086 寂しさと提案
朝の空気は、まるで色彩が抜けてしまったかのように澄んでいた。
操縦桿を握りしめて、イスカは冬空の通学路を飛ぶ。
エンジン音に耳が慣れてしまったせいで、機内はやけに静かだった。
薄青色の世界に一人だけ、ぽつんと取り残されてしまったかのように。
「……はぁ」
ぐぐ、と背もたれに体重を預けた。
目線の先できらりと光るバックミラーは、空っぽの後部座席を映している。
いつもより一人分軽くなれば速度も上がるはずなのに、なんだかとてものろまに感じた。
速度計の針はいつもと同じ。ならば気分的なものだろうか。
仲よくなる前は、セキレイはいつもイスカより早く教室にいた。飛行場にセキレイの機体はなかったから、今日もそうだろう。
ついこの間までここで聞いていた、あの涼やかな声が恋しい。
単独飛行が寂しいだなんて、イスカは今まで思ったこともなかった。
「――一緒に飛んでいた期間のほうが、短いはずなのにな……」
そうぼやいて、左手のスロットルをほんの少し押し上げた。
「皆で行こうよ焚き火祭りっ!」
「標語か何かか? …………痛てっ」
ぱし、と軽く叩かれるティト。
カラが丸めた教科書を元に戻すその横で、エナがセキレイに絡んでいた。
「セッキーは予定あったりする? 焚き火祭り、学校から近いとこでやるよ!」
ないけれど……と呟きながら、ちらりと青い瞳が揺れる。
ん? とイスカが首を傾げて見せると、ふいっと目を逸らされてしまった。
――――やっぱり避けられてるのかな……。
肩を落とすイスカを横目に、エナはちょいちょいとセキレイを手招きする。
顔を近づけ、小さく囁いた。
(……セッキー、これはチャンスなんだよ)
(――――チャンス……?)
(そそ、好きバレしてないか気になってるんでしょ? ならデートしてみればいいんだよ! 前と態度が変わってるかどうかで分かるし、変わってても好意的になってたら両想いなんだから! お祭りなんて絶好の機会でしょっ)
(た、確かにそうね……)
「じゃあセッキーも行くよね! 下地も来るでしょ?」
ええっと、とどもるイスカ。その横でティトとカラが頷きを交わす。
「もちろん行くぞ! な、イスカ!」
「やった、じゃあ決まりっ!」
有無を言わせず、強引に参加させられるイスカ。
セキレイのほうをこっそり見れば、くるくると髪を弄りながらこちらを見ていた。目が合ってしまう。
「――楽しみね」
「……そうだね」
微笑んでくれたからには、嫌ではないのだろう。
イスカは少しほっとした。
「あ、そうそう下地さ。セッキーの飛行機直ったらしいけど、わざわざ別々に来ることもないでしょ? 当日は乗せてあげなね」
「「えっ」」
「しっかりエスコートしろよー」
顔を見合わせる当事者二人。
ティトがイスカの背を叩き、エナとカラがセキレイの肩に手を置く。
んんっ、と喉を鳴らして、セキレイはまっすぐ向き直る。
「……よ、よろしくね?」
「……うん、わかった。――――ふっ」
「……ふふ」
まるで初対面かのような掛け合い。
なんだか可笑しくなってきて、どちらともなく笑い合った二人であった。
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