089 二人きりのお祭り
「……やっぱりやられた」
屋台の前で、ため息をつくイスカの姿があった。
ほんの数秒、おいしそうなベイクドポテト(ガーリックバター&かりかりベーコン味)に目をとられていた隙に、側を歩いていたはずのティトたちが消えていたのである。
その隣には同じく、わざとらしい置いてきぼりをくらったセキレイがいた。こちらは別れ際に、エナとカラから幸運を祈られた。
薄暗い中、すらりとしたラインが目立つ横顔をちらっと見るイスカ。
早まる鼓動を抑えるように、ぐっと拳を握った。
――――気を使ってくれたのはわかるけど……あからさますぎるっ!
とはいえ、元々想いを伝えると決めていたのだから、この状況は願ったり叶ったりではある。
心のティトへつっけんどんにお礼を言って、イスカはセキレイに向き直った。
「……も、もう。困っちゃうわね」
眉毛をくたりと寝かせて、へちゃっと笑う。
視線がすうーっと斜めに逃げた。
「…………あやしいな……」
「ほらっ! 私たちもはぐれたら困るわよねっ!」
もしかして天乃さん知ってたの、と続けようとした言葉は、その感触で塵と消えた。
柔らかくて温かくて、細っこくてほんの少しだけ湿った指が、がちがちに固まったイスカの指に触れていた。
びっくりして首を回すと、セキレイはぽそりともう一言。
「…………嫌……?」
「――――いいや」
胸がきゅうっとなって、無理やり顔を上げる。
――覚悟を決めろ、下地イスカ。告白するんだろ!?
ふう、と息を吐いて、イスカは頷いた。そっと触れている手を、ぎゅっと握った。
手の中がぴく、と小さく跳ねた。
「…………ちゃんと握らないと、離しちゃいそうだから」
「そ、そうねっ」
細い指に再び、ぐっと力がこもった。
ぱん、と空気が弾ける。
コルクの弾が浅い放物線を描いて飛んでいき、ふわふわの塊に命中。だがそこで威力を失い、ぽろりと落ちた。
「落ちないな……」
銃口に弾を詰めながら、イスカは歯噛みする。
距離が近く、軽そうな犬のぬいぐるみを狙ったのだが、弾を当ててもなかなか倒れない。
諦めて銃を置いた隣の客と入れ替わりで、セキレイが弾を受け取る。
弾を込めてがしょんとコッキングレバーを引く姿は、白いコートを着ていることも相まって、まるで雪国のスナイパーのよう。
けれどセキレイが撃った弾も、的を揺らしただけに終わった。
あのぬいぐるみ、かなりの低重心だ。
イスカは倒せないと踏んで、残念がるセキレイに耳打ちする。
「――違うやつ狙ったほうがいいかもしれないな」
「…………でもわんちゃん可愛いのに――――あ、そうよ!」
いいこと思いついた、と口を寄せるセキレイ。
こしょこしょ、と囁く。
「――――同時に頭に……。確かに倒れるかもだけど、難しくない?」
「できるわよ、私と下地くんなら! それ以外方法ある?」
「――わかった。やってみよう」
三、二、一、ぱん、ね? 二まで私が数えるから。
頷き合って二人は銃を構えた。シンクロした二つの照星が、ぴたりとぬいぐるみの頭を捉える。
「――さん」
引き金に少し、力が入った。
「――に」
わずかに銃身が揺れる。青い眼光が鋭くなって、ズレが元へ戻る。
二人は最後のカウントを、同時に心の中でして――。
ぱんっ、とひときわ大きな音がした。
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