091 出せない勇気と花火の始まり
好きな子とお祭りデートができて、どきまぎ幸せな二人の頭から、すっかり抜けていることがあった。
この会場は学校のすぐ側だ。住んでいる場所もばらばらなセキレイたち五人が自然に行こうとなったのは、学校から近かったという点が大きい。
――――ならば他の生徒も、同じことを考える。
「……どうした?」
いきなりぴたりと立ち止まったセキレイに、イスカは首を傾げた。左手を軸にくるりとUターンして、青い瞳がイスカを見上げる。空いている右手で胸を押しながら、セキレイは小声で言った。
「……あっち行きましょ」
「……?」
言われるままに道を戻りながら、ふと向こうを見れば。
「あぁ……なるほど」
「……まぁ来ているわよね」
見知った一団が目に留まって、イスカは納得する。
先頭にいるのは「王子」こと、大吉キリ。イスカは勝手に恋敵認定しているので、すぐに分かった。
そして彼を取り巻く、クラスを問わない数人の女子。
少し見ているだけでも、隙あらばキリへ話しかけるという感じで、誰が一番話せるかという争奪戦になりかけているのが見て取れる。
うちのクラスの大間シコもいたよなと探してみると、気が強そうなポニーテールはすぐに見つかった。
――だが。
(話しかけられていない……?)
シコは集団の後ろのほうで、キリになかなか近づけないでいるようだった。
いつもはツンとしている彼女が、今は寂しそう。
少し不憫に思ったイスカだったが、花火の時間が迫っていることもあって、その場を後にしたのであった。
「あ、二人来た!」
飛行場の入口に戻ると、すでにエナたち三人が待っていた。
ティトのシルエットがなんとなく大きい気がしたが、よく見れば両手に戦利品をたくさん持っていた。女子二人の荷物持ちにされたのだろうか。
「――まだ始まっていないわよね?」
「うん、あと5分くらいだよ! ……で、それはそうとさ」
エナがにまーっと笑って、カラとティトを振り返った。
二人が頷いて、不気味な笑みが三つ揃う。
「――その様子だと、二人でずいぶん楽しめたようだねぇ?」
「えっ…………? あ」
――――手、繋ぎっぱなしだ。
ほぼ同時に気づいて、弾かれたように二人は離れた。途端にするすると寄ってくるティト。
「うまくいったみたいだな。仲も戻ったようでなにより……というか進展してるか?」
「…………わざと二人きりにしたよね」
「当たり前だろ。何のためにここへ来たと思ってるんだ」
「開き直るな。……でもまあ、ありがとう」
気にすんな、とティトはひらひら手を振った。
……本当に、いい親友を持ったと思う。ここまでお膳立てしてもらって、お礼を言うだけでは少し足りないかもしれない。
――ティトには言っておこうか。今日、告白しようと思っていることを。
「――えっと。実は……」
イスカが口を開いた、ちょうどその時――――。
「これより、花火の打ち上げを開始いたします。メインストリート前方、やぐらの上空をご覧ください!」
キンとしたアナウンスが響いて、周りから歓声が上がった。
ざわざわと人々が動く。知り合いの元へ急ぎ戻ったり、より見やすい位置へと移動したり。
「イスカ、何か言ったか?」
「――ううん。なんでもないよ」
二人は冷えたフェンスに寄りかかる。
少し離れた所にいた女子勢が戻ってきて、ティトの横に並んだ。
きし、と反対側から音がして、イスカは隣を見る。
セキレイが小さく微笑んで、空を見上げた。
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