹介で話そうと思っていたことではあるけど。
「なるほど、どうりで綺麗な顔立ちしてるんだ。サムライとかヤマトナデシコとか、単羽の人ってしゅっとしたイメージあるもんね!」
いやいや綺麗だなんて、と手を振るあなた。
へへっとエナは笑って、でもね――と続ける。
「うちのクラスにもめっちゃ顔がいい子いるんだよ。もちろん性格もいいんだけどさ、肌も真っ白、髪も真っ白の天使みたいな女の子がね!」
「……あ、その人さっき見かけたかもだ。多分彼氏さんといた――」
「まーたあの二人いちゃいちゃしてたか……そうそう、その子だよ。まぁあの二人は自分の飛行機持ってるのに、一日おきに相乗り登校してくるほどの名物バカップルだし。この学校の人、全員が知ってるけど」
全員……。何があったのかは聞かないでおいた。
「おめでとう、そのバカップルもクラスメイトだよ。ただあまり見すぎると糖分過多でのぼせるから気をつけてね!」
「そんなに……?」
「そうそう……はいここ!」
偏ったイントロダクションを聞いていたら、あっという間に職員室へ着いていた。
扉の前に生徒が二人、ちょうどノックをしようとしている。
あの二人も同じクラスだ、紹介するね――とエナはぱたぱた駆けていく。
「カラと有馬、なにしてんのー!」
「おっ……おお、賀島か。四重の手伝いだよ」
「……ちょっと担任に呼ばれまして。転校生が来ていないと」
「あ、それならちょうどよかった! 迷ってたから案内してたんだよ。ほらこの子!」
あなたは前に押し出され、どうもと軽く頭を下げる。
エナが後ろから二人を紹介した。
「女子のほうが四重カラ。一年の時はクラス委員だったんだよ! で、男子は有馬ティト」
俺の説明ないのかよ、とティトが苦笑いをする。
「それで二人とも、こちらは単羽連邦から来た転校生の、――――あ。そういえば名前聞いてなかった」
ティトとカラがくりと脱力する。
あなたは笑って、自分の名前を伝えた。
よろしく、と一人ずつ握手をする。
「じゃあこれからよろしくってことで! ……で、それはそうとさ」
エナが表情がころりと変わる。
じぃ、とカラを見て、ティトを見た。
あなたは首を傾げて、その視線を追う。
お似合いだとは思うけど…………。
「…………なんで二人は手を繋いでるの」
「「あっ」」
「え、二人はカップルじゃないんだ」
反応を見て初めて、あなたは勘違いに気づく。
二人につかつかと詰め寄るエナを見て、思わずくすっと笑いが漏れた。
いつの間にか、緊張もだいぶ和らいでいて。
――これから楽しくなりそうだな、なんて思った。
(おしまい)
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