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009 天乃さんと初めての空

 太陽がようやく顔を見せて、朝焼けの空からオレンジ色が抜けていく、そんな中を二人は進む。

 びしびしとガラスを揺らす風は冷たいながらも澄き通っていて、だんだんと暖かくなりそうな初夏の陽気をはらんでいた。

 

 エンジンから伝わる振動が小気味よく機体を揺さぶる。緊張もだいぶほぐれてきて、セキレイはイスカに話しかけた。


「あの、下地くん」


「…………」


「……あれ、聞こえてないのかしら」


 一瞬の思考の後、セキレイは今まで電動の単座機に乗っていたことを思い立った。

 静かなモーター音と比べて、この飛行機のエンジン音は比べ物にならないほど大きい。それに機内で誰かと話すということも初めてだった。

 こういうときって、確か。


 (……あったわ、伝声管)


 ラッパに管が繋がれたようなものを手に取る。管はイスカの席まで繋がっていて、ここに向かって喋ればイスカにも聞こえるはず。

 知識としては知っていたけど使うのは初めてで、セキレイはおそるおそる声を吹き込む。


 「……下地くん、聞こえる?」


 息を多めに含んだその音は、増幅されて管を通り抜け――。


「……ふわっ!?」


 イスカを数センチ跳び上がらせた。


「あっ、……びっくりさせちゃったかしら」


「あ、ああ……何?」


 ――耳がぞわりとした。何か新しい世界が見えた気もする……。

 なんとか平静を装い、聞き返すと。


「――ええと、改めてお礼を言いたくて。あの時助けてくれて、本当にありがとう」


 丁寧な感謝が送られてきた。

 なんというか、几帳面な人だ――とイスカは思う。

 実際にこうやってやり取りしていると、セキレイが人気な理由を改めて実感する。

 

 イスカの中ではもう過ぎたことだし、もし自分が助けられた側だったとしても一度きちんとお礼をしたら終わりにすると思う。

 そういうことを疎かにしないところが彼女の人間性をもろに映し出していて、イスカは自身との違いをはっきりと自覚した。

 

 そうなると成り行きとはいえ、自分とセキレイが二人で登校しているこの状況がさらに奇妙に思える。

 関係を深めたくないというスタンスのイスカにとって、セキレイを乗せると決まった時は正直まずいと思ったが、自分とセキレイにここまで違いがあるのなら、関係は簡単には深まらないだろう。

 少し安堵しながら、イスカも返事を伝声管に吹き込んだ。


「こちらこそ、助けられてよかった」


 セキレイはふぅと一息ついて、ふと思う。

 

 (――冷たい人かと思ってたけど、悪い人ではないのよね……)


 彼女の中で、自分の印象がゼロから少しだけプラスになっていることを、イスカは知る由もない。


 そうこうしているうちに、見慣れた校舎が見えてきた。

 隣接した飛行場に、登校してきた生徒の機体が次々と降りていく。

 いつも通りの、朝の通学風景である。

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