095 王子と完璧美少女
普段あまり人気のない校舎裏は、体育館裏や中庭と並び告白スポットとして有名である。
しかし今日は噂を聞きつけた生徒たちが集まって、茂みの影から木の裏から、ぎらぎらした目を光らせていた。
皆の視線が集まる、その一点。
背後に取り巻きを控えさせ、胸を張る「王子」の前に、一人の少女が立っている。
人呼んで「完璧美少女」、天乃セキレイ。
容姿端麗、成績優秀、温柔敦煌と、まるで理想の塊のごとく評される白髪碧眼の少女。
真っすぐに伸びた背筋の上で、長い白髪がさらさらと揺れていた。
ひゅうう、と風が去る。
しん、と周りが静かになって。
王子こと、大吉キリが口を開く。
「――――天乃くん」
深い青色の瞳が、真っすぐに王子を見据えた。
「君が欲しい。僕の恋人になってくれ」
すっと手が伸ばされる。
まるでダンスを誘うかのような優雅な所作に、覗き見る女子生徒が頬を染める。
美男美女が織りなすその景色は、ミュージカルの一部と言われても思わず信じてしまうほどに完成されていた。
ただ一つ、台本と異なっているのは。
「――ごめんなさい。大吉くんの想いには応えられないわ」
――――王子が振られるという点である。
ぺこり、とセキレイは頭を下げた。
周囲がざわ、と騒がしくなる。
あの王子が振られた!? と、もはや隠れることも忘れた生徒たちがあちらこちらで囁きを交わす。
王子はそのまま、しばらく固まっていた。
それからはっと気を取り直し、伸ばした手を戻す。
「……理由を聞いてもいいかい。僕に何か、至らない所があるのなら――――」
「貴方自身に原因はないわよ。ただ、その。私には」
尻すぼみに小さくなるセキレイの声。
それを聞いて、王子の眉がくたりと下がる。
真面目な表情が緩み、諦めたように笑みを浮かべた。
「……すでに好きな人が、いると言うことか」
「ちょっ…………!?」
「それでは仕方がないな。潔く引くとしよう」
あわてて周りを見渡すセキレイ。
どうやら生徒たちまでは聞こえていなかったようで、視線は踵を返した王子に向けられていた。
はぁ、と安堵のため息をつく彼女に、王子は小さく言葉を投げる。
「……天乃くんが、幸せであることを祈ってるよ」
ざっざっ、と足音が去っていく。
取り巻きの女子たちがわら、と王子を囲んだ。
野次馬の生徒たちも立ち上がって、放課後の一大イベントが終わりの雰囲気を漂わせ始めた、その時であった。
……シコくん、どこへ行くつもりだい?
そんな声が微かに聞こえて、セキレイが振り返ると。
王子の側を離れ、ずんずんと大股で歩いてくる女子が一人。
ポニーテールをぶんぶん揺らして、大間シコが鼻息荒く、セキレイの前に立ちはだかった。
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