092 自分勝手と美しさ
どとん、と低い鳴動がお腹に響いて、微かな紅の弾が上昇していく。
ふっと消えたと思った瞬間、ばあっと強い色彩が視界を塗り潰した。
鋭く爽やかな光が連続で弾けて、これでもか、これでもかとばかりに心を揺らす。
冬の澄んだ空気のせいか、それは目に入ってきそうなほどに近く感じた。
それこそ、自分の胸から打ち上がっているかのように。
花火玉の種類を変えるためか、一旦打ち上げが止まる。夜空には煙が薄くなびいて、皆は余韻を感じながら次はまだかとそれを見つめる。
そんな中で、イスカはちらりと側を見た。
ふわりと浮かぶように、白い髪が揺れている。
……いつ、言うのがいいのだろう。
イスカは、少し焦っていた。
花火は衝撃と感動を届けていたが、彼にはおまけで焦燥もサービスしていた。
一発一発が打ち上がるたびに、焚き火祭りは終わりに近づいていく。
今日が、終わってしまう。
――告白すると決めた、今日という日が。
見つめ過ぎだな、と目線をずらす。
そうしてふと気がつくと、いつの間にか周りがぽっかり空いていた。ティトはおろか、エナやカラまで消えている。
話し声が届く範囲には、隣に座るセキレイしかいなくなっていた。
――――――皆、気を遣ってくれたのか……?
どくん、と心臓が跳ねる。
握った拳にじわり、汗が滲む。
二人きりで、時間が止まっていて。
なんて「らしい」タイミングなのだろう。
周りには誰もいなくて。
音すら消えていて。
愛しいひとだけがそこにいて。
――今が、その時なのか。
「――――天乃さん」
イスカはそっと声をかける。
さらりと白がなびいて、群青の瞳が瞬いた。
「なあに?」
「――えっと」
あれ。
言葉が……。
セキレイのことを意識し過ぎて、頭まで真っ白になってしまったのか。
伝えたくてうずうずしている気持ちが、直前まで悩みもしなかった言葉が、口から出る前に霧散していく。
好きな気持ちは変わっていないのに、出力ができない。頭が、働いていない。
「――どうしたの?」
セキレイが怪訝そうに首を傾げる。
――何か言わなくては。
伝えなくては……!
焦るイスカが生唾を飲み込んだ、まさにその時。
――――――どん、どん、どん。
「あっ下地くん見て! また始まったわよ!」
これまでで一番大きな、炎の花が咲いた。
歓声の中、次々と夜空を彩る大火輪。
光と音の圧が絶え間なく降り注ぐ。
「すごい、すごいわっ!」
色とりどりに染まるセキレイ、その無邪気にはしゃぐ様が、イスカの心まで彩っていく。
白一色ではなく、鮮やかな色彩へ。
固くなった頭まで、解きほぐしていくように。
……告白するということに、囚われすぎていたのかも。
イスカはふと、そう思った。
考えてみればずいぶんと自分勝手だ。花火もちゃんと見ずに、そればかり考えていて。
天乃さんも、突然言われたら困るはずだ。花火も楽しめなくなってしまうだろう。
ほら、こんなにきらきらした笑顔をしているのに。
それを僕は、邪魔しようとしていたのだ。
どどん、と地面が震えて、イスカは空を見上げた。
鮮緑の花弁が視界いっぱいに広がって、さらにそこへ新たな花弁が加わって。
咲き誇る炎の花々に、ようやく心が向く。
それはとても美しくて、そして新鮮で、イスカは自然と笑みを浮かべた。
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